誤算
「聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた!俺達危なかったんだな!」
商人が顔を合わせれば、眉を潜め。
「まだ五歳なのに、私達の為に王城で貴族達に訴えたって!」
「上位貴族なのに、平民を思って涙ながらにでしょ?聞いてて泣いちゃったわよ!」
女達は井戸端で集まってわいわいと。
「統括マスターの圧力に 涙を流し耐えつつも 幼い体を震わせて 民の為にと訴える 健気な姿に貴族達 民を守ると立ち上がる」
吟遊詩人達は新たなるネタをここぞとばかりに歌いまくり、あちこちで群衆からの拍手喝采とお捻りを集めまくった。
「……ユーリ、私に変わって当主やって王都に詰めてくれないか?絶対に私より適任だろう」
「女性が貴族家の当主になど、余程の理由が無ければ無理ですわ」
皆様ごきげんよう。噂が王都中に広まり、屋敷から出るのも難渋しているユーリです。
あの後王城での会議はすぐに終了となり、各貴族は冒険者ギルド取り潰しと新組織立ち上げのために解散しました。
国王陛下も率先して指示をだし、忙しく動いているそうです。
王妃様は何故か体調を崩したとのこと。てっきり呼び出されると思ったのですが。
王子は全員に忘れられ、夜中に目覚めてわめき散らしたそうです。
あの会議のあと直ぐに王都ギルドが閉鎖され、何事かと集まった人々に騎士が次第を説明しました。
話は瞬く間に王都中に広まり、冒険者ギルドと密接な関わりがある商業ギルドは特に衝撃を受けたとか。
話を聞いた商業ギルドのマスターが、王城に直談判に来たそうです。
しかし私の話を再現し、冒険者ギルドが組織ぐるみで盗賊行為をしていたと立証されたと言われれば反論も出来ず。
存続させるなら、今以降冒険者ギルドで一件でも盗賊行為があったら商業ギルドもグルと見なすよ?とまで言われたら引き下がるしかないでしょう。
商業ギルドからの情報拡散もあり、事の詳細は人々の知るところとなりました。
そこで私には予想も出来なかった事態が発生します。
前回私が王都に来たとき、騎士を氷漬けにして吟遊詩人のネタになりました。
あれからまだ一ヶ月足らず。そんな時に新たなネタを提供してしまったのです。
冷血姫様は公正で、権力におもねる事なく正義を貫く。
魔法という力だけではなく、騎士やギルドにも正義を通す聖女のような方だと祭り上げられてしまいました。
通常ならば、王家や他の貴族は突出して特定の人物が名声を得るのを嫌います。
しかし、私は王子の婚約者で、将来王家に入る予定なので名声が上がるのは大歓迎。
他の貴族にしても冒険者ギルドを潰す切っ掛けにして提案者が民衆の支持を得れば、誰に遠慮もなく冒険者ギルドを潰せます。
民の暮らしを支えてきた冒険者ギルドを潰しのに非難されるどころか応援されるのですから、喜んで話を広めているようです。
「娘の方が優秀だからってのは駄目かなぁ」
「駄目に決まっています。辺境伯家の当主が五歳児に劣っているなんて戯れ言、冗談でも言わないでください。大体、私は王家に嫁ぐのですよ?」
将来起こる断罪が成功しようと失敗しようと、私があの王子に嫁ぐ未来などありません。
でも王子の婚約者である身では、王家に嫁がないなど口が裂けても言えませんから。
「そうは言うがなぁ、あの場に居並んだ貴族でユーリより優れた者が何人居たか……」
「現実逃避をしても無駄ですわ。王城でのお仕事、頑張って下さいね」
私の父親と言うことでお父様が武官を纏め、文官はマラッカ伯爵が纏めて冒険者ギルド取り潰しを行うそうです。
お父様の義父という立場を主張し、義孫の為にと纏め役をもぎ取ったらしいです。チャッカリしてますね。
まだなお愚図る父を宥め、王城に向かわせようとしていたら来客がありました。
客間に入ると、白い髭を蓄えた執事さんが直立しています。
「マゼラン辺境伯令嬢ユーリ様、王妃様よりお茶会の招待状を渡すよう申し渡されました。こちらに御座います」
王城から来た執事さんが、王家の印で封じられた封筒を恭しく渡しました。
受け取った私は、後ろに控えていたメイドからペーパーナイフを受け取り招待状を確認します。
「ご招待、ありがたくお受け致します」
返事を聞いた執事さんは深く一礼すると、馬車に乗り帰って行きました。
「明日の昼にお茶会をするそうです。行って参りますわ」
「王妃様は体調を崩された筈だが……大丈夫なのだろうか?」
招待状が届いた以上、断るという選択肢はありません。
王妃様の体調は気になりますが、私にはそれを知る手だてがありません。
お父様は王城に行っているのですから、情報を入手しやすいと思うのですが。
期待するのは無茶でしょうかね。




