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誇りと優しさ

「今日はこの辺で野営しましょう」


 四台の馬車が半円を描くように停車する。馬車から降りた虎の獣人さん達は、食材を馬車から降ろしたり薪用の枯れ枝を集めに行ったりと即座に仕事に移った。


「固い馭者台で、体が痛くなっていないですか?」


「平気よ。気分も高揚してるしね」


 無事に獣人さん達を救出出来た達成感と、彼らをモフれる期待に私の精神は天井知らずの上昇を果たしています。


「さて、獣人さん達は狭い馬車に押し込まれていたから、治癒魔法をかけておきましょう」


 まずは女子供が乗った馬車に向かいます。比較的頑丈な男性は後回しです。


「一人づつ出てきて頂戴。私の魔法を受けてもらうわ」


「弱い女子供を的にするとは!俺が身代わりになる!」


 馬車の格子を揺らしスナメリ獣人の男性が叫びます。獣人さん達は、本当に仲間思いで優しい人ばかりですね。

 獣人さんの優しさに触れ、口の端が上がります。


「私が受けるわ。だから、他の人達は見逃して!」


 メイド服を着たお姉さんが、私の前に進み出ました。足が微妙に震えています。

 恐怖を抑え、自ら犠牲になる。狼獣人の誇りの高さを如実に表している行動ですね。


「流石は誇り高き狼獣人さんです。その決意に敬意を表し、あなたに初めに受けてもらいましょう」


「ケイ、ケイ!くそぉ、俺が!俺が代わりに受けるから、娘を見逃してくれ!」


「頼む、頼むから彼女を止めてくれ。俺の命でも何でも差し出すから!」


 父親らしい狼獣人さんが叫べば、ウォンバットの獣人さんも自らを差し出し助けようとします。


「落命すら厭わぬ獣人さんの絆、本当に尊いわ。でもね、それは聞き入れられないわ」


 ケイさんに触れると、観念したのか膝をつき目を閉じました。


「ケイ、ケイ……くそぉ」


 娘を助けたくとも助けられない、無力な自分に絶望し崩れ落ちるお父さん。

 魔法が発動し、ケイさんを白い光が包みます。


「はい、終わったわ。どこか痛い所はあるかしら?」


「「「「へっ?ええ~っ!」」」」


 死んでしまうと思われた娘さんが、死ぬどころか傷一つなくピンピンしています。

 当人も、体を手で擦り無事な事に戸惑っていました。


「ぷっ、あっはっはっは!」


「驚くよなぁ。うん、普通そうなるよ!」


 見守っていた虎の獣人さん達は大爆笑。当人達からすれば、命を無くすかという瀬戸際だったので笑い事ではないのですが、作戦が成功し気が緩んだのでしょう。


「え?私、生きてる?生きてるの?」


「そりゃ生きてるわよ。治癒魔法をかけたのですもの。次の人、早く治療したいから来て頂戴」


 固まる獣人さん達を、早く来るよう促します。


「私が行くわ」


 双子の片割れのお姉さんが来てくれました。先程と同じように治癒魔法をかけます。


「本当に治癒魔法なのね……」


「信じて頂けましたか?全員を治療したいのでお早くお願いします」


 始めの方はおっかなびっくりという感じでしたが、人数をこなすにつれ怯えは消えていきました。


 無事に全員を治療し終わる頃には、虎の獣人さん達も全員戻り食事の支度も終わりました。


「色々聞きたい事もあると思いますが、まずは食事にしましょう。説明はそれからです」


 いくつかのグループに分けて焚き火を囲み、質素ながらも温かい食事を食べます。


 獣人さん達は食べ終わると、私の周囲に集まりました。


「まずは肝心な事から言おう。スラムでの説明で人間の協力者がいると言ったよな。その人がユーリ様だ」


 虎獣人の長がばらすと、ざわめきに包まれました。

 獣人狩りの先鋒たる私が獣人を逃がす協力者と言うのですから、当然の反応ですね。


「正確に言えば、協力者ではなく首謀者だがな。俺達虎獣人は、ユーリ様の依頼で助けに来たんだ」


「俺達は奴隷商に一族丸ごと捕まり、ユーリ様に引き渡されたんだ。しかし、ユーリ様は俺達をパナマに連れていってくれた。その恩を返すため協力を申し出たんだ」


 長の説明を、他の虎獣人さんが補足しました。


「じゃ、じゃあ、本当に俺達を助けに来てくれたのか?」


「そうだ。間抜けにも騙されたのは、騎士団の連中と王都の住民だって訳だ!」


 長が答えると、虎の獣人さん達は愉快そうに笑いだしました。他の獣人さん達も、釣られて笑いだします。


 緊張が解けて、獣人さん達の表情が穏やかになりました。やはり獣人さん達には笑顔が似合いますね。

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