忘れ物は何ですか
国境に向かう馬車の中、白虎君を思う存分にモフりました。もうマレーバクさんの二の舞はごめんです。
「ユーリ嬢、今日はお客が多いですな」
「ええ。この調子で、どんどん獣人さんを連れてきますよ」
目標は、スエズ国内の全獣人さんをパナマに戻す事です。
「……本当に、同胞を逃がしてくれているのか!」
「ああ、魔法で治療したうえで連れて来てくれている。俺達も報いたいが、表立っては何も出来なくてなぁ」
虎の獣人さん達が、国境守備の兵士さんに確認をとっていました。
「私は連れてくる獣人さんをモフれるから満足よ。気にしなくていいわ」
前世からの夢でしたからね。それが叶うのですから、この上望む事はありません。
「しかし、助けてもらって何もしないというのもなぁ。同胞を助ける手伝いを出来ないだろうか?」
手伝いをねぇ。……無い事も無いけれど、根回しが必要だし危険な目に遭うかもしれないのよね。
「あると言えばあるわ。でも、危険な役目だし助ける獣人さんから恨まれるわよ?」
「同胞の助けになるならば、危険など平気だ!それに、人間の貴女が我ら獣人の為に冷血だと言われているんだ。それに比べればなんという事もない!」
長の発言に、虎の獣人さん全員が首肯し手を挙げ賛意を示しました。
「皆さんの覚悟、しかと受け止めました。お手伝いをお願いします」
虎の獣人さんが同胞を想う気持ちに負けました。
白虎君をまたモフれるからじゃないですよ。
「この国の王都には、スラムに隠れている獣人さんが居ます。彼らに繋ぎをとり、ここに連れてきたいと思います。但し、表向きはこの子を人質に取った私が、あなた達を使って狩るという事にします」
虎の獣人達に繋ぎを取らせ、スラムの獣人の居場所を把握して騎士団と連携し捕縛。
私が全員引き取り、この森で魔法の的にしたという流れになります。
「信じた獣人の人達を裏切り、騎士団と共に捕縛するのですから、酷く罵られるでしょう。それでもやりますか?」
「確かに恨まれるでしょうな。しかし、その分裏事情を話した時が楽しみです。全力を尽くします」
こうして、虎の獣人さん達はまた私達と行動する事になりました。
国境守備の兵士さんには、この事をパナマの中枢に伝えてもらいます。
次は人数がかなり増えると予想される為、パナマにも受け入れ体制を整えてもらった方が良いからです。
作戦の内容を話し吟味した結果、戦闘力の高い男性十人と白虎君に協力してもらい、残りの人達には受け入れ体制を整えてもらうことになりました。王都に連れていくのに、三十人は多すぎます。
本来なら白虎君も残したかったのですが彼がやる気になっている事と、虎の獣人達を従えている方法として協力してもらう事に。
貴重な白虎の子を人質に虎の一族を脅迫しているというストーリーです。
「これで打ち合わせも一通り済みましたね。では、白虎君の耳と尻尾をモフるとしましょう」
お仕事は一段落したので、これからはお楽しみの時間です。
「ユーリ様済まない。我ら獣人の尻尾は、家族と許嫁者以外には触らせないのだ。その子は虎の長を継ぐ者、勘弁してもらえないだろうか?」
「えっ、そんな仕来たりが?」
セティーとミリーを見ると頷いています。彼女らの尻尾をモフっても何も言われなかったのは、同性だったからなんですね。
「そ、そんな……魅惑の尻尾が」
「あ、あの、ユーリ様。私の尻尾でよろしければどうぞ」
うちひしがれていたら、初めに傷を治したお姉さんがおずおずと尻尾を手に絡めてくれました。
「ありがとう。ふわぁ、芯があるのに柔らかくて、モフモフの手触りが優しくて。セティーとミリーの尻尾とは、また違った魅力が……」
犬系の二人と違った、猫系の尻尾を両手で撫で回します。
同行してもらう虎の獣人さん達は、全員男性です。つまり、暫くはこの尻尾をモフれなくなります。
「ユーリ様、きりがないのでそろそろ……」
「そうね。名残惜しいけど、いつまでもこうやっている訳にはいかないものね」
泣く泣く尻尾を離し、馬車に乗り込みます。当然、白虎君は隣に座ってもらいます。
森の館に帰る道中、何かを忘れたような、喉に魚の骨が引っ掛かったような妙な感触がしました。
「何か、大事な事を忘れてる?でも、特に無いような……」
結局、思い出せないまま森の館に到着しました。
思い出せないなら、大した事は無いわよね。それより、王都の獣人さん救出に全力を出さないと!




