今度こそ突入
全員ががんとうを持ち、足下を照らしながら行軍します。
本来なら周囲の警戒を怠る愚行ですが、風の魔法で広範囲を警戒している私がいるので問題ありません。
「二時の方向樹上、敵斥候一人!」
いつもの扇を振るい、氷のつぶてを四つ放ちます。四肢に命中したつぶては分厚い氷の枷となり、いきなり付けられた重りに対応出来ず落下しました。
うちの騎士が素早く接近し、落ちたムササビ獣人を確保しました。
「見張りはあなただけかしら?」
「……」
無言を貫くムササビ獣人さん。やはり仲間を売るような真似はしませんね。
「少なくとも、ここから里までは見張りはいないみたいね。お生憎様、魔法で探知すれば闇は意味がないのよ」
驚く表情が正解だと語ってますね。
「魔法すげぇ!万能じゃないか!」
「あれ、ユーリ様が規格外だからな。他の魔法使いも出来ると思うなよ?」
感嘆する兵士に、うちの騎士が釘を刺しました。否定は出来ないのですが、何か釈然としません。
里は木の上に作られたツリーハウスが集まって出来ていました。
もう深夜な為、どこの家からも灯りは見えません。
「逃げられても面倒だわ。ちょっと派手にいくわよ」
ボーリング玉くらいの大きさの氷玉を四つ作り出します。
一つは私達の背後に、一つは里の向こうに、残りは里の左右に飛んで行きました。
着弾した氷の玉から、氷柱が伸びていきます。里の中央上空でぶつかった柱から、今度は薄い氷の幕が伸びて氷のドームが完成しました。
「これで逃げ場はありません。呆けてないで狩りを始めますよ」
里ごと閉じ込める魔法に、一同は呆然としていました。騎士の二人は魔物を凍らせた魔法を見ているのだから、そんなに驚かなくても。
愛用の扇を一振りすると、氷のドームから氷の弾丸が里の周囲に着弾しました。
「な、なんだ?敵襲か!」
「地震だ!大ナマズが暴れたか!」
着弾の衝撃に気付いた獣人が、次々とツリーハウスから出てきました。
「私はユーリ・マゼラン。皆殺しになりたくなければ、大人しく投降しなさい!」
風の魔法に乗せ、里中に響くよう叫びました。
「冷血姫様、叫ぶのなら金属鎧の音はしても大丈夫だったのでは?」
「逃げられないようにしてから叫ぶのと、逃げ場があるのに察知されるのは大違いよ」
兵士の突っ込みに、素っ気なく答えます。そんな事もわからない脳筋ですか。
獣人達は各々武器を持ち、抗戦するつもりのようです。暗いので氷のドームに気付いていないようです。
「あなた達は既に詰んでいるわよ。上を、周囲を見てご覧なさい」
夜目が効く獣人はその意味に気付き、夜目が効かない者は変わらずこちらを睨んでいます。
「あなた達に逃げ場は無いわ。そして、勝ち目も無いのよ」
ドームから弾丸が打ち出され、数人の獣人の手足が氷の枷に囚われました。
「何処からでも氷の弾丸が狙ってますわ。大人しく投降したら如何です?」
「魔法なら、術者を直接潰すまでだ!」
ベンガルタイガーの獣人さんが、地を蹴り突進してきました。
しかし、地中から生えた氷の壁に激突し盛大に頭を打ちました。
「随分と豪快な音がしましたが、大丈夫ですか?言い忘れていましたが、ドーム以外からも魔法は発動しますのよ?」
「そ、そういう事は早く言ってくれ……」
余程痛むのか、頭を抱えうずくまるベンガルタイガーの獣人さん。
敵対する相手に、手の内バラす人間はいないと思うのですが。
「因みに、背後の家を狙い打つ事も可能ですが、実演してみせましょうか?」
「いや、我々は投降する。だから女子供には手を出さないでくれ」
マウンテンゴリラの獣人さんが武器を落とし降伏を宣言しました。他の獣人さんもそれに倣います。
「では、一人残らず出てきて下さい。一人陣地に戻って護送用の馬車を手配して下さいな。四十人分で足りるわね」
氷のドームを一部溶かし、兵士を一人伝令に出します。その間に投降した獣人さんが家々を周り、全ての獣人さんが出て来ました。
「男性には手枷を嵌めます。子供を預かりますから、逃げようなんて思わないで下さいね」
男性の獣人さんに手枷を嵌め、足の枷が付いた獣人さんは溶かしておきます。
「あっという間に終わった……」
「これまでの苦労は何だったんだよ?」
兵士さん、ちゃんと奇襲をかければこんなものです。上司がアホだと下が苦労するのは、何処の世界でも変わらないのですねぇ。




