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とある黒豹獣人の憂鬱

パナマ王国の官吏視点です

 皆さんこんにちは。私はパナマ王国の王宮に勤めるしがない文官です。


「次の本を頼む」


「殿下、少しお休みになられては?」


 大人でも読むのを躊躇するような分厚い本を読み終え、次の本を要求されたのが私の仕える殿下です。


 貴重な狐獣人である殿下は、ご両親と他国へのお忍びのご旅行中に消息を絶ちました。

 ご両親は病没。護衛の狼獣人二人に守られ隣のスエズまでたどり着き、そこで官吏に追われたそうです。

 偶然に偶然が重なり、危機を脱した殿下はこの王都まで帰還。体を癒すと魔法に勉学にと励んでおられます。


「そうは言っていられない。あの方は私の遥か先を行っている。肩を並べて立つためには努力あるのみだ」


 殿下の意思に押され、錬金術の応用に関する学術書を渡す。枕にするなら丁度良い高さの本だ。

 私なら五秒で熟睡するであろう本を、黙々と読み進める殿下。


 生活魔法の効率化や使えないとされていた魔法の活用法を見出だし、殿下の名は国中に轟いていらっしゃる。

 そんな殿下の横に並び立てる令嬢を探す方が苦労するのですが……


 弱冠八歳でそれだけの偉業を果たし、尚も自らを高める努力を惜しまない殿下は、幅広い年齢の令嬢から狙われている。


 血筋は最高レベルで頭脳は断トツ。庇護したくなる柔和なお顔に、身分を気にしない気さくで優しいお人柄。

 これで放っておかれる筈がないのです。


 そんな超完璧な殿下にも、唯一と言える欠点が存在します。


「殿下、また新たな同胞が助けられ、王都に到着いたしました」


「なに、すぐに行く!面会の準備を!」


 噂をすれば影。その欠点が、厳密には欠点により送り込まれてきた者達が到着したようです。


「しかし殿下、今回は同胞のみならず人間も含まれております」


「何故に人間が?姫が人間を送り込むとは、余程の理由があるのであろう?」


「はっ、その人間は同胞を匿っていた事が統治者にバレたようです。かの国に居ては罰せられる為同行させたようです」


 我らが同胞を助けてくれていたなら、人間であろうとも受け入れる事に反対は出ないでしょう。


「そんな理由なら、その人間は我らの同胞も同然。面会し詳しい話を聞きたい」


「畏まりました。そのように手配致します。」


 同胞の到着を知らせてきたアフガンハウンドの文官は、一礼すると去っていった。


「またもや同胞を救ってくれたか。かの姫には感謝してもしきれない」


「誠に、その通りでございますな」


 私だって、姫には感謝をしている。なにせ、姫が居たからこそ殿下は無事にこの国へ帰還する事が出来たのだから。


 面会用の部屋へと移り、今回助け出された者達との面会を行う。


 これをどこまで信じろと?集落を覆う氷のドーム?そこから放たれる氷の攻撃?仕舞いには空間魔法による大人数の転移だと?

 その一つでも実現不可能な笑い話にしかならない。それを全て真実と認めろと?


 百歩譲って大人数による合同魔法で実現したというなら、信じる努力をしよう。

 しかし、それをただ一人の術者が行使した等と信じられるか!

 おまけにその術者が八歳の幼女だと?世間で流行りの空想魔法小説でもそんな常識外れな設定は書かないぞ!


「流石は姫だな。私もまだまだ修練が足りない」


「は、はあ。左様でございますなぁ」


 満面の笑みで法螺話を信じた殿下に、私は生返事を返す事しか出来なかった。


 お願いですから殿下、そんな妄想話を信じないで下さい!殿下は将来、この国を背負う方になるのですから!


 ……と忠言出来れば良いのだが。気弱な私には到底無理で。


「姫の婚約者として恥ずかしくないよう努力せねばな。魔法の特訓を倍にするぞ!」


「殿下!それ以上は倒れますぞ!」


 あらゆる美姫が選び放題なのですから、人間ではなく獣人の姫と番になり跡継ぎを……

 聞き入れてくれないのでしょうね。


 せめて、殿下が成人する頃には心変わりされている事を期待しましょう。

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