戦争
世界政府 大会議室
ベリルの護衛についていた男が飛び道具をアグに向かって投げた。
アグは髪でそれを巻き取り、眼の前に持ってくる。
「『シュリケン』…こんな物で。エメルの隠密、『シノビ』も噂ほどでは…」
アグはそこで、ベリルの姿が消えていることに気付いた。
その瞬間、部屋の中にガスが充満していく。
「ゲホッゴホッ!!」
スイシが大きく咳き込み、アグは両目を閉じた。
「催涙ガス…上手く隙をつかれたな。懐柔できるかと思ったが…」
「エメラルが敵になっても、こちらには十分な戦力がある」
政府の代表がモニター越しにそう言った。
アグの側にシルヴァの護衛が跪く。
「む、ナンバー7か。ヤツらはどうした?」
アグの問いに、護衛は首を横に振った。
「…追跡は失敗です。テレポートかと」
「そうか…仕方あるまい」
アグは腕の動きで、護衛に下がるように指示した。
「エメルもヤツらも取るに足らん」
そう言った政府代表の映像のノイズが少しずつ無くなっていく。
「作戦を始めよう。君たち選ばれた人間と…」
ブロックで構成された人間が映像に映し出された。
「我々、ブロックが永遠に繁栄するためのね…」
ヌイドー王国 病院
ナシャエルは呼吸器に繋がれ、ベッドに横たわっていた。
「極度の疲労だ。テレポートは人数が増えると、指数関数的にエネルギーを消費すると
以前聞いたことがある。道具も無しにやってのけたんだ。しばらく動けないだろう」
ナシャエルに布団をかけながらクマはそう言った。
「そういうものかね…変身もしてなかったようだしな」
キリヒトの言葉にクマが首を傾げた。
意味を考えているクマの肩をコランが叩いた。
「すまないが、本国に連絡させてもらえないか。一刻も早く…」
「ご心配なく、既に連絡済みです」
クマが腹から携帯を取り出し、コランに見せた。
「あ、あの、僕はどうすれば…」
慌ただしい雰囲気の中、ダラムがおろおろとコランに話しかけた。
「サイアとルヴィは有事の際、片方の国王に全権限を委譲することができる。
いい機会…とは言えんが学べ。こんなことが滅多に無いのは確かだからな」
ドアが開き、屈強な軍人が頭を下げた。
「ルヴィ国軍司令、バーミリオ=ウォール、只今到着いたしました。コラン様、ご無事で」
「バーミリオか…護衛についていたワイドは殺された。すまない…俺は何も…」
コランの言葉に、バーミリオは驚きを隠せなかった。
「ワイドが!?…いや、王を守れたのなら後悔は無いはずです。
しかし、彼ほどの男が殺されるとは…」
「ワイドは頑張ってたぜ。だが、アレは並の人間では無理だ。文字通り化物だからな」
机に足を載せ、椅子をきしませながらキリヒトは言った。
「何だ貴様は!!」
怒るバーミリオに、キリヒトは変形させた手を向けた。
「その化物の一人だよ」
睨み合う二人の間にクマが割って入った。
「そいつの非礼は俺が詫びよう。落ち着いていただきたい」
「いや…クマ様がそう仰るなら」
バーミリオは引き下がり、椅子に座った。
「で?こっからどうすんだ、クマ様よ。
戦争を仕掛けられ、ナシャエルは動けねえ。手詰まりじゃないのか?」
「作戦は、ある」
どこからともなくクマはホワイトボードを引っ張ってきた。
「ヤツらはまず国境を攻めるはずだ。だから、少し奥の前線基地を大火力で叩くことで、
国境での勝利を確実なものにする」
素早くクマは地図の上にペンを滑らせた。
「大火力?」
「そうだ。重火器を持って前線にカチこむヤツが必要なのさ」
首を捻るキリヒトにクマがペンをくるくると回しながら言った。
「そんなもん誰が「お前だよ」
ヌイドー城 格納庫
「いつの間にこんなものを…」
キリヒトは大量の火器を装着したバトルスーツを見上げていた。
その横にクマも立ち、見上げた。
「ナシャエルがこの事態を見透かして作っていたようだ。
マイクロミサイル384発、200mmミサイル6発、重ガトリング砲2門計8000発、
ラージブースター2機、マイクロブースター6機…個人用火器とは思えない代物だ」
「どうやって持っていけってんだよ」
クマが笑みを浮かべ、スイッチを入れると大きな音を立てて後ろのシャッターが開いていく。
「無人音速ジェット機を用意した。少し惜しいが、撃墜されても構わん」
「だから、こんなもん背負って戦えるかっての」
それを聞いて、再びクマは笑った。
「重さは関係ない。お前は高高度から落ちながら戦うんだからな。
トリガーは4つ。それぞれが武装に対応してるからちゃんと読めよ。
ちなみに、マイクロブースターは落下時から全開になる」
一枚の紙をキリヒトに叩きつけ、クマは後ろを向いた。
「発進は一時間後だ。せいぜい覚悟を決めておくことだ」
「おい早すぎんだろ!」
キリヒトは慌てて紙を読み、スーツの中に潜り込んでいった。
一時間後、なんとか操作を理解したキリヒトはヘルメットごしにクマを見ていた。
「よし、ちゃんと見えるな。メットがないと風圧で何も見えなくなる」
「視界が狭くて息苦しいぜ。文句を言っても始まらんねーだろうけどな」
クマは頷いた。
「そのとおりだ。作戦の最終確認をするぞ。
音速ジェットから時速4000kmでお前は高々度から投下される。
角度計算なんかはこっちでやっといたから安心しろ。
全弾撃ち尽くしたらアタッチメントを解除、それと同時に自爆スイッチが入る。
爆風の勢いとアタッチメントを蹴り飛ばす反動で着地しろ」
「滅茶苦茶だろ…死なないからって良いように使いやがるぜ」
クマはキリヒトの文句を無視して話を続けた。
「敵の全滅を確認したら回収ヘリを向かわせる。じゃあな。期待してるぜ、新人さんよ」
バトルスーツを着たキリヒトは、ジェット機へと収納されていった。
「これ、着くまでが暇だと思うんだけど何かテレビとかうおおおおおああああーーーーっ!!!」
キリヒトの言葉を待たず離陸した飛行機に、クマは手を振った。
「クソ、覚えてろあのぬいぐるみヤロー…」
音速を超えて飛ぶ飛行機の中で、キリヒトは誰にも聞こえない悪態をついた。
「もうすぐ降下地点です」
うとうとしていたキリヒトは、アナウンスで目を覚ました。
「降下まで3…2…1…」
ジェット機のハッチが開き、ロックが解除される。
轟音と共にジェット機は飛び去っていき、キリヒトは落下を始めた。
「うおっ!何て速さだ!!」
キリヒトはヘルメットを通して、自分の前方にある基地をハッキリと見据えた。
「とりあえず…ある物は全部使ってやる!!」
トリガーを引くと、スーツは大量の弾丸とミサイルを発射し始めた。
同時刻、前線基地では警報が鳴り響いていた。
「投下された高熱源体が高速で接近しています!」
「ジェット機はいい!攻撃をしかけてきている方を撃墜しろ!!」
対空砲と機銃による迎撃が行われているが、キリヒトの勢いは衰えない。
「機銃はともかく、対空砲は…よっと!かわさないと撃墜されちまうな」
雑な動きではあるが、確実に強力な攻撃を回避していく。
基地がボロボロになるころ、ヘルメット内のモニターに弾切れの表示が出始めた。
「そろそろ地面も近いな、脱出しどきか?」
キリヒトはトリガーを押し込んで、ぐるりと手首を回転させた。
すると、ロックが外れてキリヒトは空中に投げ出される。
「うわ!!」
目も開けられないような風圧の中、キリヒトは何とか体を上に向けた。
バトルスーツを思い切り蹴り飛ばし、落下の衝撃を殺そうとする。
その下で、スーツが大爆発を起こした。
「あちちちちちち!!」
爆風がキリヒトの背中を焼き、体を押し上げる。
「うわ、わ、着地しねえと!!」
落下しながらキリヒトは姿勢を何とか整えた。
大きな音を立て、ほとんど墜落といっていい形でキリヒトは更地となった基地に着地した。
「痛てて…だが、なんとかなったな」
きょろきょろと基地の跡地をキリヒトは見回して呟いた。
「生存者は無しだろ。我ながらひどいな…」
「全くだよ」
「!!」
キリヒトが身構えながら振り向くと、崩れ落ちた残骸の上に3人の人間が立っていた。




