表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/197

小細工

「では模擬戦を開始する。相手を殺す攻撃は控えるように。では始め!」


 審判役の騎士団長さんが言うと同時に、脳筋は剣を構え詰め寄ろうとダッシュしてきました。

 対魔法使い戦の常道ですね。詠唱前に潰そうという狙いが見え見えです。

 普通ならばそれで勝てるのですがね。生憎私は普通ではありません。


「いくぜぇ!はぁっあああああっ!」


 勢い付けて 駆け出した脳筋は中間点付近で盛大に転び、背中を打ちました。

 それでも止まらず、勢いを保ち滑っていきます。


「騎士団長さん、足下に注意して下さいね」


 私と脳筋の中間付近、脳筋が転んだ辺りに居た騎士団長さんがこちらに来ようとしたので、一応注意喚起をしておきました。


「足下って……うわっ!」


 折角注意したのに、無駄になったみたいです。転んだ騎士団長さんは一旦放置して、模擬戦相手に止めを刺しておきましょう。

 見物の為に囲っていた騎士にぶつかり止まった脳筋に、追い討ちの魔法を放ちます。


「くそっ、手が、足が動かねぇ!何をしやがった!」


「ご要望の通り、凍らせて差し上げましたが何か?ああ、勿論手加減はしてあるので、命に別状はありませんから」


 お父様や周囲の騎士は、何が起きたのか解らずにただ見ています。そんなに特別な事をした覚えは無いのですがねぇ。


「ユーリ、この状況を説明してくれないか?」


「大した事はしていません。一直線に来る事は予想出来ましたから、進路を予め凍らせただけです。後は転んだ騎士様に追加で魔法を放ち、具足と地面を凍らせただけですわ」


「それで私まで転んだのか!」


 まだ起き上がっていなかった騎士団長さんが納得といった感じで叫びました。


「氷魔法も披露いたしましたし、私の勝ちで宜しいでしょうか?」


「うむ、この模擬戦、ユーリ・マゼラン嬢の……」


「ちょっと待て!俺はまだ負けちゃいねぇ!」


 騎士団長さんの勝利宣言を受けて帰ろうと思いましたのに、空気を読めない脳筋の邪魔が入りました。


「そんな手足を動かせない状態で何ができる?」


 そう言う騎士団長様も、起き上がれずに転んだ体勢のままでした。

 起き上がろうとしても、氷で滑って起き上がれないようです。


「鎧やクリーヴが動かせないなら、脱げば良いだけの話だ。おい、これを外してくれ!」


 脳筋の呼び掛けに、周囲の騎士は互いに顔を見合わせるのみです。

 一対一の模擬戦に介入することに躊躇いを覚えたのでしょう。


「模擬戦に他者の手を借りるのですか?それが王都の騎士団ですか」


「はっ、常に実戦では一対一になるわけじゃねえ。後から増援が来る事だってあるんだよ!」


 成る程、確かにその通り。一応筋は通ってますね。

 ならば私もそちらの流儀に合わせましょう。


「判りました。ならば、手出しをした方は対戦相手という事で宜しいですね。彼に近付く方は警告無しで凍らせますので、そのおつもりで」


 あら、すぐに助けようという方はいないようです。

 それでも迷っていそうな方がいるのですが、第三騎士団の方ですかね。

 ならば釘を刺しておきましょう。


「そうそう、凍った金属は人の肌に張り付きますから、無理に脱がそうとすると血の海になりますよ」


 起き上がろうとしていた騎士団長さんまで動きが止まりました。


「おい、それじゃあ俺はこのままか!この氷を溶かせ!こんな、こんな小細工は模擬戦じゃねえ!」


「実戦では禁じ手など無いのではないですか?あなたは魔物にも劣勢になったら『それは無しだ』とやり直しを要求するのですか?」


 模擬戦でも実戦と同じようにやると言っていた手前、受け入れるしかないでしょう。

 悔しそうに口をつぐみ、私を睨んでいます。


「この勝負、ユーリ・マゼラン嬢の勝ちとする!……誰か俺を引っ張ってくれ」


 私の勝利を宣言した騎士団長さんが、二人の騎士に手を引かれ凍った場所から引っ張られて行きました。


「お、おい、俺もどうにかしてくれ!」


「模擬戦の前に、自己責任だと合意しませんでしたか?私の顔がどうとか仰っていましたよね?」

 

 誰にも彼を助ける義務はありません。模擬戦の結果は自分で責任をもつと言うのが取り決めだったのですから。


「お父様、帰りましょう。早く休みたいのです」


「そ、そうだな。我等はこれで失礼する」


 泣き叫ぶ脳筋を後に、騎士団の本部から立ち去りました。


 結局あの脳筋は高位貴族に無礼を働いた見せしめとして、氷が自然に溶けるまであのままになりました。

 そして私には、齢四つにして二つ名が付けられる事になったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ