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王妃の判断

 騎士の報告を受けて、その人がやって来ました。王国の女性で最上位に位置するお方、王妃様です。私達は即座に席を立ち頭を下げました。


「ああ、頭を上げて頂戴。マゼラン家の御息女は何方かしら?」


「お初にお目にかかります、王妃様。マゼラン家の長女、ユーリにございます」


 名乗った私は、頭を上げました。命を賭けた勝負の始まりです。


「身分を弁えず騎士の方に指示を出した事、お詫び申し上げます。如何なる処罰もお受け致します」


「まずはお座りなさい。状況は報告に来た騎士から聞きました。メイドを拘束させた理由を教えてくださるかしら?」


 王妃様はそれをご存じの筈です。にも関わらず、私の口から直接聞きたいと仰います。

 事の重要さを理解しているのかを確かめたいのでしょう。


「王子様付のメイドが出したカップには、異物が付着していました。

毒か否かはわかりませんが、万が一を考えて拘束させていただきました」


 たかが汚れでメイドを拘束したのは、毒殺の可能性があるから。

 万が一あの汚れが毒であった場合、王国は唯一の王子を失う事態となります。

 そうなれば国内は跡継ぎ問題で揺れるでしょう。


「メイドがそれに関与していないとしても、王子様にお出しする食器の異常を見落とすのは致命的です。故に王族付きとしては失格と判断致しました」


 毒殺の可能性がある高位貴族や王族に仕える使用人が、普段使う食器の異常に気付けないのでは困ります。

 盛られた毒を見落とす事に繋がり、主の命を脅かす事になるのです。


 騎士が私の指示に従ったのは、王族の命が脅かされている可能性があったから。

 王子の意思よりも、王子の命を守る事が優先されたのです。


「流石は神童と呼ばれるユーリ嬢ね、あなたの判断は間違えていません。騎士に指示を出した事は不問としましょう」


「寛大なご処置、ありがとうございます」


 王妃様は私の返答に満足したようで、機嫌がとても良さそうです。

 私も命が繋がり一安心。少々気を抜いてしまいました。


「名高い冷血姫さんは、魔法の腕だけではなく咄嗟の判断や社交も一流ね」


 いきなり飛び出した二つ名に、戸惑いが顔に出てしまいました。

 まあ、同席している二人の令嬢は驚愕したままフリーズしているので、そちらに注目は行くでしょう。


「過分なお褒めをいただき、恐縮です」


 小説にもない展開に、それしか言葉を返せませんでした。

 ここからはアドリブで対応しなければならないようです。


「身の程を弁えない男を、美少女が懲らしめる。胸のすくお話でした。詳しく話を聞きたいわ」


 私は王妃様の要望に応え、魔物の群れを発見した所から話しました。

 リクエストをされた王妃様は勿論、他の二人の令嬢も食いつくように聞いていたのには少し引きました。


「流石は国境を守る辺境伯家ね。頼もしいわ」


「畏れながら王妃様、辺境伯家の令嬢全員が戦える訳ではございません!少なくとも、私には無理です!」


 隣に座っている令嬢が必死の形相で弁明しました。

 彼女も辺境伯家のご令嬢なのでしょう。


「そ、そうよね。ユーリ嬢が凄いのであって、普通は無理よね。普通なら、その年で魔法を発動出来るだけでも優秀だもの」


 二人の令嬢は、残像が残る勢いで首を縦に振っています。

 そこまで必死にならなくても良いじゃないですか!


「非常時の判断力に戦闘力、異常を見逃さない注意力、完璧な礼儀作法。あなた以上の人材は居ないわね。ケントをお願いよ」


「王妃様の仰せのままに」


 勝負は私の勝ちです。命を永らえ、ついでに王子の婚約者の立場も確定しました。


 王子の意思は関係ありません。王候貴族の結婚に、本人の意思は殆ど存在しませんから。

 王様の意思?王妃様の尻に敷かれ、頭が上がらない王様(公式HPより)が王妃様の意思を覆されると?


「私は根回しがあるので失礼するわ。ユーリちゃん、これからよろしくね」


 王妃様は機嫌の良さを隠そうともせず立ち去りました。

 お付きのメイドさんも去り、テーブル付のメイドさんが紅茶を入れ替えてくれました。


「自己紹介が遅れました。ジブラルタル家の次女、シャーリー・ジブラルタルですわ。お会い出来て光栄です」


「私はカテガット伯爵家の長女、フィア・カテガットです。よろしくお願いいたします」


 ジブラルタル家は西方の国境を守る辺境伯家で、我がマゼラン家とは王都を挟んだ反対側に領地を持つ。

 カテガット伯爵家は北方の雄と言われる伯爵家で、海沿いの大きな港町を領都とし栄えている。


 公爵家や侯爵家に王子と近い年の娘がいない現在、この三人が将来の王妃候補でした。

 その中でも私が最有力だったのですが、先程の王妃様の言葉で確定です。


 アクシデントの発生で園遊会はお開きとなりました。

 少し年上の令嬢方は王子にアプローチ出来なくて悔しがっていたようですが、王妃様の意向に逆らう者はいません。


 因みにカップに付いていたのは単なる汚れで、ティーセットを用意したメイドと王子付のメイドは配置転換されました。


 王子は反対したそうですが、王妃様が一喝し王様も王妃様に同意したそうです。


 これで王子が私を嫌ってくれたら助かるのだけど。


 レイナはちゃんと王子の気を惹けたのかしら?

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