メイドの資格
「それは酷い事を。おい、顔を上げろ。ユーリとやらは誰だ!」
私達三人は王子の言葉を受け顔を上げました。私が顔を上げると、王子の動きが一瞬止まりました。
顔が少し赤いようですが……嫌な事は考えないようにしましょう。
「王子様、お初にお目にかかります。マゼラン家長女、ユーリ・マゼランに御座います」
自己紹介をし、優雅に見えるよう一礼。視線や首の角度、指の動きまで意識した礼は、王族の目に叶うはずです。
前世で習った日本舞踊、この世界でも役にたってます!
「そ、そうか。お前がユーリか。何故レイナを苛めたのだ?」
「この席は座る者が決められております。その方は王子様の席に着こうとしておりましたので、理由を話しお止めしました」
今のところ、私は主人公に意地悪などはしていない。王政という社会での常識を語っただけ。
少なくとも、非難されるような行いはしていない。
「嘘を言わないで!私が男爵令嬢だからここに居るなと言ったじゃない!」
「ええ。ここは選ばれた令嬢が王子様にお目にかかる席。呼ばれない者は同席する資格はないのです」
正論を言っているのは私。その証拠に、レイナを連れて行こうとメイドさんがレイナの背後に待機しています。
「俺がレイナの同席を許す。それなら文句は無いだろう?おい、レイナの席を用意しろ」
「かしこまりました。直ちに用意致します」
レイナを連れて行首の為に待機していたメイドさんが、レイナ用の椅子を持ってきました。
レイナは王子の隣用意された席にすぐに座ります。
私達三人の令嬢と王子はまだ着席していないのですがね。
「お前たちも座れ。おい、俺にもお茶を」
王子に促され、私達も席に着きます。
王子のお付きのメイドがお茶を王子に出した所で次のイベントが始まります。
「王子様、お待ちください。誰か、そのメイドを拘束して下さい」
庭園に目立たぬよう控えていた騎士が、私達のテーブルに集まりました。
「おい、俺のメイドを拘束とはどういう事だ!」
「ユーリ嬢、説明をお願いします」
高位貴族の令嬢に言われたからといって、理由もなしに王子付のメイドを拘束なんて出来ないわよね。
王子はお気に入りのメイドを拘束しろと言われて怒っています。
「そのメイドが王子様にお出ししたカップ、端に黒い物が付いています。複数の騎士にて拘束と監視をお願いします」
「かしこまりました。おい、国王様と王妃様にご報告を!」
一人の騎士がテーブルから走り、三人の騎士がメイドを拘束しました。
「ちょっと、出したカップが少し汚れてたからって酷くない?拭けば済む話しじゃないの!」
「そうだ!勝手に俺のメイドを連れて行くな!俺が命ずる!」
レイナがゲーム通りに抗議の声をあげました。それに後押しされ、王子もメイドを庇います。
「そういう問題では御座いません。そのメイドは王族付き失格です」
「お前にそんな事を言われる筋合いはない!何故お前がそれを決める!」
王子は声を荒らげますが、騎士はメイドを連れて行きました。
同席していた令嬢は、口を出さずに見守っています。高度な教育を施されているようです。
通常王城の騎士が王族の言葉に抗い、高位貴族令嬢に従う事はありません。
身分が絶対のこの世界で、こんな事になったのは理由があります。
しかし、王子もレイナもそれを理解出来ていないようです。
同席している令嬢は理解しているのです。王子の教育は、高位貴族以下という事が証明されました。
「待てと言っているだろう!俺の言葉が聞こえないのか!」
「あっ、王子様!」
レイナはメイドを追った王子を追い掛けて行きました。思い通りにならず、気に入っていたメイドが引き離された王子を慰めるイベントに移行するはずです。
残された私には、ゲームには出てこないイベントが待っています。
小説でそれを読んだとき、四歳児にそこまでさせんなよ!と突っ込んだのを覚えています。
でも、現実になって実感しました。高位貴族の世界では、それが必要だったと。
私はこれからやって来る人物に一連の出来事を報告し、裁定を受けなければなりません。
なにせ、王族に仕える騎士に指示を出してしまったのですから。
小説の通りなら、お咎め無しで無事に済みます。でも、この世界は完全にゲームや小説をなぞる訳ではありません。
母の死の時期のずれや、存在しなかった私の二つ名がそれを証明しています。
さあ、生きるか死ぬかの大勝負、勝ちをもぎ取ってみせましょう!




