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真実はいつも一つ

「伯爵様、その二人はどういった者なのでしょう?」


「ユーリ様、この者らは厨房の下働きをしているもの逹でございます」


 伯爵は二人の事を把握していなかったのか、代わりに騎士が答えてくれました。


「そのような者が、こんな時間のこんな場所に何故居たのです?」


「そ、それは……」


 見回りの騎士でもない者が、こんな夜更けに馬車の置き場と馬房に用事があるはずがありません。


「そ、そこの獣人に誘われたんですよ!夜中に来てほしいって!」


「そうです、それで俺達……」


 あくまでしらを切るつもりのようです。私を子供と侮っているようですが、生憎私は体は子供で頭脳は大人です。


「厨房の者逹を全員集めていただけます?お聞きしたい事がありますの」


 伯爵に頼み厨房で働く者全員を集めてもらいました。関係者の事情聴取は、捜査活動の基本です。


「まずお聞きします。その二人は今日、屋敷から出ましたか?」


「はい、昼前に買い出しに行かせました」


「私達が到着後には?」


「ありません。今日は忙しかったので、お客様の到着後は皆厨房に付きっきりでした」


 厨房の仕切りをしていると思われる男性が、はっきりと答えてくれました。


「では騎士の方にお聞きします。誰かこの獣人が屋敷に入ったのを確認しましたか?」


 騎士逹は顔を見合わせているばかりで、誰も答えません。


「見ていないようですね。先程彼らは、獣人に誘われたと言いましたが、どうやって誘ったのでしょうね?」


 穴だらけの言い訳を論破され、厨房の二人は汗を滝のように流しています。

 目を左右に動かし、誰かが助け船を出してくれるのを期待しているようですが、その気配はありません。


「騎士とて、全ての出入り口を見張って把握しているわけではありません。たまたま気付かれなかったのです!」


「今日初めて訪れた屋敷で、たまたま騎士の居ない出入り口を見つけて屋敷に入り、たまたま誰にも見付からずに中を歩き、たまたま見付けたあなた逹を誘ったと?」


 随分と苦しい言い訳です。まともな考えの持ち主ならば、まず信じないでしょう。


「……更に、見付かる事無く屋敷から出て馬車に戻ったと言うのかしら?もしもそうなら、この屋敷の警備は無いに等しいわね」


 一応敵対種族である獣人が、誰にも発見されずに内部を歩き回れる。つまり、屋敷の警備はザル。彼はそう主張しているに等しいのです。

 あっ、騎士の人達の額に青筋が浮かんでます。


「伯爵様、よもやこやつらの言うことを信じたりは……」


「流石にそれはない、そいつらを連れていけ。夜が明けたら尋問する」


 騎士四人に左右の腕を掴まれ、男二人は連れて行かれました。


「伯爵、今宵は玩具を部屋に置きます。宜しいですね?」


「えっ、いえ、獣人を屋敷に入れるのは……」


「私の玩具を私以外が壊すのは我慢出来ませんの。それとも、伯爵の配下が代わりを務めていただけますの?」


 その場にいた全員の目が私に足を凍らされた騎士に向けられました。

 伯爵がここで断れば、騎士の誰かが彼の二の舞……いや、それ以上酷い目に合う。

 そう判断した騎士が一斉に伯爵へ懇願するような目を向けました。


「わかりました。使用人の部屋を……」


「同じ部屋のソファーに寝かせますわ。別の部屋では目が届きませんもの」


 伯爵はギリギリと歯を食い縛り、怒りを抑えていました。

 私が伯爵家の者を信用していないという事と、獣人を最上の客間に泊めなければならないという屈辱は、かなりの物でしょう。


「……わかりました。ユーリ様のお望みのままに」


 今回の件は、あの二人が獣人を襲おうとして反撃されたという感じでしょう。

 伯爵家に明らかな過失がある以上、私の要求を呑まないという選択肢はありません。


 その後は何事も起こりませんでした。獣人三人はソファーに寝かせ、朝まで熟睡しました。


 本当は狐っ子の耳をモフりながら寝たかったけれど、伯爵家の者に知れたらまずいので我慢しました。


 朝になり、気まずい空気の中朝食をいただきました。三人には賄いを出すように言ってあります。


「ユーリ様、どうやらあの二人が獣人を襲おうとして反撃されたようです」


「そう、他人の玩具に手を出すなんてねぇ。しかも、虚偽を申し立て謀ろうとするなんて……」


 早朝から拷問を始めたらしく、朝食後に伯爵が結果を知らせてくれました。

 扇を広げ、顔の下半分を隠しジト目で伯爵を睨みます。


「ユーリ様には申し訳ない事を致しました。どうかご容赦を」


 頭を下げて詫びる伯爵。さぞ心中は荒れているのでしょうね。

 でも、家中の者が辺境伯令嬢である私の持ち物に手を出したのです。けじめは着けねばなりません。


「そうですね、一つお願いを聞いていただけますか?」


 チラリと食堂入り口を守る騎士を見てからお願いを言います。


「獣人を発見したら、捕らえて私に売っていただけませんか?多ければ多いほど助かりますわ」


「それは構いませんが、そんなに集めてどうなさるおつもりで?」


「魔法の実験台は消耗品ですもの。多ければ魔法の修行が進みますわ」


「わかりました。捕らえた獣人はユーリ様にお売り致します」


 伯爵は慌てて快諾してくれました。断ったら伯爵家の騎士を実験台にするとでも思ったのでしょうか。

 私はチラリと騎士を見ただけなのですがね。

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