別れ
「お二方には、この二人の審査をお願いします。不自然だったら、容赦なく言って下さい」
第三者の目で見て不自然さが無いようにしないと。騎士の二人は、私情が入りそうな気がするんです。
セティーとミリーに惹かれている気配がチラホラ……
二人ともタイプは違えど、かなりの美人さんですからね。でも、そのモフモフは私のです。
「適当なタイミングで手を打って。それを合図に折られた演技をしてね。それと、娘さんはこちらに」
騎士に演技の合図を出すように指示し、フェネックの娘さんを私の横に座らせました。
ちょっと怖がってますね。さっきの魔法が怖かったのかな?
「怖くないからね。大丈夫、怖くないから」
手を握って、害意がない事を示します。微弱な治癒魔法を発動して緊張を緩和し、手から腕、肩から頭へと撫でる手を移動させました。
騎士が手を打ち、セティーとミリーが顔を歪めます。
「セティーさん、少しわざとらしいです」
「ミリーさん、反応がずれてます。もう少し早く」
フェネック夫妻は真剣にアドバイスをしてくれています。
その間、私は娘さんの小さな耳をフニフニと揉ませてもらいました。
「ユーリ様が確認しなくて宜しいので?」
「痛みを我慢するって設定だから、多少不自然でも言い訳出来るわ。だから二人に審査を頼んだのよ」
私が納得するまで指導したら、何日かかるかしらね。演技の道は果てしないのよ。
まず、テレビか舞台かで同じ内容の芝居でも演技は変わる。
舞台では大袈裟な動作でないと観客に伝わらないけど、テレビではアップになるので大袈裟な演技は出来ない。
だから舞台がDVDになると、不自然に大袈裟な演技が目についたりするのです。
セティーとミリーは獣人で反射神経が良く、演技に入るタイミングはすぐに完璧になりました。
我慢の演技も、自身の経験から思い出したのかすぐに出来るようになり、その日は全員毛布にくるまって就寝。
かまくら状に氷のドームを作ったので、見張りは必要ありません。
消滅させた熊程度なら一晩攻撃され続けても擦り傷一つ付かない強度だと言うと、娘さん以外の全員の表情が消えました。
翌日の馬車の中は、昨日と違いほのぼのとした空気に包まれました。
私が味方だとわかってくれたので、親子の緊張が抜けたからです。
「それでは、パナマまで送っていただけるのですか?」
「国境までですけどね。流石にパナマと交戦しているマゼランの者がパナマに入る訳にはいきませんから」
娘さんに隣に座ってもらい、頭を撫でながらお父さんに答えます。
「しかし昨夜は驚きました。ユーリ様は火属性もお使いになられるのですね」
「セティーには見せてなかったわね。炎も氷と同じ程度位なら使えるわ」
「ユーリお姉ちゃん、凄いんだ!」
娘さんは純粋な称賛の目を向けて誉めてくれました。その可愛さに、衝動的に抱き締めてしまった私は悪くない。
「ファナと大して変わらない年でしょうに、ニ属性であんな大魔法を……」
「ユーリ様は色々な面で非常識な方ですから……」
そこな成人女性の大人二人、しみじみとため息をつかないの!ファナちゃんの純真さを見習いなさい。
「ファナちゃんというのね。可愛らしい、素敵な名前だわ」
「お姉ちゃんの名前も素敵よ」
ファナちゃん、妹として連れて帰れないかしら。或いはこのままパナマに亡命して……
「はぁ、ファナちゃんが可愛らし過ぎるわ」
「流石はユーリ様、うちのファナはパナマで一番、いや、世界で一番の可愛さですから!」
お父さん、あなたとなら美味い酒が飲めそうです。前世でも今世でも飲んだ事無いけど。
「はぁ……うちの人、あれが無ければ良い旦那なんだけど」
「ユーリ様も、あの病気が無ければ……」
だから成人女性の大人二人、心底呆れたという風情のため息をつかないの!
そんな楽しい馬車の旅も、終わりの時が来てしまう。翌日の昼にパナマとの国境に到着し、巡回してきたパナマ兵にフェネック一家を引き渡した。
ファナちゃんが何度も振り返り、手を振るのを見えなくなるまで見送った。
「ユーリ様、寂しそうですね」
「ファナちゃん、ユーリ様になついていましたからね」
しょんぼりする私を、柔らかい物が包みました。
「ユーリ様には私達がついています」
「私達は絶対に離れませんよ」
前からセティーが、後ろからミリーが抱き締めてくれました。
彼女達は命を賭けて私を守ろうとしてくれた。命を賭けて私を逃がそうとしてくれた。
私は一人じゃない。ならば私も命を賭けて彼女達を守ろう。




