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引き渡し

 馬たちを引き連れてパナマの国境を目指します。引き渡しがうまくいってくれればよいのですが。

……ウマだけに。


「セティー、何故そんな目で見るのですか?」


「何故かそうしなければならないような気がしたのです」


 心の中を読まれたのでしょうか。セティーが呆れたような目で私を見ます。

 獣人の勘、恐るべし!


 なんて馬鹿な事を考えていたら、パナマの国境警備の部隊と遭遇しました。

 あちらもこちらを確認したようです。一人パニックに陥ってますね。


「こんにちは、その人大丈夫ですか?」


「取り押さえたから心配ない。一体どうしたのやら」


 よく見たら、パニックを起こしているのは前回モフったワオキツネザルの獣人さんでした。


「お前、小心者だったんだな。俺なら何があっても平気だぞ」


 取り押さえられたワオキツネザルの獣人さんを、台湾シマリスの獣人さんが笑っています。


「お前もアレを受けたらそんな事言えねえよ!」


「へっ、そんな事あるわけ無いね!」


 それは私への挑戦ですね。宜しい、その挑戦受けて立ちましょう。


「では、モフらせていただきます」


 背後に忍び寄り、まずはピンと立った耳からモフらせてもらいます。


「えっ?ちょっと……ダメだ、そこは……らめぇー!」


 フサフサの耳と、立派な尻尾を思う存分堪能させていただきました。

 獣人の皆さん、尻尾を股の間に隠して震えてらっしゃいますが、何を怯えているのでしょう?


「本題に入るの忘れてました。この馬たち、そちらで使いませんか?騎士用の訓練された馬ですよ。ああ、お代は要りません、寄付しますので」


「訓練済みの馬だって?何故そんな高価なものを!」


 馬はかなり臆病な動物なので、騎士の乗馬には戦闘音に慣れる訓練を必要とします。

 それをしないと、剣を打つ金属音に脅えて逃走したり暴れたりします。

 なので、騎士用の馬は普通の馬と比べるとかなり高価になるのです。


「マラッカ家の騎士を十人始末したんです。馬は可哀想なので殺さなかったのですが、うちで使う訳にはいかないのですよ」


「そういう事なら引き取らせてもらうが、本当に対価は無いのだな?その、モフらせろとか言わないよな?」


「モフらせてもらえるのなら喜んでモフりますが、強制はしませんよ」


 隊長さんらしきワラルーの獣人さんの毛並みには興味がありますが、無理矢理モフるような真似はしません。


「頼むから止めてくれ。あの二の舞にはなりたくない」


 残念ですが、友好的な関係を築いていけばチャンスも巡って来るでしょう。


「では馬を渡します。それと、魔物狩で魔法を使います。派手な音がするかも知れませんが、ご了承下さい」


 パナマへの攻撃と思われたらまずいですから、先に説明しておきます。


「了解だ。しかし、本当に敵対する気が無いんだなぁ……」


 マゼラン家の私が友好的なのが不思議みたいです。逆の立場なら、私もそう思うでしょうね。


「無事に引き渡しも終わりました。魔物を倒しながら帰りましょう」


 風魔法で探知を掛けながら馬車を走らせます。すぐに一匹目の魔物が見つかりました。

 木の上からこちらを狙うヒョウのような魔物が居ました。


「ちょっと馬車を止めて。……回収を頼むわ」


 無詠唱で氷の針を作り出し、ヒョウの眉間目掛けて撃ちだしました。

 細い氷の針は気取られる事なく眉間に突き刺さり、脳を内部から凍らせて命を奪いました。

 落ちたヒョウを騎士に回収してもらい、荷馬車の荷台に積み込みます。


「ユーリ様、森の暗殺者と言われるヒョウの魔物を逆に暗殺ですか……」


「セティー、私達運が良かったわね」


 戦く二人を余所に、探知した魔物を片端から氷の魔法で倒していきます。

 回収は二人の騎士にお任せです。幼児の私に出来る仕事ではありませんから。

 屋敷に帰る頃には、荷台は魔物で一杯になりました。


「これを売らなければならないし、一度領都に戻りましょう。セティー、ミリー、特殊メイクをします」


 一旦屋敷に入り、青アザの特殊メイクを施します。領民には私が獣人を虐待していると思わせなければなりませんから。


「ギルドで魔物を売ったら領都の屋敷に帰ります。セティーは荷馬車の、ミリーは私の馬車の馭者をお願い」


 前後を騎士に守られて馬車は進みます。程なくして、私は自分が犯した失策に気付きました。


 セティーとミリーが馭者をするので、二人をモフる事が出来ないのです。

 領都に戻るので、私も荷馬車に乗るという訳にはいきません。

 かと言って、騎士のうちどちらかに馭者をさせるのも護衛の点から無理です。


 新たに馭者を雇う事も、秘密保持の為出来ません。


 くっ、馬と引き換えに一人協力を要請するべきでした!

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