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トラ・トラ・トラ

 王都の獣人を救う妙案が出ないまま一週間。またもや獣人を売りに来た商人が来ました。


 なんと三十人ほどの集団です。しかも、全員虎の獣人さんでした。ベンガルタイガーのようです。


「これだけの値で引き取っていただけるとは。ツガル領から運んできた甲斐がありました」


 ホクホク顔でお金を受けとる商人。ツガル領は結構遠い領です。名が売れた事が良い方に作用したようですね。


「そうそう、コレを押さえておけば奴等は反抗出来ません。中々に便利ですよ」


 最後に商人から渡されたのは、私よりも小さな虎の獣人。しかもアルビノです。


 商人が帰り、残された虎の獣人達は憎しみを溢れさせた視線で私を見ています。


「早速森で私の魔法を受けてもらいましょうか。この子と、ついでにそこのも一緒の馬車に乗りなさい」


 ギリギリまで反抗したのか、全員が何処かに傷を負っています。その中でも重傷と思われる二人を指して同じ馬車に乗るよう命令しました。


「彼女はまともな立つことも出来ない、どうする気だ!」


「女子供を質に取るとは、恥ずかしいと思わないのか!」


 周囲の獣人が重傷者を庇うように動きます。


「あなた達に反抗されたら面倒ですからね。弱った者だからこそ、人質の意味があるのよ。さあ、馬車に乗せなさい」


 これ見よがしに白虎の子を抱き上げると、苦渋にまみれた表情で重傷者を私の馬車に乗せました。

「それで良いわ。セティー、ミリー、今日は人数が多いから荷馬車は二台よ」


 セティーとミリーが荷馬車を運転し、騎士の一人が私の馬車を運転します。

 直衛の騎士が一人になりますが、問題はないでしょう。


傷ついた女性二人を対面に、白虎の子を隣に座らせ馬車を出します。

 白虎の子はモフモフで柔らかく、怯える表情も可愛くて永遠にモフれそうです。


 しかし、今はモフっている場合ではありません。女性二人を治療しないと。


 席を立ち、片方の女性の傷に触れます。痛んだのか怯えたのか、触れた瞬間に身動ぎしましたが無視して魔法を発動します。

 ビデオの早送りのように傷が塞がっていき、終いには跡形も無くなりました。


「えっ、痛みが……何で?」


 治療を終えた女性は、現状が把握出来ずに軽く混乱しています。

 説明は後回しにして、もう一人の女性も治療しました。


「こ、これは治癒魔法ですか?何故私達を治すのですか?」


 二人目の女性は冷静でした。受けた傷が消えた事を確認すると、すぐに質問をしてきます。


「説明は後でします。とりあえず、貴女方に危害を加えるつもりは毛頭もありません。安心して下さい」


 今しても、他の人達にも説明する羽目になります。一度で済ませてしまいましょう。


「もうすぐ目的地に着くと思います。それまでこの子を抱っこしても良いですか?」


 戸惑いながらも頷いてくれたので、白虎の子を膝に乗せて撫で回しました。


 森の館に着き、白虎を抱いて馬車を降ります。続いて女性の二人が降りると、獣人からどよめきが起こりました。


「おい、ターシャとフラウは重傷じゃなかったのか?」


「さっきまでは自分で歩く事もキツい状態だったはずだが……」


 まさか獣人を狩って魔法の標的にする私が治したなんて、予想も出来ないでしょうね。


 白虎の子を降ろすと、立ち尽くす獣人の一人に触れ治癒魔法を発動します。


「なっ……傷が消えてる?!」


「治ったら向こうに行って。誰を治したか解らなくなるから」


 混乱した虎の獣人は、言われるままに女性二人の方に行きました。

 わけワカメ状態の獣人さんを、次々と治癒していきます。


 一時間もすると、全員の治癒を終える事が出来ました。


「我々の傷を治していただき、ありがとうございます。しかしこれはどういう事で?噂では、魔法の的にされると……」


 白虎の子を抱いた獣人さんが前に出てきました。この群れの長ですかね。


「皆さんには、私の魔法の的になっていただいたのですよ。攻撃魔法ではなく、治癒魔法ですけれど」


 噂は間違えていませんよ。誰も治癒魔法の的にはしないなんて言ってませんから。


「ユーリ様は、獣人を狩る振りをしてパナマ王国に逃がしているのです。これまでにも何十人と逃がしてきました」


 セティーの言葉に半信半疑な獣人達でしたが、治療してもらった自分達という証拠があります。


「皆さん、馬車に戻って下さい。パナマに送りますから。あっ、この子は抱いていたいので一緒の馬車にお願いします」


「あっ、ああ。構いませんよ」


 半ば放心状態の男性から白虎の子を受け取りました。柔らかい毛に頬を当てると、至福の感触を味わえます。


「噂はあてにならないって良く言うけど……」


「ここまで噂と実像がかけ離れてるのも珍しくないか?」


 誰かの呟きに、全員が頷きました。


 誰が何と言おうと、モフモフだけは止められません!

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