不安
おはようございます。一日獣人の子供達とふれあって気力満タンのユーリです。
今日は里の獣人さんのお引っ越しです。目の前には里の獣人さんが勢揃いしています。
「では長、引っ越し後はこの里は破壊させてもらって良いのですね?」
「はい。私らがここに戻ることはありますまい。構いませんじゃ」
退去が終わったら、里は魔法で破壊する予定です。獣人は一人残らず全滅したと偽装しなければなりません。
「まずはパナマの国境に繋いでっと」
空間をパナマ国境に繋げると、叫び声が聞こえてきました。
「な、何だこれは!」
「天変地異か?魔王の復活か?!」
繋いだ場所の付近に国境警備の兵士さんが居たようですね。呼びにいく手間が省けました。
「セティー、先触れをお願い。攻撃されないよう声かけしてからね」
「わかりました。今そちらに行きます。攻撃しないで下さいね」
本当なら鎧を着ていて防御力の高い騎士を先触れにしたいのですが、訳のわからない空間からマゼラン領の騎士が現れたら攻撃される確率が高いです。
「じ、獣人が出てきた?」
「これはセティー殿。という事はユーリ様絡みですか」
どうやら向こうにセティーを覚えていた兵士さんが居たようです。平穏に話が出来て良かったわ。
「これはユーリ様の魔法で、ツガル領の隠れ里とここを魔法で繋いでいます。ツガル領の獣人の受け入れをお願いします」
「それは大歓迎ですが……ユーリ様、何でも有りですな」
「「ユーリ様だからなぁ……」」
こら、そこの騎士二人、染々と呟かない!獣人さん達も感慨深げに頷かないで!
「里長、一時間モフモフの刑に処すわよ。早いところ移動してしまいましょう」
里長を軽く脅して移動を促します。大人は恐る恐る空間を越えていますが、子供は面白そうに何度も行ったり来たりしています。
それを見た兵士さんが安全と判断したのか、こちら側を覗いています。
「本当に空間を繋いでいるのか。とんでもない魔法だな」
「里の方達をお願いします。セティー、戻ってきて」
獣人さんが全員移動した事を確認し、セティーが戻ったので空間を閉じます。
「さて、徹底的に壊すわよ!」
氷の玉を五つ生成し、氷の砲弾を打ち出します。直径十二センチの砲弾に当たった木々はへし折れ、凍りつき無惨な姿を晒します。
「ふう、間に合ったわね」
完膚なきまでに破壊された里を見て、やっと人心地つきました。
「ユーリ様、何を焦っていたのですか?」
「獣人の討伐に森に入って二日経っているのよ。ツガルの兵が様子を見に来るかもしれないでしょう?」
もしも兵が見に来て無傷な里を見たら、私が獣人を狩っているか疑問に思うかもしれません。
まず大丈夫だとは思いますが、リスクは減らしておくに越した事は無いのです。
「冷血姫様、ご無事でしたか!」
領都に戻ると、すぐに騎士団長さんが飛んできました。
「ワイバーンにも遭遇しませんでしたし、獣人の里も壊滅させて来ました。そちらはワイバーンの襲撃はありませんでしたか?」
「あれからワイバーンは飛来しておりません。冷血姫様には本当に感謝しております」
それならここも心配無さそうですね。元々私が出しゃばる案件じないですし、離れるとしましょう。
「……冷血姫様は獣人を連れて帰り魔法の的にされているとお聞きしましたが、殲滅されたのですか?」
「流石にここから我が領まで持って帰るのは難儀しますから、現地で練習させてもらいました」
そつなく答えると騎士団長さんも納得してくれたみたいです。それ以上の追及はありませんでした。
すぐに街を出て、次なるモフモフ目指して馬車を走らせます。
「ねえ、ミリー。もしも、森に隠れ住む事になっても付いてきてくれる?」
「勿論です!でも、ユーリ様に限ってそんな事にならないと思います」
「勿論よ。ただの例えよ」
ついミリーに溢してしまいました。
ゲームの通りに進むのならば、学園の卒業まで私の身は安泰です。でも、この世界はゲームの通りに進むとは限りません。
ゲームの登場人物が絡む場面ではシナリオ通りに行動してきたので、逸脱していない筈ですが……
パナマの首脳がどう出るか分からない以上、悩んでも無駄ですかね。