ヘイトが溜まった理由
仲間を撃墜されたワイバーンは、左右から降下して攻撃してきました。サッチ戦法は確かに有効ですが、私には通用しません。
氷の玉から雨のように弾丸が発射されると、先程のワイバーン同様落ちていきました。
「簡単に落ちたわね。学習能力が無い相手で良かったわ」
一匹目と同じように、降下して攻撃するだけなら簡単に対処できます。
「ユーリ様、普通はワイバーンに狙われたら逃げるしかないのですよ?」
「弓矢で迎撃しても、矢が刺さらないので時間稼ぎにもなりませんから」
セティーとミリーに、呆れ半分に諭されました。
「でも、魔法使いを集めれば撃墜出来るでしょう?」
「ユーリ様のように連射出来る魔法使いなどいません!」
「いても、無詠唱では直ぐに魔力が尽きます。何十人も集めなければ、蹂躙されて終わりです」
どうやら、ワイバーンは結構手強い相手だったようです。相性の問題ですかね。
「ワイバーンを落としてくれたのは、あなた方ですか!」
バカな話をしていたら、領都から鎧を着た騎士の一団がやってきました。
「ワイバーンを退治したのは、こちらのユーリお嬢様だ。我々はマゼラン家の者だ」
マゼランの名を聞いた騎士達は、膝を付き頭を下げました。
「高名なる冷血姫様にお助けいただき、誠に感謝しております。まずは騎士団の本部へとご案内致します」
領主の館ではなく騎士団の本部に通す意味がわかりません。しかし、ここで質問するよりは移動してからの方が良いでしょう。
「ただ今領主様がご不在な為、こちらにお通し致しました。ワイバーンから街を救っていただき、ありがとうございました」
団長さんと思われる騎士の口上の後、並んだ騎士さんが一斉に頭を下げました。
「皆さんの感謝の気持ちは受けとりました。でも、街が壊滅の危機に瀕しているのに領主様が不在なのですか」
本来街の危機に対して陣頭で指揮を執り、街の安寧を守るべき人が不在とはこれいかに。
「ご領主様は、中央に援軍を送ってもらうと馬車で王都に行かれました。ご令嬢も一緒です」
ならばヒロインは無事なのね。嬉しいような、嬉しくないような複雑な気分です。
「しかし、滅多に山から降りないワイバーンが街を襲うとは……災難でしたな」
「はあ、それなのですが……」
うちの騎士が同情すると、ツガルの騎士達はばつの悪そうな顔で何かを言いたそうにしています。
暫し待っていると、意を決した団長が口を開きました。
「我が領の騎士がワイバーンの住み処を襲いまして。恐らくその報復ではないかと」
「はあ?ワイバーンを襲うって、そいつは正気か?」
空を飛ぶワイバーンは、剣ではまず勝ち目がありません。まあ、弓矢や魔法があっても勝てないそうですが。
そんなワイバーンに態々戦いを挑むとは、その騎士は自殺志願者だったのでしょうか?
自殺志願者なら、他人に被害が出ない死に方で死んで欲しいものです。
「お嬢様がワイバーンの皮でできたバッグを所望されまして。我が領は裕福ではないので、とても購入する資金はなく……」
「買えないなら、材料を調達してきて自分達の手で作れば良いと考えたか」
団長の言葉を、うちの騎士が引き継ぎました。ヒロインもヒロインですが、ワイバーンを狩るという発想をした安直な騎士も問題ですね。
「領都を襲うワイバーンはあの三匹だけですか?他にも居たりはしませんか?」
「我々にはワイバーンの個体識別が出来ないので絶対とは言えませんが、あの三匹だけだと思います。いつも三匹で来てましたから」
日本軍方式ですか。空戦なら四匹で編隊を組んだ方が効率的なのですが。
「ならば私達は当初の予定通り獣人狩に向かいます」
「では、護衛を同行させますので……」
「途中ワイバーンが襲ってくるかもしれませんよ。人数が多いと守りきれませんから」
余計な仕事をさせられたストレスを、里の獣人さんをモフる事で解消したいのです。それの邪魔になる騎士の同道など許容できません。「守るべき我々が守られるのでは本末転倒ですな。どうかご無事で。そうそう、ワイバーンの素材は……あれ?」
「急ぐのでこれで失礼します。復興頑張って下さいね」
撃墜されたワイバーンは、既に空間魔法で回収済みです。
騎士は持って帰れない素材の購入を言い出そうとしたのでしょうが、渡してやる義理はありません。
持ち帰れない事で足元を見て買い叩くでしょうしね。
「お嬢様、いつの間に回収を?」
「獣人の里がワイバーンに襲われていないか心配だわ。先を急ぐわよ!」
バカなヒロインのせいでモフモフに被害が出ていたら、ヒロインの首から下を氷漬けにして王都の広場で晒してあげましょう。
里が無事なら良いのですが。兎に角、里へと急ぎましょう。




