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ぬるげー

 冒険者ギルドの廃止。それは魔物が跳梁するこの世界では国の存亡にまで関わります。

 魔物の討伐や商人の護衛など、騎士では手が回らない仕事を担っているからです。


 もっとも、我がマゼラン領のようにキッチリと騎士団を養成し、普段から冒険者ギルドに頼らずとも魔物を押さえている領もあるのです。


 やろうと思えば、冒険者ギルドを廃しても国は回ります。しかし、だからと言ってそんな面倒な事をやりたがる者はいません。


「マゼラン領都の支部員を投獄、他のギルドから人員を回すのが妥当では?」


「そうですなぁ。盗賊の仲間と判断出来たのは、マゼラン領都の者だけですからなぁ」


 列席者の中で結論が出されようとしています。でも、私のミリー(モフモフ)に手を出してそれだけでは済まさないわよ。


「お待ちください、統括にお聞きします。ギルド員は他の地のギルドに赴く事は無いのですか?」


「ん?そんな事はないぞ。逆に、護衛依頼等で他の地のギルドに行く事が多いくらいだ」


 統括は、私が望む答えをしてくれました。この証言があれば、勝ちは揺るぎません。


「私を襲った時、ギルド員も職員も冷静でした。それはその行為が何度も行われていた事を示します」


「だからどうした?それは領都の支部がグルだったからだろう?」


 発言が途中だというのに、それを遮った貴族がいました。面倒なので、無視して先に進みます。


「これまでも略奪行為が行われた時、その場には領都ギルドのギルド員しか居なかったのでしょうか?」


 疑問を投げ掛けると、何人かの貴族はハッと驚いた表情を見せました。


「まず、それはあり得ないでしょう。それなら、何故今まで略奪行為が表に出なかったのか。それを見たギルド員が全員黙っていたとしか考えられません」


「そうか……盗賊の略奪行為を知りながらそれを止めず、通報もしない者!」


「即ち、盗賊の仲間としか考えられない!」


 貴族たちがざわめき、統括は変わり始めた流れにオロオロしています。

 各地から来たギルド員が盗賊の仲間となれば、他のギルドも関与していたと証明されたようなものです。


「冒険者ギルドを捜索し検挙すれば膨大な押収物も発生し、各領には多大な労力を必要とされます。でも、ここで彼らを見逃せば罪のない一般領民が犠牲となるやもしれません!」


 うつむき悲痛な声で訴えれば、陛下は哀しみを湛えた目で私を見ました。

 隣の王妃様は、必死に笑いを堪えています。あれは演技がバレてますね。

 王子?会話に厭きて爆睡してますが?


「冒険者ギルドの一斉捜索なんて、どれだけ人手と時間が掛かるやら……えっ、ちょっと待てよ?」


 数人がぼかして示唆した内容に気付いたようです。口許が綻び、目が欲望に濁っています。


「皆さん、確かに盗賊のアジトとして冒険者ギルドを捜索するのは大変でしょう。しかし、僅か五歳の幼女が民を思い訴えた内容を否定するのですか?それが統治者である我々貴族の為す事ですか?」


 あっ、言っちゃいましたね。それを聞いた領地持ちの貴族の変化は劇的でした。


「そうだ、我々領主は民を守る義務がある!」


「冷血姫様は流石だ!我ら貴族の誉れである!」


 領主持ちの貴族は、全員が冒険者ギルド取り潰し賛成派へと鞍替えしました。


 冒険者ギルドの持つ資産は膨大です。魔物素材の売却益や、護衛依頼の仲介手数料など収入は尽きないからです。

 そんな冒険者ギルドを、盗賊として取り締まる。そうなれば、盗賊の持ち物は捕らえた者が総取りという慣例に従い領主が資産を手にできるのです。


 巧妙に表に出ぬよう略奪を繰り返してきた冒険者ギルドを、民のために取り締まる。

 超国家的な組織である冒険者ギルドを敵に回そうとも、王国は民を守る事を優先すると喧伝出来ます。

 その裏では冒険者ギルドの資産を合法的に懐に納められるのですから、領主達が挙って賛成に回るのは当然でしょう。


「冒険者ギルドを潰すなら、国が代替組織を立ち上げねば民の暮らしが不便となります。それにより文官の方にもご迷惑が掛かりますが、何卒民のために……」


 私の更なる懇願を聞き、文官の貴族連中も動きを止めました。


「そこまで民を思うとは、なんと感心な!」


「幼い少女がそこまで言うのです。ここは大人として一肌脱ぐのが妥当というものですな」


 文官、陥落しました。王城に勤る領地が無い文官貴族ですが、当然地位には限りがあります。

 貴族の中には、息子に就かせる役職がなく、遊ばせている者も数多く居るのです。


 そんな状況の現在で、冒険者ギルドを潰し国営の代替組織を作るとなるとどうでしょう。

 各地に新組織が設置され、当然管理する文官が派遣されます。

 王城にもそれを纏める部署が必要となり、地位や役職が大量に発生します。


 元々ある冒険者ギルドの施設を使えば初期費用はほぼゼロ。その後かかる費用も、見込まれる収益を考えれば問題になりません。


 大義名分が民を守るためですから民が文句を言う筈がなく、冒険者ギルドも盗賊行為が露見した以上文句は言えないでしょう。

 下手に他国の冒険者ギルドが文句を言えば、「状況証拠は明らか。文句を言うなら、盗賊の一味でない証拠を出せ」と反論されるのがオチです。


「満場一致により、我が国の冒険者ギルドは全て取り潰す。即座に行動せよ!」


「「「「はっ!」」」」


 こうして、私の目論見通りに事は運びました。


 スエズの貴族の皆様、チョロいです。攻略本付のヌルゲーやってる気分ですね。


……あっ、ここはゲームの世界でした。

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