論戦
翌日、私とお父様は王城に呼び出されました。
謁見の間正面には高くなった位置に国王陛下が玉座に座っています。
その両隣には王妃様と王子が特設された椅子に着席。
窓際と通路側には貴族や騎士が並び、国王陛下の正面で膝をつく私を凝視しています。
「ユーリ・マゼランよ、冒険者ギルドの者達を捕縛したそうじゃな。しかも、国中の冒険者ギルドを制圧すべきとは、どういう意図か?」
「はい、実は……」
またもや冒険者ギルドでの顛末を語ります。何度目でしょうかね。
「ふむ、理由はわかった。しかし、少々極論過ぎんかのぅ」
「陛下、このような小娘の言を信じるのですか!」
壮年の男性が国王陛下に叫びました。衣装からすると貴族では無さそうですが、騎士でもないようです。
「ギルド統括よ、少なくともギルド員がユーリ嬢を襲ったのは間違いない。送られた調書と、ユーリ嬢の言い分に矛盾は無かったからのぅ」
彼は国内の冒険者ギルドを纏める統括だったようですね。
そして陛下、報告書が届いていたのに私に証言させたのね。
「陛下、ギルド員がユーリ嬢を襲ったとしても、ギルドを潰すなど言語道断です!」
「ギルドが担う役割を考えれば、無くすなどとんでもない事ですぞ!」
貴族サイドから冒険者ギルドを擁護する声が飛びました。
「幼女に手をかける者には死あるのみ!」
「イエスロリータ、ノータッチ!この掟を破る者には死を!」
私に対する援護も入ったのですが、その声の主は全員が小太り・薄い頭髪で、息を荒らげながら私を見ているのですが視線がヤバいです。
「ギルド員が粗暴な行為をしたことは謝罪しよう。しかし、だからと言って我ら冒険者ギルドを盗賊扱いとは乱暴過ぎはしませんか?」
「まあ、確かに……」
「少々強引ですかな」
統括の言い分に賛同する貴族もちらほらと居ます。考えが甘いですね。
「ではお聞きします。目の前で盗賊が武器を抜いて盗賊行為をしていたらどうします?」
「逃げるに決まってるだろう!」
私を擁護した小太りな貴族が即座に叫びました。
「それでも栄えあるスエズの貴族か?盗賊を叩きのめすのが当然だろう!」
「誰もが闘える訳ではないのだよ、脳筋野郎。騎士を呼びに行って被害者を助けるのが最善だ!」
わいわいと文官と武官での言い争いになってしまいました。役割が違うのだから、どちらが上かとか無いと思うのですがそうはいかないようです。
「黙らんか!今は何のために集まっているか分かっておるのか!」
陛下の一喝で、謁見の間は静まり返りました。流石は陛下、王妃様の尻に敷かれているだけでは無いのですね。
「……ユーリ嬢、今変な事を考えたかのぅ?」
「そんな事はございませんわ。話を進めても宜しいでしょうか?」
陛下、勘も鋭いです。真面目に論争を続けるとしましょう。
「要約すると逃げる、戦う、騎士を呼ぶというのが通常の行為ですわね」
居並ぶ全員が首を縦に振る。まあ、それが常識的な人間の反応よね。
「では逃げもせず、戦いもせず、騎士を呼びにも行かない人間が居たら、それはどんな人間でしょうか?」
「強盗の現場に居ながら、逃げずにただそこに居るということか?」
「そんなのあり得ないだろう」
そう、普通ならば逃げるか戦う。襲われている人間の次は自分だと、誰でも思うでしょうからね。
「もしも、その逃げない人間が盗賊とグルならどうでしょう?」
「あっ、それなら逃げる必要はないな!」
「仲間と戦う筈はないし、襲われないと分かっているのだからな」
皆さん納得していただけたようです。納得出来る答えはそれしか無いのですから、当たり前ですね。
「冒険者ギルドに居た他のギルド員とギルド職員がそれでした。私が襲われているにも関わらず、止めようとも逃げようともせず、ただ見ているだけ」
冒険者ギルド統括の顔色が悪くなりました。少なくとも、マゼラン領都支部の人間全員が盗賊だと認識されたのです。
「成る程のぅ。確かにそれはその場のギルド関係者全員が盗賊の仲間という証拠になるだろうな」
陛下が認める発言をしました。これでマゼラン領都支部のギルド関係者は、全員が盗賊の仲間と認定された事になります。
「そうですな。しかしその領都支部のギルドだけならまだしも、他の領地の冒険者ギルドまで潰すと言うのは……」
領地持ちの貴族の一人が難色を示しました。魔物狩を冒険者ギルドに頼っているのでしょう。
それに頷く領主も結構います。でもね、すぐにその意見を変えてあげますよ!




