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枢機卿

 勇者を片付けた私は、気の向くままにモフモフを求めて諸国を漫遊……とはいきませんでした。

 王妃様の命で王都に留め置かれたからです。そして今日、留め置かれた原因と対面です。


「一応勇者だからなぁ」


「任命した以上、光神教の面子もあるでしょうからね」


 王宮に向かう馬車の中、お父様と溜め息つきつつ愚痴を溢します。

 私のストレスはマッハで溜まり、モフられ続けたセティーとミリーのやつれ具合は使用人が心配する程です。


 そんな彼女らの為に、使用人の賄いを越える食事が二人には提供されているとか。

 生け贄には死なれたら困ると言うことでしょうか。結果的に二人の食事が良くなっているので良しとします。


 いつもの謁見の間に入ると、常連のお偉方が並んでいました。

 陛下の前には、見事に太ったオッサンが。豊かな銀髪ですが、少々違和感を感じます。


「おお、ユーリ嬢待っていたぞ!」


「ユーリ・マゼランお召しにより参上致しました」


 いつもの通りの挨拶を交わしましたが、お父様は無視ですか?

 辺境伯当主であるお父様が主で、その娘である私は従であるはずなのですが。


「早速だが、その者は光神教の枢機卿だ。勇者を釈放しろと言っておる」


「我らが任命した勇者様を処刑するなど、言語道断!貴国は神に逆らうおつもりで?」


 光神教では、偉い順に教皇・枢機卿・司祭・助司祭・神父・神父見習いとなります。

 大体の者は助司祭止まり。司祭以上になろうとすれば、金とコネが物を言うのです。


 そこに信仰心は関係ありません。これで神の教えを説く者を自称するのですから、どこまで厚顔無恥なのでしょうか。


「勇者は罪のない辺境伯令嬢を殺害しようとした。その時の記録はそちらにも提出した筈だが?」


「そんな物、でっち上げでしょう。敬虔なる神の使徒を罪人に仕立て上げるなど、神敵と言われても仕方のない行為ですぞ!」


 うん、典型的な宗教家ですね。自分の意思は神の意思と思い込んでいます。

 こういう輩は面倒です。正論が通じませんからね。


「枢機卿、あなたは神託を受けた事はおありで?」


「有史以来、神託を受けた者はおらぬそんな事も知らんのか。これだから物を知らぬ子供は……」


「では、勇者を神が認めたとどうやって確認されたので?」


 私の質問が意外だったのか、キョトンとして動かない枢機卿。

 可愛い獣人さんならまだしも、太った醜いオッサンがそんな仕草をしてもキモいだけです。


「勇者を神が認めたかどうか、誰も神の御意志を確認されていないのですよね。なのに、何故神が勇者を認めたと?」


 こんな事は基本だと思うのですが、今まで誰も突っ込まなかったのでしょうね。


「そ、それはだなぁ、神の代理人たる教皇様と我々枢機卿が吟味を繰り返してだなぁ」


「任命したのは神ではなく人だと認めるのですね?ならば、あなた方は神が認めたと民を欺き神を騙った事になりますが?」


 宗教団体の寄る辺は、信仰する神の威光。それを捏造したと言われれば、屋台骨が揺らぐでしょうね。


「神が御認めにならないのならば、何らかの天罰が下るはず!それが無いことが、神が御認めになった証左なのです!」


「そうなのですか。神の御意志に逆らった場合、神罰が下ると。それが無ければ、神の御意志に沿うと言うのですね?」


「その通りである。神は全てを見通しておられます」


 主張を肯定され、得意満面な枢機卿。


「ならば、勇者を投獄した現状神罰が無いので、神の御意志に沿っているのですね」


「は?」


 自分の主張を逆手に取られ、唖然とする枢機卿。そんな事でよく信者を騙してこられましたね。


「陛下、枢機卿の言によれば、神の御意志に沿わない場合神罰が下るそうです。勇者を処刑する事が神の御意志に逆らうのならば、神罰が下り処刑は叶わぬでしょう」


「ユーリ嬢の言う通りであるな。勇者の処刑は予定通りに行うものとする」


 普通ならば神罰を恐れるのでしょうが、投獄しても神罰が下らないという状況証拠があります。

 ならば勇者を処刑しても神罰は下らないのでは?という空気が謁見の間を支配していました。


「陛下、そんな小娘の言を信じなさるので!」


「それは違うぞ枢機卿。勇者が神に認められているのなら、勇者を処刑など出来ない筈であろう?神の御意志に沿わねば神罰が下るという、そなたの言葉を信用したのだ」


 私ではなく、枢機卿を信用したのだと言われれば反論は出来ません。

 陛下の裁定が下った以上、勝負ははっきりとつきました。

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