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理由

 狐っ子と別れた私達は、森の中にある館へと到着しました。

 この館は騎士が魔物討伐やパナマへの攻撃時に拠点として使う館です。


「数日はここに滞在します。向こうの屋敷にそれを告げ、食料の買い出しをしてきて下さい」


 騎士二人を使いに出し、獣人の二人を連れて屋敷に入ります。

 応接室でソファーに座らせ、対面に私も座ります。


「まだ名前を聞いていなかったわね。教えてくれる?」


「はい、私がミリーで、彼女がセティーです」


 白い耳の穏やかそうな風貌のセティーに、灰色の耳で少々つり目の勝ち気そうな方がミリーですね。


「あなたたちは、何故あんな場所に?危険だと分かっていたでしょうに」


 彼女達が言うには、彼と両親は国の北の方に隠れ住んでいたそうです。

 しかし両親が病で他界。仕えていた二人が残された遺児を連れてパナマへと帰る途中だったそうです。


 人の多い王都に協力者の伝で紛れ込み、スラムで別の協力者と会い送ってもらう手筈でした。

 しかしスラムへの移動中見つかり、協力者は死亡。逃げている最中に私に捕まったそうです。


「私達で騎士を食い止め、殿下をスラムに逃がすつもりでした。殿下をパナマに送り届けられたのはユーリ様のお陰です。ありがとうございました」


 立ち上がり、深々と頭を下げるミリーとセティー。


「私は私のやりたいようにしただけよ。利害が一致しただけだから、気にすることはないわ」


 あのフカフカでモフモフな耳と尻尾を失うなど、世界の損失です。

 そんな理不尽、許容出来るはずないじゃないですか。


「それでも、貴女は恩人ですから」


 セティーも義理堅いですね。狼の獣人は、皆真面目なのでしょうか。

 集団で暮らす狼の特性が反映されているのですかね。


「そう言うのなら、モフらせてもらおうかしら」


「ユーリ様、ブレませんねぇ」


 セティーさん、笑顔がひきつっていますよ。私のモフモフ愛は、死んでも治らなかったですからね。正に命を賭けて貫き通しますよ。


 二人を代わる代わるモフり倒していたら、使いに出した騎士が帰って来ました。


「ユーリ様、屋敷に伝えて参りました」


「食料は食料庫に入れてあります」


「ご苦労様。全員揃ったので、これからやってもらう事を発表するわね」


 ソファーに座った獣人二人と、横に立っている騎士二人の視線が集中します。


「これからあなた達には、演技を勉強してもらいます」


「「「「演技ですか?」」」」


 息が揃っていますね。連携が取れているのは良いことです。


「これから私達は、周囲の者全てを欺かなければなりません。それを可能にする技を覚えてもらいます」


「主旨はわかりました。しかし、どうやって覚えれば良いのか……」


 むっ、この面子で教師が出来るのは私以外に居ないでしょうに。


「勿論、私が教えます。王都の者や、ダーダネルスの者を騙した私の演技を見たでしょう?」


「確かにそうです。ユーリ様、よろしくお願いいたします」


こうして、騎士二人と獣人メイド二人の演技修行が始まりました。


「……ユーリ様、これ本当に出来るのですか?」


「勿論。やって見せたでしょう?」


 まずは基本として、表情の制御からです。無表情を維持する事から、自由自在に感情を表現するまで長い道のりです。

 ですが、皆は基本の無表情で悪戦苦闘しています。

 セティー、泣き言言ってないで練習しなさい。


「ユーリ様、まだ五歳ですよね?何でこんな事出来るのですか?」


 純粋に不思議だという感じでミリーが聞いてきました。


「高位貴族ならば、感情を表に出さないのは社交の基本です。この程度出来なければ、デビューすら出来ませんよ」


「……それはユーリ様が凄いから出来るだけでは?」


 セティーにジト目で睨まれました。確かに、転生者の私はチートですけどね。


「園遊会でお会いした、ジブラルタル家の方やカテガット家の方も同い年ですが出来ていましたよ」


 あの二人も出来ていたので、この世界ではこれが標準だと思います。

 クソ王子は出来ていませんでしたが、本人の出来が悪いということでしょう。


「……俺、平民の生まれで良かったよ」


「全くだ。子供の頃からこんな事を強制されるなんて、どんな地獄だそりゃ」


 騎士コンビ煩い。貴族家の子息や令嬢はちゃんと努力もしてるのよ。

 王子の取り巻きだってゲームではあの体たらくだけど、今頃ちゃんとした貴族教育を受けている……はず。


「表情作りは基本中の基本よ。学ぶ事はまだまだ沢山あるんですからね?」


 ほらほら四人とも、恐怖を表情に出さないで無表情を維持しなさい!

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