風が吹けば
あれから二ヶ月。時折獣人を連れてくる商人以外には会わずに過ごしました。
カードについて話を聞きたがった商人達は門前払いをくらい落胆しましたが、獣人の引き取りなら会えると聞き挙って獣人を集めているようです。
思わぬ所で獣人集めが進みました。風が吹けば桶屋が儲かるという奴ですね。
今日の商人は獣人を連れて来たようです。
いつもの通り獣人を引き取り、礼金を渡します。今日の獣人さんは、マレーバクの夫婦みたいです。
「随分酷い怪我をしてるわね。これではちょっと魔法を撃ったら死にそうだわ」
「申し訳ありません。中々捕まらなかったので、攻撃が激しくなりました」
「まあ良いわ。すぐに森に連れていって、的にしましょう。セティー、ミリー、早く準備を」
セティーとミリーをせかし、馬車の準備をさせます。商人は空気を読んで帰りました。
私は専用の馬車に、マレーバク獣人の二人は荷馬車の荷台に乗せ森の館に急ぎます。
「もうすぐに楽になるわよ。私の魔法を受けなさい」
馬車から降りてマレーバク獣人に近付くと、怯えて後ずさり逃げようとします。
しかし、ここは荷馬車の荷台。逃げるスペースなどなく、すぐに私に捕まりました。
「手間をかけさせないの。……これで完治ね」
奥さんの傷を癒すと、二人とも呆気にとられ固まりました。
「ユーリ様、楽しいのはわかりますが、少々趣味が悪いですよ」
そう言うミリーも、笑いを堪えているじゃないですか。人の事は言えないですよね。
「お、俺達は魔法の実験台にされるんじゃないのか?」
「ええ。実験台になってもらったでしょう、治癒魔法の実験台に」
堪えきれなくなったミリーが、大爆笑を始めました。狐に摘ままれたような表情の二人に、セティーが事情を説明します。
二人には私の馬車に同乗してもらい、パナマの国境へと向かいます。
道中今までの暮らしを聞きました。二人は王都のスラムに隠れ住んでいたようです。
「じゃあ、まだ沢山の獣人の方が王都に居るのね」
「はい。逃げたくても逃げられず、支援してくれる方の僅かな援助で暮らしています」
表だって動く事も出来ず、王都の門を抜けられないので逃げる事も出来ず。
苦しい生活を強いられている獣人さんは、まだ多くいるそうです。
「冷血姫様の噂は聞いていました。残酷に獣人を狩り、魔法の的にする残虐な姫だと」
「それが、このようなお優しい方だとは……噂を広めた人を殴りたいです!」
私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、それを利用してますから。
馬車は何事もなく国境に着き、警備の獣人さんたちを発見しました。
馬車から降りて、夫妻を引き渡します。
「本当にお世話になりました。このご恩は一生忘れません」
「私が好きでやっている事です。気にしないで下さい」
二人に手を振り、森の館へと引き返します。
「王都に残る獣人……何とか全員パナマに送りたいわね」
「かと言って、あちらはユーリ様から逃げるでしょう。パナマに送ると言っても、信じないでしょうし」
ミリーの指摘はもっともです。獣人を買っては魔法の的にする私を信用する獣人なんて、王都には居ないでしょうね。
「何か手立てを考えないと……」
「そう言えばユーリ様、今日は体調でも悪いのですか?」
「そんな事は無いわよ?」
体に不調はないし、マレーバクの夫妻を助けられたから気分も良い。ミリーは何でそんな事を言い出したのかしら。
「あの夫妻をモフらなかったので。ユーリ様がモフらないなんて、今日は槍が降りますね」
「ああっ、王都の話に気を取られていたから!セティー、馬車を戻して!」
「ユーリ様、今更戻っても、もうあの夫妻は移動してますよ」
くっ、あの真ん丸な耳をモフり忘れるとはこのユーリ、一生の不覚!
「ミリー、この喪失感を埋めて頂戴!」
「え、あ、ちょっと、ユーリ様!んっ……セティー助けて!」
ミリーに抱きつき、豊富で柔らかい胸部装甲に顔を埋めます。
そして両手で最高の手触りの耳をやわやわと揉みし抱きました。
「ミリー、余計な事を言わなければ良かったのよ。自業自得と諦めなさい」
「そ、そんなぁ!あっ、ユーリ様、顔を動かしちゃダメ!」
森の館に着く頃には、私はモフり忘れたダメージをすっかり回復出来ました。
代わりにミリーが精魂尽き果てたように動かなくなり、護衛の騎士二人がまともに立てなくなりました。




