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戦争2

「やあ兄弟。はじめまして、かな?」


身構えるキリヒトに、一人がひらひらと手を振った。


「て、てめえら何者だ!!」


そう言ってから、キリヒトはしまったと思った。

あまりにも情けない言葉なうえに、動揺しているのが丸わかりだったからだ。

平静を装いながら、キリヒトは一人ひとりをじっくりと観察し始めた。


「言ったじゃないか。兄弟、だよ」


そう言ってフードを外し、笑顔の仮面を見せた。


「何が兄弟だ、ふざけた面しやがって…そもそも俺は孤児だ、バカめ」


笑顔の男はクスクスと笑い、残骸から飛び降りた。


「そうだろうね。僕達もそうだ」


男はゆっくりと歩いて近付いてくるが、キリヒトは動かなかった。


「だが、僕たちはある種の兄弟なんだ」


男は後ろを向き、両手を広げた。


「君や僕たちに与えられた力を使いこなすには、先天的な素養が必要だ。

 生まれ持った、遺伝子というね。分かるかい?選ばれたんだよ」


男は袖をまくり、バーコードが印刷された手首をみせた。


「ただ、一つ違いを挙げるなら、僕たちは完成品で、君は…不良品だ」


キリヒトは地面に唾を吐いた。


「じゃあその完成品とやらの中に、俺とよく似た赤い目のヤツはいるのか?」


「赤い目?」


男は首を傾げ、控えている二人の方を見た。

二人はじっと動かない。


「知らないけど…知ってたとしても答えるつもりはないさ」


「そうかよ…」


下を向いたキリヒトの顔を、男が覗き込んだ。


「何だ、人探しかい?敵を目の前にして、ずいぶんと悠長なことだ。

 やはり君は不良品…」


「悠長なのはどっちだ?」


ずぶり、と男の腹にキリヒトの手が突き刺さった。


「つまらん話をべらべら喋りやがって!」


腕を引き抜き、臓物をあたりに放り捨てた。


「産まれなんざどうでもいいんだよ!

 俺は、俺の体をいじくり回したクソ共に復讐したいだけだからな!」


キリヒトはそう言って腹をおさえてうずくまった男の顔に蹴りを入れようとした。

だが、逆に足首を掴まれ振り払われる。


「なっ…!!」


「言ったよね、完成品だって。当然超再生は僕たちも持っている」


地面に叩きつけられ、キリヒトは頭を踏みつけられた。

瓦礫が辺りに飛び散る。


「自己紹介が遅れたかな?僕らは"ナンバーズ"。

 過酷な実験と訓練を耐え抜いて選ばれた精鋭さ」


笑顔の仮面を少しめくって、顔に書かれた249という数字を見せた。

かつて、キリヒトが戦った相手と同じようにひどい傷と火傷痕が顔にはあった。


「そして僕はナンバー10。名前は"ソー"。10人いるナンバーズの中で最下位の僕ですら、

 君よりも遥かに優れている」


ソーは瓦礫に埋まったキリヒトの頭を掴み、顔の高さまで持ち上げた。


「だが何故か、王は君にご執心なんだ。生け捕りは面倒だけど、

 君もそう簡単には死なないみたいだから…」


キリヒトの腕が、今度はソーの胸に突き刺さった。


「能力はあっても実践訓練は疎かにしてたようだな!」


「話の途中だというのに、不粋な奴だ。

 それに、心臓を抜かれたぐらいで僕が…何をしている?」


頭を掴まれたまま、キリヒトはガツガツと心臓を貪っていた。

あっという間に飲み込み、両腕をメキメキと変化させていく。


「…わからないのか?じゃあ、お前たちは…」


掴んでいた腕を切り裂くと、ソーは後ろに飛び退いた。


「俺とは違う能力のようだな!!」


キリヒトの左腕は唸りをあげる回転刃に変化していた。


「あれは僕の能力!!今奪い取ったっていうのか!?」


「彼の言う通り、喋り過ぎなうえにひどい油断ですよ」


「どうすんだ?新しい力を得たみたいだぞ」


驚愕するソーに、上から別の男達が言った。


「ナンバー8にナンバー9、だったらどうして止めなかった!」


上を向いて叫ぶソーに、9と呼ばれた男がため息をついた。


「出る前に自分一人で十分だとさんざん言ってたじゃないですか?」


ソーは言葉に詰まり、キリヒトの方に向き直った。


「…便利だなこれ。さて、内輪もめは終わったか?」


キリヒトは刃の大きさや回転速度を変化させながらソーへと歩み寄る。


「さっきの様子から見るに、俺の能力とは違うようだな」


ソーは右腕にキリヒトと同じような刃を出し、左手を硬質化させた。


「そして、俺より優れてるってのも…間違いなんじゃねえのか?」


キリヒトはそう言って一気に距離を詰めた。

ガリガリと回転刃同士がぶつかり、あたりに火花が飛び散った。


「ぐ…!!」


ソーは両手を使うが、片手のキリヒトを押しのけられない。


「そっちは喰って能力を奪い取れねえみたいだからな」


刃の回転速度を上げて、ギリギリとソーを押し下げる。

キリヒトはさらに押し込み、ソーの両腕ごと首を切断した。


「超再生があっても関係ねえ。再生できなくなるまで切り刻めばいいんだからよ」


左腕をさらに振り上げた瞬間、キリヒトはガクリと膝をついた。


「これをほっとくのはまずそうだ」


「気は進みませんがね」


いつの間にか高台にいたはずの二人が、すぐ近くに降りてきていた。

8と呼ばれた男が切断された部分を拾い集め、ソーを助け起こす。


「なに…しやがっら…」


キリヒトは足に力が入らず、ふらふらとその場で揺れる。

ナンバー9はフードを外し、泣き顔の仮面を見せた。


「私はナンバー9の"ビート"。何をしたかは…言うつもりはありませんけどね」


キリヒトの側に近寄ったナンバー8は、怒り顔の仮面を見せる。


「ついでに言ってやる。俺はナンバー8、"ヴラド"だ」


ふらふらとしていたキリヒトが、突然まっすぐ立ち上がった。

口から血を吐き出し、自分の前に立つ三人を見下した。


「自己紹介ありがとよ。覚える必要は無えだろうけどな」


口から溢れる血を拭い、キリヒトは手足を刃のように変化させて戦闘態勢に入った。


「舌を噛んで感覚を取り戻しましたか…この戦い、一筋縄では行かないでしょうね」


ビートの体が鎧のような甲殻に覆われた。


「数で有利に立つなんざ本当は気に食わんが、確実に生け捕るためには仕方ない」


ヴラドの両手から長い爪が伸びる。


「……僕の能力を盗るなんて許せない」


ソーの両腕が再び回転刃に代わり、唸りをあげた。

互いの攻撃がぶつかりあい、轟音が響き渡った。



キリヒトが戦う少し前、サイアとシルヴァの国境では激しい戦いが続いていた。


「撃て!!撃てーッ!!」


あちこちで機関銃が火を吹き、迫撃砲の攻撃で爆炎があがる。


「次!距離30!二時の方向!」


「負傷した!手当を!!」


人間の兵士に混ざって、物質種もかなりの数が戦っていた。

血と同じように、プラスチックで出来た兵士人形の破片があたりに飛び散っていく。


「クソ…もうすぐのはずなんだが」


双眼鏡で戦場を覗きながら、クマは呟いた。


「クマ様、あまりここに戦力を割くことはできません!

 パーズがいつ本格的に攻撃を仕掛けてくるか…」


「ああそんなことは分かっている!…だが、今は、あいつを信じるしか無い…」


突然、地響きと共に遠くの方で大爆発が起こった。

クマはそれを見て、ぐっと手に力をこめた。


「よし!やってくれたな!そこのジョー!伝令だ!全軍、攻め上がれ!」


「イエッサー!」


兵士人形は慌てて敬礼し、通信施設へと走っていった。



「チッ…3対1は卑怯だと思わねえのか?」


両腕を拘束され、もがくキリヒトが正面のビートを睨む。

ビートは仮面の割れた部分をなぞり、破片を払った。


「誇っていい。私達もここまでやられるとは思わなかった」


キリヒトを拘束しているソーは忌々しそうに顔をそむけ、ヴラドが口を開いた。


「だが、生け捕りにしなければもっとはやく終わっただろ」


その言葉にピクリとキリヒトが反応した。


「生け捕り…だと…?」


そう言ったキリヒトを、ソーは鼻で笑った。


「そうだ。僕たちはお前を殺さないようにしていたのさ…ショックだったか?」


「何でそんな面倒なことをする…グッ!」


顔に拳を打ち込まれ、キリヒトはのけぞった。


「もう少し弱っておいてもらうぞ。生け捕りは我らが父、アグ様からの命だ」


「正確には父親じゃあないけどな」


ビートの言葉にヴラドが続けた。


「さて…コイツを運ぶとするか」


ぐったりしたキリヒトを見て、腕を抑えていたソーの力が一瞬緩んだ。


「!!」


瞬時にキリヒトは拘束を振りほどき、さらにヴラドを吹き飛ばした。


「思ったより何も話してくれねえんだな…参ったぜ」


キリヒトの肌が青白い甲殻へと変化していき、髪は青白く変化した。

それと同時に、手首を打ち付けグローブを装着する。


「くっ…」


「ガォッ!!」


ビートが口を開くと同時に、キリヒトは大きく吠えた。

後ろにいたソーは慌てて耳をおさえ、ビートも腕で防御した。


「何度も食らえば、俺に膝をつかせたのが音だってことぐらいは分かるぜ。

 でかい声でかき消せばいいってこともな」


ヴラドが吹き飛ばされた方角から飛んできた物体を、キリヒトは尾で弾いた。

キリヒトはそっちを振り返って、指さした。


「お前は何か毒を仕込んでやがるだろう?音と毒のコンビネーションが絶妙で、

 正体をつきとめるのに手間どったけどよ…もう十分だ」


キリヒトは後ろで立ち上がったソーの腕をマッチ棒のようにへし折り、倒れた頭を爪で切り裂いた。


「なんだその力…!!」


ビートの言葉にキリヒトは肩をすくめた。


「てめえらも知らねえのか?俺もよくわからねえんだ」


ソーの頭は再生することなく、そのまま事切れていた。

その様子を見て、ビートは引きつった表情を浮かべた。


「超再生が発動…していない…!」


キリヒトは血のついた爪を服で拭い、死体を蹴っ飛ばした。


「これは俺もびっくりだ。だが、悪く思うなよ。先に仕掛けたのはてめえらだ」


ビートの防御をあっさりと切り裂き、キリヒトは喉元に食らいついた。

バタバタと暴れるビートの心臓を右手で掴み取り、左手で体を細切れにする。


「役に立ちそうなのは音波ぐらいか?…つっても種の割れてるモンは意味ねえか」


ビートは地面に放り出され、そのまま立ち上がることはなかった。

残りの心臓を丸呑みして、キリヒトは口の周りの血を拭った。


「さーて、あと一人だ…せっかくだから新しい力で…んん?」


キリヒトは手をブンブン振るが、変化する気配は無い。


「…あれ?」


首を捻るキリヒトの向かいで、ヴラドがふらふらと立ち上がった。

だが、そこから動かずぶつぶつと何かをつぶやいている。


「…結局は俺たちも駒ってことかよ。クソ…」


キリヒトはヴラドの襟首を掴み、ぐいと顔の前に引き寄せた。


「お前にはいろいろと聞きたいことがあるんだが」


血で塗れた爪をカチャカチャと鳴らし、血生臭い息をヴラドの顔に吹き付ける。


「きいてんのか?」


大きく口を開けて吠えようとしたキリヒトに、突然ヴラドは血を吹き付けた。


「そこの二人が死んだから、もう何したって本国に伝えるヤツはいない。

 だから好きなようにやらせてもらう」


喉をかきむしり、のたうちまわるキリヒトを見下ろしてヴラドはそう言った。


「それで、聞きたいことって何だ?俺の能力か?」 


体についた砂を払い、ヴラドは話を続けた。


「"毒血"…俺の能力につけられた名前だ」


立ち上がろうともがくキリヒトは、何も答えない。


「俺達はお前と同じ、"アブソーバー"をベースにしてはいるが、

 それぞれ適応した追加の固有能力を持っている。…お前みたいなのはいないがな」


甲殻に覆われたキリヒトの腹を蹴り、ヴラドはさらに血を吹き付けた。


「超再生や怪力は汎用性が高いため、ナンバーズ全員に組み込まれている。

 あとは…そうだな、超再生が発動しなくなる条件も…俺は知っている」


息を切らすキリヒトを、ヴラドは笑みを浮かべて見下していた。


「ここまでが俺に攻撃をいれた分だ。

 何もかも聞き出したいなら、俺を打ちのめしてみろ」


立ち上がったキリヒトに、ヴラドはかかってこいとジェスチャーをした。

フラついていたキリヒトの足が、徐々にしっかりと大地を踏みしめる。


「いいのかよ、そんなに喋っちまって?」


爪による吸血と超再生による高速の代謝によって、キリヒトの体内の毒は徐々に取り除かれていた。

だが、同時に吸血は着実にキリヒトの体力を奪っていた。


「知られたところで何か変わるわけでも無い。

 それに、逃げられるよりは情報を提供し続けた方がマシだ。」


体力の消耗を感づかれ、キリヒトは冷や汗を流した。


「じゃあ…色々と聞き出してやるか」


「来いよ」


ヴラドの全身に殺気が満ちていく。


「俺はずっと、こんな時を待ち望んでいた」


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