共犯
「こ、こんな事をしてどうなるか分かっているのだろうな、冒険者ギルドを敵に回すぞ!」
腰が抜けて立てないギルドマスターが喚く。でもね、理はこちらにあるのよ。
「ねえ、他人の物を奪おうとし、抵抗されたら武力で相手を害そうとする。そんな者を世間一般では何と言うか知ってる?」
「はあ?盗賊だろうが。それがどうかしたか?」
「私がされたのは、正にそれなのよ。つまり、私は盗賊を返り討ちにしただけ。非難される謂れは欠片もないはずよ」
発端は冒険者ギルドのギルド員であり、こちらは降りかかった火の粉を振り払っただけ。
それをするなと言うのなら、盗賊に襲われたら抵抗するなと言うに等しい。
「いいや、お前は戯れに魔法を撃ってギルドを破壊しギルド員を傷付けたんだ。それがギルドの見解であり、真実になる」
自信タップリに笑うギルドマスター。脳筋なりに頭は使うみたいね。一応腐ってもギルドマスターと言うことかしら。
「私が子供だから、証言を信じられないと?」
「ただのガキと冒険者ギルドのギルドマスター。どちらの言い分を信じるかなんて、分かりきった事だ」
そうね。私がただの子供ならそうでしょう。でも、残念ながら私は普通の子供じゃないのよ。
この年齢でこれだけの魔法を放っているのだから、疑っても良さそうなものなのに。
そこに完全装備の騎士が十人以上ギルド内に突撃して来ました。
ギルドマスターは喜色を露にし、騎士に話しかけました。
「おお、騎士の方々、助かりました。変な子供が暴れてこの通りです!」
「総員、ギルド内を制圧。冒険者ギルドは、組織ぐるみで盗賊行為を行っていた可能性が高いです」
ギルドマスターと私の言葉を聞いた騎士達は、即座に行動に移りました。
「はっ、おい、裏口にも回れ。人っこ一人逃がすんじゃないぞ!」
隊長の指示を受け、騎士はカウンター内にも入り込みギルド職員を拘束していきます。
「え、おい、私よりもそのガキの言うことを信じると言うのか!私はギルドマスターだぞ!」
勝利を確信したのに、それを覆されたギルドマスターが叫びます。
しかし、騎士達は耳を貸そうとしません。
鍛えられた騎士達は瞬く間にギルド職員とギルド員を縛り上げ、一ヶ所に集められます。
「何で俺じゃなくガキの言うことを聞くんだよ!」
後ろ手に縛られ、芋虫のように転がされて喚くギルドマスター。
「ギルドマスター、氷魔法を操る幼女……今話題の冷血姫では?」
「冷血姫?それって、辺境伯の長女の二つ名じゃ……」
事務の女性に指摘され、漸く私の事を理解したみたいです。答え合わせをしてあげましょう。
「私の事を聞いた事があるみたいね。確かに私はそう呼ばれているわ」
「で、では辺境伯様のご息女様で?」
ギルドマスターの顔が、絶望に染まります。
この地を治める辺境伯の長女にギルド員が襲いかかった挙げ句、自身も魔法を撃とうとしたのです。
「マスター、確か冷血姫様は王子殿下の婚約者に決まったのでは?」
「あら、それも知っているのね」
事務員の言葉を肯定してあげたら、ギルドマスターの血の気が引いて真っ白になりました。
なにせ、冒険者ギルドがスエズ王国に戦争を吹っ掛けたととられても仕方ないのです。
「全騎士に通達を。領内にある全ての冒険者ギルドを制圧、ギルド員とギルド職員を一人残らず拘束するように。それと、新しく領内に入る冒険者も拘束を」
「他の町の冒険者ギルドや、冒険者もですか?それはやり過ぎかと……」
私に危害を加えたこのギルドはまだしも、他のギルドに手を出す事には抵抗があるようです。
「ギルド職員もギルド員も、誰も助けに入る所か止めようともしなかったわ。それは盗賊行為が日常的に行われていた証拠よ」
「そんな事はありません!」
すぐに受付嬢が否定したけど、それを信じさせる材料は無いのです。
逆に、私にはそれを裏付ける状況証拠があります。
「では、何故誰も止めようともしなかったの?普通目の前で強盗行為が行われれば止めるでしょう?」
誰も止めに入らなかったのは紛れもない事実。そこを突かれれば、ギルド側は反論出来ません。
「問題は、その場にいた他のギルド員も止めに入らなかったという事よ。冒険者は一つの町にずっといるのかしら?」
「普通は護衛をしたり、依頼を求めたりして町から町へ渡り歩くと聞きます」
「そう、つまり、他の町から来たギルド員も強盗行為を極普通の出来事として見ていたのよ」
不特定多数の町から来たギルド員も、強盗行為を容認している。それは他の町でも同様の事が行われているという証拠。
「強盗行為がこの町のギルドだけならば、他の町から来たギルド員は止めようとしたでしょう。それが無かったと言うことは、全ギルドが強盗行為を認めているという事になるわ」
あっ、累が全ギルドに及ぶと知ってギルドマスターが失神しました。今更後悔しても遅いのです。
まだまだ追求の手は緩めませんよ!




