招かざる客
翌日、演技指導をしていると警戒網に騎馬の足音がかかりました。
こんな森の中の屋敷なので、風魔法を使い集音による警戒網を敷いています。
夜間は氷のドームにより安全を確保。抜かりはありません。 音によると、馬の数は十頭。領都方面からなので、獣人では無さそうです。
「領都から騎馬が来たわね。出迎えをお願い。訓練は一旦中止よ。メイクをするわ」
騎士二人を玄関にやり時間を稼ぎ、その間にミリーとセティーに特殊メイクを施します。
「ユーリ様、本宅より騎士団が来ました」
「来るなと伝えたのよね?」
「はい。しかし、奥方様の命だそうで」
今の私のマゼラン家での立場は、微妙と言えます。
跡継ぎは一昨年産まれた弟になっており、私は嫁ぐ事が決まっています。
嫁に出るので家内での力は低いのですが、嫁ぎ先が王家であり、婚約者が王家唯一の王子です。
将来の王妃なので、下には置けず。かと言って、当主の正妻や次期当主より上とする訳にもいかず。
そんな扱いに困る娘でも、死なれたら困ると思っているのか。はたまた、厄介者を警護の手薄な今消そうというのか。
親族ですら気を抜けない。貴族というのは業の深い生き物だと思います。
対応のために外に出ると、十騎の騎士が並んでいました。
「お嬢様、こんな場所にたった二名の護衛で滞在とは無用心にも程があります。我らも護衛いたします」
敬語こそ使っていますが挨拶もせず、私を小娘と見下しているのが見え見えです。
「あなたたちは見たことがありませんね。本当に我が家の騎士ですか?」
マゼラン家の騎士を装った、反マゼラン家勢力の騎士と言う可能性もあります。
貴族が長生きをするコツは、簡単に信じず疑う事です。本当に業が深いわ。
「我らはマラッカ家よりにラン様に同行してきた者です。お目にかかるのは今日が初めてですので」
マラッカ家は領地を持たない法衣貴族です。王宮雀が、猫の首に鈴を着けるためにうちとの縁を繋いだのでしょう。
「あなた達、マゼラン家の騎士だと言う証拠はあって?」
「お嬢様、我等はマラッカ家の騎士です。こんな小さな方には区別も付かないのは無理ないでしょうけどね」
声をあげ、下品に笑う騎士達。自分の発言の意味すら分からない馬鹿なのですね。
「ならばさっさとお帰りなさい。頭の弱い脳筋など、足手まといにしかならないわ」
「足手まといだと?ガキが、殺されたいか!」
激昂し、剣の柄に手をかけた騎士に向かい扇を開きます。途端に柄を握った手と剣が凍りつきました。
「本当にお馬鹿さんね。マラッカ家は我がマゼラン家に対し、宣戦を布告したという認識で宜しいわね?」
いくら脳筋でも、これだけストレートに言えば事態の不味さがわかるのでしょう。
騎士達の顔色が青くなりました。
「い、いえ、そんな事はありません。場の勢いというもので……」
「ならば、その言い訳を王家にもするのですね。私は王子殿下の婚約者です。その私に剣を向けようとしたのですから、王家に対する謀叛ともとれますからね」
騎士達は全員、血の気が引いて真っ青になりました。
自分達の失敗で主家が滅ぶかもしれないのです。当然な反応です。
「あなた達はマラッカの騎士と名乗りました。それは継母が結婚を理由にマラッカの軍をマゼランに引き入れたとなるのですよ?」
マラッカの騎士ならば、輿入れが済んだ時点で護衛の任は済むのでマラッカの屋敷に帰るのが妥当です。
それでも留まると言うのなら、マゼランの騎士と名乗らなければなりません。
マラッカの騎士がマゼランに留まりマラッカを名乗るのは、マゼラン家に戦力が足りないと判断したかマゼラン家を信用していないと取られます。
武で名を挙げているマゼラン家の戦力が足りないとは誰も思わないでしょうから、マラッカ家はマゼラン家を信用していないと宣言したということです。
これが表沙汰になれば、マゼラン家とマラッカ家の抗争は必定。継母のラン様は叩き返されるか人質となるでしょう。
「チッ、こんな小娘と騎士二人、どうにでもなる。口封じするぞ!」
「「「「おう!」」」」
全員剣を抜き、殺る気充分ですね。しかし、そうは問屋が卸しません。
……この世界、問屋が無いから卸したくとも卸せないのですけどね。
「無駄なんですけどね。永劫の獄凍」
魔法名を唱えると、抜剣した騎士達は首から下が厚い氷に包まれました。
「な、なんだこの氷は!」
「まさか、あの噂は本当だったのか!」
一応私の噂は聞き及んでいたようです。しかし、こんな小娘が強力な氷魔法を操るとは思えず誇張された与太話だと思ったみたいですね。
「冷血姫の噂は聞いたみたいね。人を嘗めてる騎士など、魔物にも劣る獲物ですわ」
さて、凍らせたのは良いけれど。この騎士達の処遇はどうしましょうかしらね。




