天才村娘が魔法都市に連れてこられました。
第一話。
ドッカァァァン。
凄まじい爆発音で、リン・レジーナは目覚めた。
そうだ。自分は捕まってしまったのだ。今はもう王都に向かう馬車の中。どうにもならない。それを思い出す。
ボッカァァァン。
再び爆発音。何が起こっているのか。馬車の窓から外の様子を確認しようと上半身を起こすが、腕と足が縛られていて立てない。窓の位置が高すぎる。
「ちょっと、何なの今の音!どうしたの!?」
馬車を走らせているはずの男に尋ねる。返事はない。
「何よ!ねえって!」
やはり返事はない。そこでリンは気づく。この角度から男が見えないのはおかしい。まさか。
「…い、いないの?」
体を曲げて恐る恐る確認する。やはり、いない。だが馬車は動いている。それもかなりの速さで。
「嘘でしょ。」
考えろ。考えろ。揺れはほとんど全くない。整備された道。つまりここはもう王都だ。にも関わらず爆走する馬車を止める人間が誰もいない。そもそも2回目の爆発音がしてから今まで人の声が聞こえただろうか。いや、1度も聞こえなかった。いくら夜とはいえ王都にこんなに人がいないはずがない。
「王都じゃ、ない!?」
どういうことだ。王命は王城への強制連行だった。押印も本物だったし、何より自分を捕らえにやってきたのは軍隊長だ。間違いなわけが…
「姫。」
低い男の声。
「えっ?」
ばっと馬車の中を見渡すが、誰もいない。しかし明らかに中からの声だった。しかも大分近距離…ということは、上!?
「正解。」
男馬車の上に立っていた。ではなぜ自分に姿が見えるのか。なぜ中からの声だったのか。それは、馬車の天井が消えていたからである。つい先程まであった、天井が。
「悪い、どこから入ったらいいか分からなかった。」
全く悪いとも思ってないような顔の男。知らない異国の黒い服を纏っている。この国の民ではなさそうだ。
「あなた誰!?どうやって天井を消したの!?」
「…あんた、王命執行しに来た兵たちから逃げ回って暴れて無理矢理連れてこられたって聞いたけど、案外元気だな。」
「当たり前よ!村娘の体力舐めないでちょうだい!というか質問に答えて!」
「面倒臭ェから断る。そんなことより、この馬車もうすぐ城壁にぶつかるけど、いいの?」
いいわけがない。しかしこの男の言っていることは本当なのか。今それを確かめる術はない。
「飛び降りる。助ける気があるなら助けて!」
そう言った次の瞬間、リンは馬車の扉の取っ手を腕で押し、飛び出した。目の前に地面。目の前に地面。どんどん近づくねずみ色が怖くて目を瞑る。
ドゴッ。
身体に衝撃が走る。あれ、あんまり痛くない…?
「あんた、馬鹿だろ。」
「…やっぱり助けてくれるのね。」
さっきの男がリンを受け止めていた。馬車の上にいた人間が、落ちた自分を受け止めることなど不可能。そう、普通は。この男は普通ではないのだ。そんなことは馬車の天井を自分が気づかないうちに消した時点で分かっていた。
「いや、一応賢いのか。でも普通、飛び降りるなんてしない。」
「じゃあお互い様ね。さあ、質問に答えて。」
「その前に、どけ。」
男はリンを自分の上から下ろし、立ち上がった。
「俺の名はナギ・ジャクソン。あんたを盗みに来た。」
「その理由は?」
「帝国の王子の命令だ。うちの国の王子もあんたの知識が欲しいらしい。」
「断るわ。」
「それは直接王子に言うんだな。ここはもう帝都だぞ。」
「…そんなはずないわよ。私の住んでた村から王都までだって丸一日かかる。そんなに時間が経っているはず…」
「あんた、さっき自分で普通じゃないって気づいてただろ。」
「…そんなことが有り得るの。」
あっていいのか、そんな非科学的な力が。この世界に。だが現実が全てを物語っている。実際、つい先程まで乗っていた馬車は消えた。少なくとも自分には見えていない。見えているのは、地面と、崖と___海。
困惑するリンに、ナギはとどめを刺した。
「ようこそ。世界最大の魔法都市、帝都へ。」
第一話、完。
第二話につづく。