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捕り物

 翌日から、マゼラン家の王都屋敷は戦場となりました。

 私が王子の婚約者と正式に発表され、お祝いの使者と贈り物がひっきりなしに届いたからです。


 我が家は武門の家柄なので、これまで中央の政治には無関心でした。

 それを受け、政治の暗闘に明け暮れる方々もマゼラン家にはあまり関心が無かったのです。


 父と母の結婚で王家との繋がりが強くなると注目されたそうですが、母の家の没落で警戒外となりました。

 そこに私の婚約確定です。狙っていた方々は慌てたでしょう。


 中央に関心が無い父は、一切根回しなどしていませんでした。

 なので、家柄から最有力と言われていても容易くひっくり返せると思われていたようです。


 実際、父は王子の婚約者に拘っていませんでしたし、他の誰かに決定しても異論を唱えなかったでしょう。


 しかし、大きなアクシデントがありました。「冷血姫」とメイドの不手際です。

 二つ名で私の名声が上がり、園遊会で王子の危機意識の低さと私の危機管理の高さが証明されました。


 身分・能力・容姿に問題がなく、王子のサポート役として最適。表だって反対する貴族は居なかったそうです。


 そうなると、宮廷貴族が考えるのは身の保身。次期王の妃となる私と、その実家に取り入ろうという訳です。


 その翌日、お祝い攻勢が一段落したので私は王都見物に出ました。

 中央の広場まで馬車で行き、護衛の騎士二人を連れてお店巡りです。

 父も来たがりましたが、王城に呼ばれたので別行動です。


 出店で賑わう王都ですが、今一ファンタジー感がありません。

 人混みは全て純粋な人族のみで、定番の獣人やエルフ、ドワーフが居ないからです。


 まあ、人族至上主義のこの国の王都に、他種族がいる事は殆ど無いのですが。


 宝石商や小物の店を覗き、帰ろうとした時事件は起こりました。


「そっちだ!逃がすな!」


「回り込んで囲め!」


 人々は逃げ惑い、二人の獣人が駆けて来ました。

 その背後には、獣人を追って騎士が十人程剣を抜いて走ってきます。


 よく見ると獣人は二人ではなく三人でした。一人が子供を胸に抱えています。

 大人の獣人は女性で所々に切り傷があり、切れた服に赤い血が滲んでいます。


「お嬢様、こちらに避難を!」


「それには及びません」


 私を逃がそうとする騎士を止め、無詠唱で魔法を放ちました。

 二人の獣人の足に氷がまといつき、バランスを崩した獣人は倒れ込みました。

 子供を抱いた獣人は、子供が怪我をしないよう庇いながら倒れます。


 すかさず魔法を追加で撃ち、両腕にも厚く重い氷を着けました。

 両手両足に重りを付けられた獣人は、逃げる事が出来ません。


「これは……どうしたんだ?!」


 追い付いてきた騎士は、戸惑い狼狽えていました。追いかけていた対象がいきなり氷浸けにされたのです。無理もありません。


「彼女達を傷付けたのは、あなたたちですか。感心出来ませんね」


「むっ、不法に侵入していた獣人を追って何が悪いと言うのだ!」


 愛用の扇で口許を隠し不機嫌そうに言う私に、騎士は噛み付いて来ました。


「無駄に傷付け逃がせば、下賎な血で王都が汚れますわ。捕らえるならスマートに行いなさいな」


 感情を込めずに告げ、子供の獣人も氷の枷で拘束します。

 無詠唱で氷の魔法を操る私に、騎士や周囲の野次馬は呆然としています。


「私はマゼラン家長女、ユーリ・マゼランです。あなた方は第二騎士団の方ですか?」


「はっ、失礼をいたしました。我らは第二騎士団第四部隊の者です」


 私が辺境伯家の者と知ると、騎士は全員剣を納め膝を着きました。周囲の野次馬もそれに倣います。

 第三騎士団と違い、その辺りはキッチリしているようです。


「ユーリ様、獣人の捕縛にご協力いただき、ありがとうございます。見事なお手並み、流石は冷血姫様ですな」


 誉めてくれるのは良いのだけれど、その中二臭い二つ名は勘弁してほしかったわ。


「あの方が冷血姫様なのか!」


「歌の通りの氷の魔法、生で見られるとは!」


「俺、一生自慢出来るな!」


 野次馬のざわめきが大きくなりました。

 パシンと音をたて扇を閉じると、ざわめきが止み私に注目が集まりました。


「その獣人、此方で引き取りたいのですが構いませんね?」


「い、いえ、取り調べもありますので……その……」


 騎士とすれば、他の獣人や不法侵入の経路など拷問にかけて聞き出したい事があるのでしょう。


「王都に来る時に実感したのですが、魔法は人相手に練習しないと加減の程が解らないのですよ」


 閉じた扇を先頭の騎士に向け、僅かに微笑みます。


「どれ程の魔力で拘束出来るのか、どれ程の魔力で即死するのか。どなたか練習に付き合っていただけるなら宜しいのですが」


 騎士さん平静を装おうとしていますが、ひきつっているのを隠せてません。


 さあ、返答はいかに?

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