フラグは回収されるもの
枢機卿来襲から十日、私は王都から西進しまだ見ぬモフモフを求め旅をしています。
西に向かってはいますが、偉いお坊さんもいなければ、目的地でお経を貰う予定も御座いません。
なお、勇者の処刑は恙無く執行されました。
枢機卿が教会騎士団を率いて勇者の奪還に来たり、警備していた第二騎士団に阻止されたり、その争いの最中枢機卿のヅラが飛んだりといった事は些細な事です。
王城での件は隠す事なく公表され、光神教はその評判を大きく落としました。
特に、一部の特殊な性癖の方々からは敵認定をされたとか。
「評判を落としたとはいえ、流石は最大勢力。しぶとく残ってるのよねぇ」
「私は宗教よりもユーリ様の方が恐いです」
ちょっとミリーさんや、こんなに可愛い幼女が恐いとはこれいかに?
自分で言うのも何ですが、悪役令嬢なので顔はかなり良いのですよ。
「姿形ではありません。五歳で超国家組織である冒険者ギルドを潰し、八歳で国で最大の勢力を誇る宗教を傾かせる。そんな方は貴女だけです!」
何を仰るミリーさん。モフモフの為ならギルドや宗教の一つや二つ、スパッとサクッと潰します。
「まあ、普通じゃない事は認めるわ。ミリーには私の怖さを骨の髄まで味わって貰いましょうか?」
「えっ、ユーリ様!先程の発言は撤回致します。だから、お手柔らかに……キャァー!」
逃げ場のない狭い馬車の中、思う存分ミリーをモフり倒しました。
夕暮れになり、馬車を停めて野営の準備をします。大型テントを設置し、テーブルと人数分の椅子を出せば終了です。
「ユーリ様の魔法は、本当に反則ですね」
「便利なんだから良いじゃない。細かい事を気にしちゃダメよ」
便利で楽が出来るなら、それに越した事はないと思います。 夕食は手を抜いて、暖かいまま収納されていた出来合いの料理で済ませます。
「ユーリ様、ツガル領まで遠征なされるのは理由がおありですか?」
「ツガル領で捕まった虎獣人の一族を覚えているでしょ。彼等から残っている獣人の情報を聞いているのよ」
早くに助けに行きたかったのですが、お父様の許可が出ず行けなかったのです。
「でも、今で良かったかもね。移動魔法を覚える前だったら、連れて帰るのが大変だったもの」
ツガル領はマゼラン領からかなりの距離があるので、何十人も連れて帰るのは大変な苦労をする筈です。
「目的地は、ツガル領の奥にある山脈の麓。深い森の中に隠れ里があるらしいわ」
ツガル領の奥にある山脈は広く険しく、その向こうに国はありません。
スエズ王国の端の端であり、人の往来もあまりない辺鄙な領地です。
「ユーリ様、ツガル山脈といえばワイバーンの生息地。護衛が我ら二人だけでは戦力に不安があります」
「空飛ぶトカゲなど、私の魔法で撃ち落とします。心配はありません」
トカゲごときに、私のモフ欲を止める事など出来はしません。
「ユーリ様の魔法なら、エンシェントドラゴンが来ようと平気ですわ。それに、山脈にワイバーンが居るからといって、麓まで来るとは限りませんから」
「エンシェントドラゴンってこの世界で最強よね?流石に相手出来ないわよ!」
神にも匹敵するとまで言われているドラゴンなんかに会いたくはありません。
私はごく普通の、モフモフに囲まれて暮らしたいだけの辺境伯令嬢です。
「そうだな。いくらユーリ様でも、ワイバーンを引き寄せたりはしないよな」
「勇者や光神教の例があるから、油断は出来ないと思うが……」
ミリーのフォローにも、二人の騎士は不安げです。そして、キッチリとフラグを建設してくれました。
どのみち、ここまで来て引き返すなどあり得ないのでツガルの領都目指して旅を続けます。
途中盗賊や魔物の襲撃を受ける事もなく、平穏にモフりながら進む旅でした。
「ここ、ツガルの領都で合ってますよね?」
「地図ではそうなっています」
セティーの呟きに、ミリーが力なく答えました。
「ユーリ様がワイバーンを惹き付けるかもとは予想したが……」
「まさか、既にツガルの領都がワイバーンに襲撃されてるとは思わなかった。賭けは不成立だな」
目の前のツガル領都の上空には三匹のワイバーンが羽ばたき、時折急降下して建物を壊していました。
門を守る門衛など居る筈もなく、開け放たれた門の向こうには無人の町並みが見えます。
見晴らしのよい道に居る私達をワイバーンが見落とす筈もなく、一匹が降下してきました。
「援降下攻撃とは、見くびられたものね」
馬車から降りて、左右に氷の玉を浮かせます。
「十二時の方向、速度二百。CIWS作動!」
二基の玉から発射された氷の弾丸は、容赦なくワイバーンに突き刺さります。
五秒もせずにワイバーンは落下、砂埃を巻き上げ墜落しました。
「さて、チャッチャとトカゲを狩ってモフりに行くわよ!」
仲間を撃墜され、残りの二匹は私を敵認定したようです。
たった二匹で私に勝てるとでも思っているのでしょうか。
その慢心、命で購ってもらいましょう!




