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そりゃそうだ

 第二騎士団第四部隊の選択は、直ぐに為されました。


「騎士団長には私からご報告申し上げます。どうぞお連れ下さい」


 部隊長は即座に獣人を渡す決断をしました。

 私に凍らされた騎士は、今も騎士団本部に放置されています。

 もしもここで断り、私の模擬戦の相手に指名されたら。そう考えたのでしょう。


「助かるわ、これで魔法の勉強が進みます。では代金を」


 控えていた騎士に獣人三人分の代金を用意させ、隊長に手渡しました。

 少々多目に入れるよう言ってあります。魔物退治の褒賞金で懐は暖かいのですよ。


「我らは職務をこなしただけです、受けとる訳には……」


「仕事には褒賞があって然るべきですわ。面倒な生け捕りをお願いしたのです。これからも宜しくお願い致しますね」


「畏まりました。仰せの通りに致します」


 私のお願いで生け捕りにしたと言うことにしなさい。それを騎士団長に報告すれば良いから。

 ついでに、これからも生け捕りにして連れてくれば相場以上の褒賞を払うわよ。

 そんな意味を込めたのですが、隊長は気付いてくれたようです。


「そうそう、出来れば活きの良い状態が望ましいわね。死に体で動けない者と訓練しても、訓練にはならないでしょう?」


「そ、そうですな。可能な限り努力致します」


「大変でしょうから、出来るならで良いですわ。いざとなったら、精強な王都騎士団の方々の胸を借りるという手がありますもの」


「他の者達にも伝え、全力で当たります!」


 私との模擬戦、そんなに嫌なのかしら。必死の形相で、野次馬達は可哀想な者を見る目で騎士団員を見守っています。


「お願い致します、私達はどうなろうと構いません。しかし、子供だけはどうかお目こぼしを!」


 そんなやり取りを見ていた獣人の一人が叫びました。

 動かない体を無理矢理動かし、私に頭を垂れています。


 改めて見ると、大人二人は犬か狼系の獣人女性で、整った顔立ちをしています。

 大きめの服を着ているのでプロポーションは分かりませんが、それでも大きさがよくわかるお山が二つ。


 子供の方は金色の耳に尻尾を持つ狐の男の子。私と同い年位かな?

 怯えて狼獣人の女性にしがみついている。


「……そうね、二人とも私に忠誠を誓えるかしら?絶対に私に逆らわないと誓うのならば、この場でその子に危害は加えないわ。勿論、あなた達にもね」


 女性は少し考えると、更に深く頭を下げました。


「この子を助けて頂けるのでしたら、忠誠をお誓いいたします」


「その代わり、この子の安全だけはどうかお願い致します」


 予測した通り、狼系だけあって忠節は深いようでした。

 自分の身を犠牲にしようとも、主君である子供を守る事を優先たようです。


「いいでしょう。マゼラン家の名誉に誓います。あなた達、辻馬車を手配して屋敷に連れ帰りなさい。氷は少し軽くします」


 軽く扇を振ると、三人に付いた氷が剥がれ厚さが減りました。

 騎士二人が彼女らを立たせ、呼んだ辻馬車に乗せます。

 私は呼んだ自分の馬車を待つことに。


「ユーリ様、本当にあの子供を逃がすのですか?」


 馬車を待っていると、騎士団の隊長が恐る恐る聞いてきました。


「あら、私はこの場で危害は加えないと言ったわ。約束通り、この場では何もしなかったわよね。この後は知った事ではないわ」


 扇を開き、口許を隠してクスクスと笑います。

 隊長以下騎士団の方々と、まだ残っていた野次馬は顔がひきつっています。


「私があの子や他の獣人を狩るのを、逆らわず側で見ているのはどんな気分かしらね。精神が壊れるのと、堪えきれずに逆らうのと……隊長さん、どちらが先だと思います?」


「え、いや……私には予想が付きませんな。騎士団長に報告がありますので、これで失礼します」


 顔色を青くし、逃げるように走り去る騎士団員達。会話を聞いていた野次馬も、蜘蛛の子を散らすように居なくなっていく。

 到着した馬車に乗った私はその光景を思いだし笑ってしまう。


「普通ならああなるわよね。私だって、逆の立場なら関わりたくないから逃げるわ」


 目論見通りかそれ以上の効果を上げられたので、抑えても口許が綻んでしまう。


「いつかは獣人を手元に置きたいとは思っていたけど、こんなに早く機会が来るとはね。しかも極上の物件だわ。これからが楽しみね」


 走る馬車の中、つい独り言を漏らしてしまう。

 でも、仕方ないじゃない。私の夢が一つ叶うのだから。

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