意外な対応
隠れ里のある森に到着し、山脈の方に歩く事一時間足らず。風魔法の索敵に二人の獣人がひっかかりました。
初めは見張りかと思ったのですが、道に堂々と姿を晒しているので違うようです。
更に歩く事十分、道に佇む男女が視界に入りました。騎士の二人が警戒を強めます。
こちらは危害を加えるつもりは微塵もありませんが、相手はそれを知りません。
それどころか、獣人の間では私の悪名が知れ渡っているでしょう。
今までに大量の獣人を連れ去り、魔法の的にして虐殺している事になっているのですから。
「失礼、ユーリ・マゼラン様と護衛の方で合っていますか?」
「ええ。私がユーリ・マゼランです」
ピューマ獣人らしい男女は、敵対するどころか友好的で丁寧な対応でした。
「世間では同胞を虐殺している事になっているユーリ様が、実は全員をパナマ王国に逃がしてくれていた事は聞き及んでおります。我らはユーリ様を心より歓迎いたします」
男性が口上を述べると、二人揃って深々と頭を下げました。一体、誰からそれを聞いたのでしょう?
「あなた方の気持ちは受けとりました。里はワイバーンに襲われていませんか?」
「ご心配ありがとうございます、ツガル領都の事も聞きました。しかし、我らの里は無事で御座います」
獣人さん達は無事なようで何よりです。
それにしても、ピコピコ動くお姉さんの耳が気になります。
「ユーリ様は我々獣人の耳や尻尾がお好きだとか。お触りになりますか?」
「えっ、良いのですか!」
なんと、先方からモフモフを申し出てくれました。
触りやすいようしゃがんでくれたお姉さんの耳を、遠慮なく触らせてもらいます。
「ふわぁ、柔らかくて、暖かくて、モフモフで……」
極上のさわり心地です。十人十色、全員さわり心地が違い全員極上です。
「ユーリ様、いつもの事ながらブレないですねぇ。」
「話に聞いてはいましたが、本当にお好きなんですね」
セティーとピューマ獣人の男性が呆れていますが無視です。
「ユーリ様、里に向かった方が宜しいのでは?」
「それもそうですね。続きは落ち着いてからにしましょう」
ミリーの言を聞き入れ、移動することにしました。まあ、里は目と鼻の先なのですぐに着いたのですが。
里の入り口には、数人の獣人が待っていました。
「ようこそ、ユーリ様。私はこの里の長を務めていますパウエルです」
「可愛いっ、データと実物は大違いね!」
迎えに来てくれた二人と同じピューマ獣人のご老人が口上を述べましたが、私はそれどころではありませんでした。
長の隣に立っていた女性が素早く近付くと、私を抱き抱え頭を撫で回したからです。
あまりの早業に、騎士の二人もミリーもセティーも反応出来ませんでした。
「リューイ様、ここではなんですから屋敷に移動しましょう」
「そうね、その方がゆっくりと愛でられるわね」
ピューマ獣人の男性が苦笑いと共に提案し、訳のわからないうちに話が纏まりました。
リューイと呼ばれた女性は、私を抱いたまま歩き始めます。害意は無さそうなので、なすがままにされました。
長の家に迎え入れられた私達は、応接間と思われる場所に腰を下ろしました。
騎士とセティー、ミリーは普通に座っていますが、私はリューイさんの膝の上です。
「こちらは無事なようで安心しました。領都は半壊していましたから」
「その状態で何事も無いように話しなさるか。順応力高いですなぁ」
長が呆れていますが、抵抗しても無駄ならばしない方が合理的ですから。
「わが里は、エンシェントドラゴン様がお守りして下さいましたから。ワイバーンは近寄りもしませんでした」
ピューマのお姉さんがとんでもない事を口にしました。この里に、世界最強と言われるエンシェントドラゴンが滞在しているそうです。
「ユーリ様が我らの同胞を守って下さった事も、エンシェントドラゴン様にお聞きしました。何でも、アカシックレコードとやらでお調べになったとか」
出ました、ファンタジー世界で定番のアカシックレコード先生です。
この世界の全てが記録されたアカシックレコードを閲覧出来るのなら、私がやってきた事などまるっとお見通しでしょう。
「それは凄いですね。一目で良いから姿を拝見したいものです」
モフモフでなくても、一度で良いから見てみたいです。さぞかし神秘的で神々しいのでしょうね。
「えっと……」
「あの、ですね……」
里の三人は奥歯に物が挟まったような、もどかしい雰囲気です。リューイさんは相変わらず私を愛でています。
やっぱり、エンシェントドラゴンともなると簡単にはお目通り出来ないのでしょうね。