冷血姫
冷血姫には気を付けろ
この世の者とは思えない 美貌で心を凍らせる
彼女の意思に沿わぬなら 体も魔法で凍りつく
冷血姫には気を付けろ 心も体も凍りつく
「……たった二日で広まりましたねぇ」
「自業自得だ。それにしても上手い事を言うものだ」
王宮に向かう馬車の中、路傍で吟遊詩人の朗々とした歌声に呆れる私と感心するお父様。
あの模擬戦から三日。やっと園遊会の日になりました。
昼頃に帰った私とお父様は、休んでいた所を脳筋の父親である伯爵の来訪を受けました。
顔を青白くしての平謝りで、勘当するのでご容赦をとの一点張り。
私とお父様は実家までどうこうする気は無かったので謝罪を受け入れたのですが、えらく感謝されました。
その翌日から、王都では吟遊詩人の唄う新しい物語が大人気となりました。
氷使いの少女が、大の大人を氷つかせて裁く物語。
「この世の者とは思えない美貌とは、一体誰の事でしょうね。物語とはいえ、盛りすぎです」
「いや、ユーリは美人だぞ。的確な表現ではないか」
厳格な父だと思っていたのに、どうやら溺愛系だったようです。
「今日の顔合わせも心配いらぬだろう。王子とてユーリに惚れぬわけはないからな」
「私は私の役目を果たすのみです。判断するのは国王陛下ですわ」
目的の為には、ゲームの通りの進行の方がやり易い。
でも、王子の婚約者にならなくとも目的は達成するつもりだし、予定外の二つ名というおまけもある。
先日も潜った門を過ぎ、騎士団の本部を横目に奥へ進む。
二つの馬車溜まりを過ぎ、門の前の馬車溜まりで降りる。
「ようこそいらっしゃいました、マゼラン辺境伯様、ユーリ様。ご案内いたします」
門前に並んでいたメイドさんの一人が歩み寄り、私達を先導する。
このメイドさん達もランク付けされていて、上級貴族用・下級貴族用・平民用と対応出来る身分が違う。
上位のメイドさんは下位のメイドさんから嫉妬と羨望の眼差しを受ける事になり、その地位を守るため切磋琢磨を欠かせない。
城の中庭に入ると、既に沢山の子供達が到着していた。
駆け回る者、花を愛でる者、席についてお茶を嗜む者とカオスな光景になっている。
いくら貴族の子とはいえ、皆三歳から六歳の子供達。大人しく出来る者など一握りしかいない。
「辺境伯様はあちらに。ユーリ様はそちらの席にどうぞ」
お父様は保護者が集まる場所に誘導され、私は会場付きのメイドさんにお茶のテーブルに連れて行かれた。
席には先客が二人、身なりと落ち着いた態度から上級貴族の令嬢とわかる。
「じきに王子様がいらっしゃいます。暫しお待ち下さい」
連れてきてくれたメイドさんが、お茶を淹れて離れました。
普通なら自己紹介をするのでしょうが、王子様が来ることがわかっているのでやりません。
さて、ゲームの通りの進行ならば、ここで歓迎されないお客が来るはず。
あっ、来ました。主人公です。果たして彼女の中身は日本人でしょうか?
様子見でゲーム通りの対応をしましょう。
「そこは王子様がお座りになる席です。座る事は許されません、他の席にお行きなさい」
「あっ、ゲーム通りのセリフ!やっぱりこの世界はカミアイの世界なのね!」
席に座ろうとした主人公に、ゲーム通りのセリフで注意しました。
小声でしたが、はっきりと聞きました。主人公も転生者のようです。
「何故、何で座ってはいけないの?私が男爵の娘だからなの?」
ゲームのように、悲しそうな表情の主人公。でも、元役者の私は誤魔化せない。あれは演技だ。
「ここは王子様と上級貴族令嬢の席です。許しを得られていない者は着席出来ませんわ。男爵令嬢なら男爵令嬢らしく、身の程を弁えなさい」
言葉は平坦に。だけど、取り出した扇を強く開閉する事で苛立ちを表す。
ちゃんとした教育を受けていれば、あからさまに不興だと示しているとわかる。
でも、主人公はそれに気付けない。
「どうした、何を騒いでいる?」
本日の主役、ケント王子が登場しました。
私と二人の令嬢は席を立ち、カーテシーで礼をとります。
対して主人公は……
「あっ、王子様!私が身分が低いからと、座るなと言われたのです」
「お茶会で座るなと?誰に言われたのだ?」
「あのユーリ・マゼランです」
ゲームの通りに王子様に媚びを売ってました。
これ、現実だと突っ込み所が満載です。
王子に臣下の礼を取らないって、不敬罪でしょ!
名を名乗っていないのに勝手に名前を呼ばないで!しかも私、上爵よ?これも不敬罪に問えるのよ?
許しも得ずに王子様に触れるって、不敬罪通り越して束縛されても文句言えないわよ!
でも、当の王子様はゆるふわで可愛い系の主人公に抱きつかれて、鼻の下を伸ばしてました。
四歳で色ボケですか。主人公、私が婚約者になったら頑張って誘惑するのですよ。
現実にアレの婚約者とか嫌すぎます。




