記憶にございません
さて、お馬鹿さん達を拘束はしましたが、どうしましょう?
「ユーリ様、こいつら首をはねましょう!」
「いや、生かしておいて、マラッカ家を滅ぼす切っ掛けにした方が宜しいかと!」
どうしましょう。ここでマラッカ家と事を構えると、当然ながらゲームの粗筋とは離れます。
ゲームの通りならば弟がマゼラン家の跡取りになるのですのですが、それが反故になるかもしれません。
かと言って、このまま帰すというのは論外です。
こんな時は、前世の知識に頼るとしましょう。
「貴様ら、早くこの魔法を解け!そうすれば無かった事にしてやる」
身動き出来ない癖に態度がデカイですね。しかし、その提案は魅力的かもしれません。
「無かった事にする、それは良い提案ですね」
「ユーリ様、まさかこいつらの話に乗るのですか!」
「そんな事するわけないでしょう。ミリーとセティーを呼んできて頂戴」
ちよっと人手が欲しいので二人を呼びに行かせました。労働力が少ないのが難点ですね。
「何をしている、さっさと魔法を解かんか!」
「これだからガキのお守りは嫌なんだ。何故我らがこんな貧乏クジを……」
解放されると思い込んで、好き勝手言ってますね。でも、すぐに思い知るでしょう。
「ユーリ様、お呼びで……うわぁ、これ、ユーリ様が?」
氷漬けの騎士達を見てセティーが思い切り引いてますね。ミリーは言葉も無いようです。
「これからこれを捨てに行くから、手伝って頂戴。押すだけでいいから」
「ま、待て!捨てに行くとはどういう事だ!」
「えっ、言葉通りの意味よ。あなた達は途中森で魔物に襲われて全滅、ここには来なかったの。ほら、無かった事になるわ」
自分で手を下すのも嫌ですし、最善の解決策です。前世日本政府の伝統の技、「無かった事にする」。便利な技ですね。
「馬は可哀想だし他に使い道があるから解放して、騎士は一纏めに……良し、アイス・ロード!」
領都から来る道の半ば辺りまでを凍らせます。その上に乗った騎士団子を、四人掛かりで押して搬送を開始しました。
適当な場所で森の中へと氷の道を曲げ、少し入った場所で騎士団子の氷を地面の氷とくっつけます。
「……手足の部分を解凍してっと。これで明日の朝には魔物に襲われた痕跡が出来るわ」
「待った、待ってくれ!俺達が悪かった。今日の事は誰にも言わないから助けてくれ!」
自らの死を意識したのか、恥も外聞もなく命乞いをしてきました。
「信用出来ない人間にそんな事を言われてもね。叫び声で魔物が来るでしょう、帰りますよ」
情けを見せれば、寝首を掻かれます。ここは安全な日本じゃない、それを私は叩き込まれました。
なので、彼等を助けようとは思いません。
翌日騎士を一人確認に行かせると、予想通り全滅していたそうです。
なので遠隔で氷を溶かしておきました。これで私達が関与した証拠はありません。
「この馬十頭は、パナマで活用してもらいましょう。それと、荷馬車とそれを曳く馬を買ってきて頂戴。報償金の残りで買えるわよね」
「ユーリ様、馬は買わずともこの馬を使えば宜しいのでは?」
確かに、態々買うのはお金の無駄です。しかし、その無駄が必要な場合もあるのです。
「荷馬車だけ買ったら、馬は何処で手に入れたか疑問に思われるわ。そこに騎士が馬ごと行方不明になったら?」
その馬の出所は騎士が乗っていた物だとすぐに見当を付けられるでしょうね。
そうなれば、証拠は無いにしても私が騎士の行方不明に関わったと断定されるでしょう。
マラッカ家がどんな判断をするかは分からないけど、監視などされたら面倒な事になりそうです。
「成る程、流石はユーリ様です。では急いで行ってきます」
騎士二人が一頭の馬に乗り走っていきました。帰りを待ちながら、ミリーをモフります。
「人間の貴族とは、皆ユーリ様のような策略家なのでしょうか?」
「私達獣人が勝てないのも納得です……あっ、そこは……」
セティーが呆れ、ミリーが納得しています。ミリーは耳の後ろが弱いみたいですね。コショコショしましょう。
ミリーの耳を堪能していたら、騎士が荷馬車を買って帰ってきました。
「二人は騎馬で馬を率いて、ミリーとセティーは荷馬車の馭者台に座って」
「ユーリ様は何処に座るのですか?」
荷馬車は人が座るようには出来ていません。座る事は可能ですが、普通は馭者台に座ります。
「ミリーに抱いてもらうわ。さあ、パナマに向かうわよ」
騎士が来た証拠である馬を、パナマに引き渡して隠滅しましょう。




