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想像力

「セティーとミリーには、痛みを堪える演技を覚えてもらいます」


「痛みを堪える演技、ですか?」


 おうむ返しに質問するセティー。他の皆も首を傾げている。娘さんが超ラブリーです。そんなに私の理性を壊したいのでしょうか。


「そう。先程の魔法に合わせて痛みを堪える演技をしてほしいのよ。そうすれば、私がセティーの腕を折ったと錯覚させられるでしょう?」


 どういう魔法か知らなくとも、腕から何かが折れる音がして苦痛を堪える演技をされれば、何が起きたか想像はつくでしょう。


「痣に続いて彼女らが虐待されていると錯覚させるのですね。しかし、そこまでする必要があるのでしょうか?」


「そうです、このままではユーリ様が悪者になってしまいます!多少は仕方ありませんが、そこまでなさらなくても!」


 騎士とミリーの言う通り、獣人逃がしている事だけのカモフラージュなら必要ないのよね。


「これはやらなければならないのよ。ミリー、魔物が骨も残さず焼ける炎の魔法って想像出来る?」


「骨も残さずなんて……凄い魔法なのでしょうけど、想像もつきません」


「じゃあ、他の人は?」


 全員揃って首を振りました。娘さんが超超ラブリーです。一旦中断して娘さんをモフるって……ダメですよね。


「皆想像出来ないのね。丁度魔物が一匹来てるわね」


 風魔法で張っておいた接近感知の結界に、熊の魔物がかかりました。

 身長は四メートル程、肩から脇腹にかけて三対の腕が付いています。


「あれは……クレイジーグリズリー!ユーリ様、お逃げ下さい!」


 接近する魔物を見て、セティーとミリーが私の前に出ます。

 騎士二人も剣を抜き、その前に立ちはだかりました。


「お母さん……恐いよぅ」


 娘さんが怯え、泣きながらお母さんに抱きつきました。


「可愛いフェネックの子を泣かした罪、万死に値するわ。四人とも、前を開けなさい」


 少々殺気が漏れたようです。四人は即座に左右に別れました。


「毛先一筋すらこの世に残しはしないわ、消え去りなさい!」


 掲げた手のひらには、長さ三十センチ程の炎の針が生まれました。

 その色は誰もが見慣れた赤ではなく、純粋な白。


 手を振り降ろすと、針はクレイジーグリズリーの胸に命中します。

 着弾と共に巻き上がった炎の柱は、クレイジーグリズリーを包み込み一瞬で消えました。

 その跡には、下草が円形に焼けて消えた地面が残るだけでした。


「ちょっと魔力を込めすぎたかしら。まあ、足りないよりは多い方が良いわよね」


 七人とも彫像のようにクレイジーグリズリーがいた場所を見ています。


「魔物は倒したわ。もう心配ないわよ」


「倒したと言うよりは……」


「消滅させたが正しいような……」


 そこの騎士二人、細かい事を気にしちゃいけません!


「話を戻すわよ。セティー、魔物が骨も残さず焼ける炎、想像つくかしら?」


「もちろんです。先程の炎、脳裏に焼き付いています」


 ちょっと震えているけど、そんなに魔物が怖かったのかしら。


「人は言葉で言われただけだと、具体的に想像出来ないのよ。でも、実際に見たものならば容易く想像出来るようになるわ」


「それは今の炎で実感しましたが、それと演技にどんな関係が?」


「口でいくら『獣人を虐げるのは可哀想だ』と叫んでも、想像出来なければ共感は得られないのよ。でも、私がセティーやミリーを虐げている光景を見たら?」


 セティーやミリーが腕を折られた光景を見た人は、虐げられる獣人を想像出来る。

 そして、獣人を自分に置き換えれば、それがどんなに理不尽な事か気付いてくれる。


「幼い頃から獣人排除を刷り込まれたこの国の民は、口で言っても獣人蔑視は直らない。あなたたちも、セティーとミリーが私に虐待されているのを見るまでそうだったでしょう?」


 騎士二人は、自分達もそうだったと気付き項垂れました。

 それは教育が悪いからそうなったのであって、あなたたちのせいではないのよ。


「ユーリ様は、獣人差別を根本から無くそうと……」


「ユーリ様、私達に演技を教えて下さい!必ずやマスターしてみせます!」


 セティーとミリーのやる気が凄いです。彼女らのスイッチを乱打してしまったようですね。


「二人とも、怪我をした事はあるわね。その時を思い出すの。演技は経験に裏打ちされればリアルになるわ」


 役を掴むには、体験をするのが一番。体が覚えるという奴です。

 人形の役をやるのに体に竹を巻いて動きを制限したり、妖精役をやるのに投げられるテニスボールを避けたり。色々やったなぁ……

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