実力行使
「今日の件は、国王陛下に報告すると共に各々の家に正式に抗議をさせて頂きます。謂れの無い罪を私に着せ、断罪しようとしたのです。これだけの証人がいるのですから、隠す事は出来ませんよ?」
今回の騒動、理は私達にある。一応この会場は密室と言えるので、会場内の全員が口裏を合わせれば私達親子に罪を着せる事は出来る。
でも、それをしたら次はどうなるか。次の断罪劇でも証人の立場に立てるという保証は何処にもない。
万が一、断罪される立場になったらどうなるか。答えは簡単で、破滅するのみ。
そんな未来を選択する者はまともな貴族には居ないので、彼らの敗北は確定している。
「確かに、これが報告されたら俺達は終わりだろう。王太子殿下は分からんが、俺は良くて廃嫡最悪病没と言う名の暗殺で終わる」
あら、ノキーンさん。名前の通りに脳筋かと思ったら、意外にも頭が回るのですね。
「だがなぁ、だからと言って『はい、そうですか』と諦める訳にはいかないんだよ!」
ノキーンが懐から小さな笛を取り出す。大きく息を吸い込むと、笛をくわえ息を一気に吹き出した。
ピーヒョロロロロー
笛の音がパーティー会場に響く。それと同時にドカドカと喧しい足音が会場外の廊下からの届いた。
鎧兜に長剣装備の、標準的な近衛騎士団。鍛えられた精鋭が50人程扉を乱暴に開けて乱入してきた。
「備えあれば憂いなし。もしもの時の備えは、常に心掛けるよう親父に仕込まれてたからな」
「ノキーン、お前は本当に頼りになる奴だ!」
「本当よ!そこで転がってるのよりも余程役に立つわ!」
うん、フォール君全然役に立ってないもんね。と言うか、居ること自体を忘れてたわ。
これから戦闘になりそうな気配だけど、魔法は封じられてるから彼は居ても何も出来ないわ。
「ふははははっ。こんな事もあろうかと、と言う奴ですよ!一番隊から三番隊は会場内の制圧。四番隊はレイナと王太子殿下の護衛。五番隊は不届き者を懲らしめてやりなさい!」
「ノキーン、調子に乗ってるわね」
「お前に熨されて良いところ無しだったからな。無理も無いだろう」
呆れていたら、お父様からの突っ込みが入りました。そう言うお父様も、今まで存在感無かったですよね。
「こちらに向かってくるのは十人か。一人で五人倒せば終わるな」
「計算ではそうですけど、無手で大丈夫ですか?」
「ふっ、ヘナチョコ騎士団と違い、国境で戦いを強いられる我らを舐めるなよ?」
ヘナチョコ騎士団と言われて怒ったのか、一人の騎士が突進してきました。
お父様は左に半歩ずれて突き出された剣をかわすと、冑に守られた顔面に右ストレートをお見舞いしました。
銀色に輝くフルフェイスヘルメットは無惨にひしゃげ、首は百八十度回転しています。
「ほら、剣も手に入った。態々届けてくれるとは親切な騎士殿だな。礼を言わせてもらおう」
「お父様、剣は必要無いのではないですか?それと彼、お礼を言っても多分聞いていませんよ?」
あれでまだ生きていたら、私は戦いを放棄して逃げ出しますよ。
いくらこの世界が剣と魔法のファンタジーな世界だと言っても、ゾンビやスケルトン等のアンデッドは居ないんです。
「親子揃って化け物が!突出せずに複数で対応しろ!」
このまま各個撃破出来れば楽だったのですが、ノキーンが余計な事を言ってくれました。
「あまり近寄っちゃダメよ!その女、外見に反して近接もこなすから!」
ノキーンに続き、レイナまでしなくて良い入れ知恵をしてくれました。
実戦を積んでいないとお父様に揶揄される近衛騎士団ですが、毎日厳しい訓練を欠かしていません。
魔法が封じられているという事もあり、騎士団には余裕があります。
逆に私達は劣勢に立たされました。包囲され、チクチクとリーチの長さを生かして突いてきます。
お父様は奪った長剣で、私は愛用の鉄扇で捌いて致命傷を防いでいますが、段々と細かい傷が増えていきます。
「あら、顔色が悪いようですけどお加減が悪いのではなくて?」
「最近忙しくて、寝不足なのよ。家に帰って休ませて貰えるかしら?」
レイナの嫌味に冗談で返します。女優に体力は必須なので、この世界でも鍛えてきたつもりです。でも、流石に厳しくなってきました。
「残念だけど、あなたが家に帰る日は来ないわ……永遠にね」




