魔術師長子息の断罪
「あれで私と同じケント殿下の側近候補だったとは嘆かわしい。ユーリ嬢、あなたの行動は醜い事この上ない」
「あら、フォール・ドーバー様ですか」
王家が抱える魔術師団を束ねる魔術師長のご子息。大きな魔力と優れたセンスで、次代の魔術師長は決まったとの評判。
「あなたは嫉妬のあまりレイナ嬢を苛めてきましたね。無視をする、陰湿な暴言を吐く、彼女の課題を邪魔する。記憶再現の魔法で、あなたがやったとの記録も作成済みですよ」
次期魔術師長様は、難易度の高い記憶を記録し再生する魔法をレイナ嬢に使ったらしい。
そんな労力を使わなくても、私は否定する気は無いのですけれどね。
「確かにやりました。それの何が悪いのですか?」
「悪いに決まっている!可憐なレイナ嬢を傷付け、追い詰める所業が悪でなくて何だと言うのですか!」
サイファ様もフォール様も、煽り耐性無さすぎです。感情を抑える事は貴族の初歩の初歩なはずなのですが。
「フォール様、あなたはこの学園の理念を否定されるのですね?」
「学園は学びの場。自分を高める努力をする場であり、他人を貶める場ではありません。辺境伯令嬢ともあろう方が、そんな事も分からないと?」
マゼラン家の教育はその程度のレベルかと、然り気無くディスってくれましたね。
お父様の怒気が膨れてます。それを抑える為にも反論しましょうか。
「この学園の目的は、社交界にデビューする者達への支援です。地位と立場と言うものをわきまえ、社交界で致命的な失敗をしないよう訓練するのがこの学園ではないですか」
よく異世界学園もので「学園では爵位等は通用しない」という設定がある。でも、この世界では生徒通しでそれは通用しない。
学園生活で上爵の方に無礼な言動を取ることに慣れたらどうなるか。
公の社交の場で上爵の貴族の顔に泥を塗るような真似をすればその者は当然、下手をすれば一族や領地にも影響を及ぼしてしまう。
「下爵の者に話しかけられたとして、それを無視して問題が?下爵の者から話しかけてはならないというルールを破った者に非はあるのではなくて?」
「そ、それはそうかもしれないが、陰口や妨害はどうなのだ!」
「社交界では、そんな物は日常茶飯事では?その程度を自分で捌けないような方は、貴族として社交界に出る資格がありませんわね。この国において、身分の差は絶対なのですから」
下爵の者が上爵の者の悪意を上手く捌くのも、体験して慣れないと出来はしない。
嫌みを言われたからと泣くだけの令嬢や子息は、家に籠るしかない。
「それなら、見栄の張り合いしかない社交など無くしてしまえ!」
劣勢と踏んだのか、王太子の援護が入りました。まあ、援護と言えない暴言なのですけど。
「社交界は重要な意味があるのです。貴族の交流に情報交換、普段領地に居て会えない貴族家には王都での社交は価千金の価値があるのですよ」
王城で蝶よ花よと甘やかされ、周囲は側近候補が固めた世間知らずらしい暴言でした。
貴族制度のない元日本人の私ですら理解しているというのに。
「王太子殿下、我々の祖先が築いてきた文化を破壊するような言動は慎まれた方が宜しいかと」
どのみち手遅れなんですけどね。まだそれを開かす訳にはいかないので、一応王太子を気遣う発言をしておく。
魔術師長子息様は……沈黙したようですね。
「身分の上下は絶対だと言ったな?」
「はい。それが王国の統治を支える根幹で御座いますから」
次は王太子がお相手してくれるようです。レイナ嬢と騎士団長子息は後になるようですね。