表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/197

真意

「そう言えば、先程面白い事をおっしゃいましたね。殺す気か、ですか?」


「いきなり魔法を撃つなんて、殺す意志があったとしか思えないわ。恐ろしい子!主人に言って幽閉してもらうわ!」


 囀ずりますねぇ。お父様頼りな所が情けない。


「五歳の幼児に魔法を撃たれた程度で、何を言うのです。私は大の大人に襲われましたよ。それを大したこと無いと言いましたよね?」


 五歳の幼児と、戦闘力を持つ冒険者ギルドのギルド員。襲われて脅威なのは、一体どちらなのでしょうね。

 継母とギルドマスターは、まさか五歳の方が脅威ですとは言えずに黙り込みました。


「五歳児の攻撃が幽閉に値するのなら大人の、しかも複数人数で襲撃された私の処置はまだ生温いと言えますね」


 違うと否定も出来ず、かと言って肯定しては来訪した目的が果たせません。

 困った二人はただ沈黙しています。


「沈黙は了承の証ですわね。さあ、お帰り下さいな」


 二人とも親の敵でも見るような、熱の入った視線を向けてきますが私は動じません。

 すごすごと馬車に乗って帰る二人を見送り、ため息をついてしまいます。それを見た護衛の騎士が声を掛けてきました。


「ユーリ様、朝から災難でしたな」


「まあ、あの程度ならあしらうのも朝飯前よ。……朝食食べてなかったわ」


 比喩ではなく、本当に朝飯前でした。メイドに朝食を用意させて食べると、セティーとミリーを連れて部屋に入ります。


「ストレス解消するから、誰も近付かないように。用がある時はセティーかミリーを使いに出すわ」


 私の部屋に誰も近付かないよう使用人に言い含め、室内に入ります。

 念のため風の魔法で遮音措置をとり、ストレス解消に勤しみます。


「はぁ~、癒されるわ。二人が残ってくれなかったら、胃に穴が開いてたわよ」


「ユーリ様、ブレないですねぇ。そんなに良いものでしょうか?」


 ミリーの耳をモフり倒す私を、セティーが不思議な物を見るような目で見ています。

 いいんですよ、私はモフモフが好きなんだから。このために生きていると言っても過言じゃありません。


「ユーリ様、何故冒険者ギルドを潰そうとするのですか?確かに許される行為ではありませんが……」


「実はね、私が潰したいのはこの国のマゼラン領以外の冒険者ギルドなのよ。マゼラン領は潰さなくても構わないわ」


 耳をフニフニと揉みながら答えたのですが、セティーは更に混乱したようです。


「この領以外ですか?差し支え無ければ、理由をお伺いしても?」


「他言はしちゃダメよ。冒険者ギルドの主な存在理由は、魔物を討伐する冒険者の統括ね。でも、マゼラン領では騎士団や私が魔物を狩るから存在意義は薄いわ」


 商人の護衛や採取物の納品もありますが、基本的に冒険者の仕事は魔物を狩る事です。


「それなら、尚更他の領で冒険者ギルドが潰れたら困るのでは?」


「でしょうね。でも、各領には騎士団がいるわ。彼等が魔物を狩ればカバーは出来るでしょう。そして、そちらに騎士団の手が掛かれば獣人狩りに手が回らなくなるわ」


 獣人に対処している人材を魔物に回し、獣人が狩られるまでの時間を延ばす。それが私の目的。


「ユーリ様は、そこまで獣人に肩入れして下さるので……」


「私は冷血姫よ、好きな者を守るためなら手段は選ばないわ。貴族令嬢は我が儘なのよ」


 子供らしく笑顔で答えたら、セティーとミリーは泣き出しました。


「ユーリ様、私は一生あなたにお仕えいたします!」


「私もです。もう、好きなだけモフって下さい!」


 二人の忠誠度の上がり方が半端じゃないです。私はやりたいようにやっているだけなのですけどね。


「二人ともありがとう。では遠慮なくモフらせてもらうわ」


「えっ、ちょっ、少しは手加減していただけると嬉しいなぁ……」


 逃げ腰になっているセティーに、両手をワキワキさせて近付きます。


「心配はいらないわ。貴女の自己犠牲(モフモフ)は、明日のパナマ王国を照らす光となるのよ」


「心配しか無いのですけど!ニャアーーーーーー!」

 セティーは、猫のような悲鳴を残し大いなる犠牲となりました。

 彼女は猫系ではなく狼系のはずですが、細かい事は気にしちゃダメです。


「ミリーも忘れていないわよ。しっかり、ミッチリとモフり倒すわ」


「忘れていただいていても構わないのですが……」


 愛しいミリーを忘れる筈はないでしょう。

 セティーに劣らず念入りに端から端まで丹念にモフりましたとも。


 後に私はメイド長から質問されました。


「お嬢様、あの獣人二人に何をされたのですか?外傷は無いのに幽鬼のようになっていますが……」


「知りたいかしら?口では説明しづらいから、体験してみる?」


 答えた瞬間、メイド長の顔が真っ青になりました。


「い、いいえ!お嬢様のお手を煩わせるなど畏れ多いです。失礼いたします!」


 逃げるように走り去るメイド長。廊下を走ってはいけませんよ。


 この日から獣人二人は使用人一同から同情するような目で見られるようになり、出される賄いのグレードが上がったそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ