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セティーの憂鬱

今回はセティー目線となります。

「ふう、出立が明日になって良かったよ。流石にこの状態はキツい」


「だよなぁ。昨日はちょっと飲みすぎた」


「今日ほどユーリ様のモフモフ欲に感謝した事はありません」


 私達に与えられた部屋で、ミリーと騎士二人が果てています。

 そう言う私も頭痛が酷いのですが、今は別の意味で頭が痛いです。


「ミリーも騎士二人も、しっかりして下さい。そんな事でユーリ様の従者として恥ずかしくないの?」


「セティーだって同じような状況じゃない」


 ぐっ、確かに私も飲みすぎたわよ。それは反省してるけど、それとこれとは別なの。


「そういう意味で言ったんじゃないわ。ユーリ様の気遣いにも気付かず、安穏としている事を言っているのよ!」


 三人は私の言っている事が分からないわようね。二日酔いで頭が回らないというのもあるのでしょうけど、これは釘を刺さないと。


「さっき、ユーリ様は出立を遅らせる理由を言われて動揺してたわよね」


「ええ。ユーリ様はブレる事がない方よねぇ」


 ミリーが即座に肯定しました。ブレない方という所は同意するわ。


「確かにブレないわ。お優しくて、獣人を労り、それを悟らせないとんでもない方ね」


 これだけ言ってもダメかしら。もう少し考えるという事をしてほしいけど、贅沢な注文かしら。


「あのね、ミリー。表情を出さないように私達を指導したのはどこの誰かしら?そして、その指導をした方がちょっと図星を指された程度であからさまに表情を変えるかしら?」


 答えは否。何年も親を、使用人を、国を騙してきたユーリ様があの程度で動揺するはずがないわ。


「じゃあ、動揺してみせたのはわざと?」


「でしょうね。あの宴会は、里の獣人と私達が勝手に始めたもの。それでユーリ様の決めた日程が遅れる事に里の者達は引け目を感じていたわ」


 だから、出立を遅らせても自分にも利があると思わせた。

 モフモフする時間が延びて嬉しいと、態度に出して里に信じ込ませた。


「ユーリ様を伝聞でしか知らない里の者は仕方ないとしても、あなた達は何年ユーリ様の側にいるのよ?」


 騎士とミリーは、揃ってため息を吐き出しました。


「そうだよなぁ。ユーリ様の演技力は、俺達が一番良く知っているのに……」


「二日酔いになっていたとはいえ、情けないな……」


 ユーリ様の演技が上手すぎるというのもあるけどね。五歳で国を丸ごと騙す演技力を持つなんて、天才という言葉じゃ到底足りないわ。


「私達はユーリ様の優しさに甘えすぎだと思うの。これから気を引き締めていきましょう」


「そうね、今もユーリ様を一人にしているし。ユーリ様の下に行きましょう!」


 ミリーの発案に反対する者はおらず、水をがぶ飲みして頭痛を無理矢理抑えました。


 まずはユーリ様の居所を確認するため里長の所に行きます。


「長、ユーリ様は今どちらにいますか?」


「おお、セティーさん。ユーリ様は子供たちと共に広間に居るはずですじゃ。」


「二日酔いで苦しむ親の代わりに、子供達を見てもらっています。あの方は聖女様ですか?天使様ですか?」


 昨日私達を案内してくれたピューマの女性が、ユーリ様を信仰しかねない勢いで聞いてきました。


 バレれば自分の身が破滅するにも関わらず獣人を助け、勝手に始めた宴会を咎めない。

 しかも、それが原因で予定が狂っても笑って許し、二日酔いの親の代わりに子供の面倒までみる。


 里の者から見れば、聖人君子のような寛大さよねぇ。崇めたくなる気持ちもわかります。


「魔力といい知能といい普通の人間とはとても思えませんが、一応人間の筈です。私達はユーリ様の下に行きますので失礼します」


 ユーリ様が産まれた時からお世話をしている使用人の証言もありますし、純粋な人間のようです。


「俺達は慣れてしまったが、本当にとんでもないご主人様だよなぁ」


「まったく。リューイ様とサシで話しておられた事もあるし、神の寵愛を受けた方なのでは?」


 その可能性は否定できないわ。


「お姉ちゃん、抱っこ!」


「あっ、ズルい!次は私が抱っこしてもらう番だよ!」


 広間の扉を開けると、五人の子供たちに懐かれとろけた表情のユーリ様が居ました。


「ふおおお、モフモフが、モフモフがぁ!」


 獣人の子供に囲まれ、揉みくちゃのユーリ様は本当に幸せそうです。

 それを見た私は、そっと広間の扉を閉めました。


「……ユーリ様、出立を明日に延ばしたりして」


 騎士が呟いた予測を、私達は誰も否定出来ませんでした。


 ユーリ様、昨日動揺したのは、本当に演技だったのでしょうか?

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