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ベーリング領

 王都の脱出劇から三年、時折来る商人が連れてくる獣人さんをパナマに連れていく日々が続きました。


 我が領には獣人さんは居らず、王都も根刮ぎ脱出済みです。残りは他領に隠れ住む獣人さんなのですが。

 他領に出掛ける事を、お父様が許してくれませんでした。


 その理由は国内の全冒険者ギルドが潰され、領地持ち貴族はその後始末に奔走しているからです。

 辺境伯令嬢が訪れるとなれば、歓待する必要があります。私がそれを望まなくてもです。

 あっ、隣のダーダネルス領は、ロリコンに会いたく無いので領都をスルーしてます。お父様黙認なので問題ありません。


 三年経ち、漸く冒険者ギルドの代替組織が安定したので他領へのお出かけの許可が出ました。いつもの四人を連れて遠征に出発です。


「ユーリ様、残りの同胞は隠れ里を築き暮らしていると聞きます。パナマに連れていかなくとも良いのでは?」


「拠点の位置が割れていれば、何れ物量に押されるわ。冒険者ギルドを潰した影響が薄れたから、領主が本腰を入れたらマズイわ」


 監視網を築けば、獣人さんへの協力者なんてすぐに炙り出されます。

 今迄は騎士が魔物や盗賊の対応を全てやっていたからそちらに人を回せなかったでしょう。 でも、今後はそうはいきません。


「獣人の里で完全に自給自足出来るのなら凌げるかもしれない。だけど、まず無理でしょう。少なくとも塩は商人から買う必要があるわね」


 岩塩なんて気の利いた物が、各里にあれば狩りと採取で自給自足出来るでしょうけど。


 まずは北にある隣の領地、ベーリング領に入ります。ここには三十人規模の隠れ里が抵抗を続けているそうです。


 ベーリング領都の門前には、街に入るためのチェックを受ける商人や護衛が列を成していました。

 私の馬車はそれを無視して門へと向かいます。


「その馬車止まれ!獣人が馭者なんてふざけた馬車だな!」


 王都ではメイド服の狼娘であるセティーとミリーは有名で、門もほぼフリーパスになっています。しかし、ここではそうはいきません。


「我々はマゼラン家の騎士である。この馬車ゃには、ユーリお嬢様がお乗りだ。門を通してもらおう」


「冷血姫様だと?獣人狩りで有名な方が、何で獣人を馭者にしているのだ。可笑しいではないか!」


 護衛の騎士が前に出て名乗りをあげましたが、門衛の兵士は信用しません。


「冷血姫様の馬車?」


「ああ、そう言えば、ストレス解消用に二人の狼獣人を置いてるって聞いたな」


「そうだ、あの娘だよ。俺、一度王都の門で見たぞ!」


 並んでいた商人達が話だし、それを聞いた門衛の顔が青くなりました。


「ほ、本当にユーリ・マゼラン様の馬車であらせられますか?」


「だからそうだと言っている!」


 騎士が即座に答えると、門衛は後方三回転一回捻りをきめて後ろに跳び、着地と同時に土下座をきめた。


「も、も、も、申し訳ありません!どうか、どうか氷像にするのだけはご勘弁を!私には家に二人の子供と三人の愛人と五人の隠し子が………」


 あの程度の事で氷像にするつもりは無かったけど、門衛の家族構成はちょっと無視出来ないかも。


「ユーリ様、この領の門衛ってそんなに愛人囲える程お給料良いのですかね?」


「これと言って特産もない子爵領だし、何かしらやってる可能性は高いわね。領主様に会ったら聞いてみようかしら?」


 氷像は免れたものの、人生終了のカウントダウンが始まってそうな門衛を後にベーリングの領都に入る。


「思ったより寂れてますね」


「王都や、うちの領都と比べちゃダメよ」


 王都は国の中心だし、うちは辺境伯家の本拠地ですから。ここは領都と言っても子爵領だから仕方ないです。


 街中を進み、子爵様の領主館に着きました。森の中の館と同レベルのお屋敷です。


「これはこれは冷血姫様。ようこそ、我がベーリング領へ!」


 門衛から連絡が行っていたのでしょう。ベーリング子爵自ら玄関の前で出迎えてくれました。


「領主様直々のお出迎え、恐縮です」


 応接室に通され、ソファーに腰を下ろします。子爵様、目に見えて分かるほど動揺してますね。

 まあ、冒険者ギルドを潰し、王都の獣人を一掃した人間がいきなり訪ねて来たのですから当然です。

 この領にいる獣人を連れていく為に来ただけなので、緊張する必要は無いのですけどね。

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