天才村娘が魔法都市で王子に会います。
第二話。
「魔法都市…?貴方には何が見えてるの?」
「ああ。あんたは王国の人間だったな。これを持ってろ。」
ナギから渡されたのは、銃のようなもの。しかし銃口がなく、引き金もない。全体が青白い光に包まれていて、じっと見つめると飲み込まれそうだった。
「これは、銃?軽すぎるし、私の知っているものと型が違うわ。」
「それは魔法道具だ。俺の魔力が残っているから、あんたも当てられて見えるようになるはずだが。」
そう言われて前を向けば、先程までそこにあった崖が、海が、空間が。ぐにゃぐにゃと曲がって崩れていく。そして現れたのは、高い高い城壁。空に突き刺さっているのではないかと思うほどの高さだ。
「本当に城壁があったのね…」
「開けるぞ。気をつけろ。」
開けるといっても、城門などどこにもない。ただ壁がどこまでも続いていくだけ。
「開ける?どうやって?何に気をつけるの?」
リンの問いに答えないうちに、ナギは城壁に手を当てた。
「___うっ!?」
その瞬間視界が白く染まる。反射で目を閉じるが、開けているときと大して変わらない眩しさ。瞼というのはこれほどに無力だっただろうか。
「大丈夫か。気をつけろと言っただろ。」
光が弱まったのを感じ、目を覆い隠していた腕を下ろした。そして少しずつ、瞼を持ち上げていく。すると、すぐ近くにナギの顔があった。ぼやけた顔の線がだんだんとくっきりしてきて、ふと思う。
「…あら、結構かっこいいじゃない。」
「はあ!?」
ナギは耳を真っ赤にして照れた。しかしリンに何か特別なことを言った気は一切ない。
「ていうか貴方、何が“気をつけろと言っただろ”よ!私の目玉が藻塩になるところだったわ!」
「藻塩て…ははっ。いや、悪かった。」
馬車の天井を消したときとは違う、感情のこもった謝罪に少し戸惑い、そっぽを向いた。
「わ、分かればいいのよ。次からちゃんと…え!?」
気づけばそこに高くそびえ立っていたはずの城壁は跡形もなく消え、少し先の方で都が賑わっていた。だが全く音が伝わってこない。
「…どうして音が聞こえないの?」
「防音魔法だ。都にもっと近づかないと聞こえないように魔法を組んでる。門番が困るからな。」
「門番?」
ナギはぐるっと後ろを向き、柱の上にとまっているものを指差した。
「あいつのことだ。」
「…えーっと、鷹?」
金色に光るそれは、何とも表現し難い見た目をしている。鷹のような爪、くちばしだが、長い髭が生えており、そのうえ足が4本ある。
「スバル!降りてこい!」
ナギがそう怒鳴ると、それはみるみる形を変え、背の高い人間の男になった。
「お久しぶりです。ナギさん。さっきの馬車なら処理しておきましたよ。」
「そうか。まあわかってるだろうが、この方が姫だ。挨拶しろ。」
姫と呼ばれるのは、これで2回目。全く心当たりのない呼び名に違和感が拭えないリンは、それを尋ねそうとするが、何故か声が出ない。
「初めまして、姫。スバル・ディセットと申します。どうぞお見知り置きを。」
話せないばかりか、スバルが差し出した手に応えることもできない。体が全く動かないのだ。
「スバル。姫は疲れているから、もう城へ向かう。じゃあな。」
「あ、はい。姫、それではまた。」
ナギに腕を掴まれると、体が勝手に歩き始める。そしてスバルが見えなくなったころ、声が出るようになった。
「…あ、貴方!私に魔法をかけたわね!?」
「ああ。よくわかったな。」
「そりゃあそうよ。立ち去り方がおかしいもの。どうしてこんなことをしたの?」
「体の自由まで奪ったのは悪かったが、仕方ないんだ。あいつは帝王付きの軍隊長だからな。しかもあいつが門番なんてやってるってことは、帝王はもう帝都に帰ってきてる。」
「それと何の関係があるの?」
「それはまだ言えない。王子が自分で話したいらしいからな。…と、ほらもう着いたぞ。」
「…え、嘘!?」
城壁のあった場所から都に向かって歩いていたはずが、全く違う場所に変わっている。そして、目の前に大きな扉。こんなもの誰が開けられるのかと言いたくなるほどである。
しかしそれも城壁と同様、ナギの手によって簡単に光の粒となった。
「うぅ…もう!何回不意打ちで光攻撃食らわせる気なのよ!」
そう文句を言い、ナギの背中をべしっと叩く。するとナギは突然、赤いカーペットの上にひざまずいた。
「イツキ王子、只今帰還致しました。」
「王子?王子なんてどこに…」
広すぎる部屋の中を見渡すが、姿が見つけられない。壁、床、柱、柱、絵画、壁、絵画、柱、壁、階段。あ、階段。
「階段の上…いた!」
横に倒せば5人くらいは座れそうな椅子に、王子は座っていた。金髪金目の若い王子だ。
「元気の良い姫だな。ナギが女人に叩かれるとは…はははっ、面白い絵面だった。」
幼顔に似合わない大胆な笑い方。
「俺で笑うのはやめてください。」
「わかったわかった。では、リン・レジーナ姫よ。私はイツキ・ウィリアムズ・キング。帝国の第一王子だ。」
「…殿下。聞きたいことがたくさんありマス。お答え願えマスか。」
「ああ。話をしよう。そのつもりで呼んだのだ。」
第二話、完。
第三話へ続く。