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脳筋

「騎士団長殿、戦いに出ずに命令ばかりしておられるせいで目が曇っているのでは?私にその席を譲って隠居でもされたら如何ですか?」


 一応言葉使いは丁寧ですが、上司を敬う気持ちなど欠片も伝わってきません。

 多分、この騎士も第三騎士団なのでしょうね。


「ユーリ嬢、お察しの通りこいつも第三騎士団の騎士団員ですよ」


「私としたことが、顔に出ていましたか?」


 カウアイ隊長が胸の内で考えた事を肯定してくれました。

 貴族令嬢たるもの、相手に表情や思惑を読まれてはいけません。

 私はいつもの扇を取りだし、口元を隠すように広げました。


「いえ、ユーリ嬢ならば先程の説明で予想されていると思いましたので」


 社交界にデビューはおろか、学園にも通っていない四歳児に何を期待してるんですか。


 ……まあ、実際予測しましたし、四歳児らしからぬ魔法を使う身で何を言うと言われると言い返せないのですが。


「大体、この強い俺様が平の騎士と言うのが間違えている!隊長達で俺に勝てる奴がいるのか?!」


「貴様、算術は出来るのか?隊長ともなれば、部隊の経理や補給をせねばならん。貴様にその処理が出来るのか?」


「そんな物はひ弱な文官にでもさせれば良い!騎士の本分は戦いではないか!」


 向こうでは騎士団長さんと脳筋騎士が激しく言い合っています。

 昨日ほぼ一日を馬車で過ごしたので、今日は早く屋敷に帰って休みたいんですけどね。


「正論を言っても、右から左に通り抜けるだけで意味がないと思うのは私だけでしょうか?」


「私もそう思います。団長も同じだと思いますが、仕事ですからねぇ」


「うちは脳筋は弾くからな。人事権の占有は大事だな」


 我が家はお父様が目を光らせていますので、コネや金で変な人間が騎士団に入るのを防げています。

 お父様、これからも人事権はしっかりと握っていて下さいまし。


「大体、昨夜から今まで書類浸けにされていたのは、お前達第三騎士団の後始末の為だぞ!それなのにその言いぐさは何だ!」


 どうにか冷静に話していた騎士団長さんが叫びました。

 アレの相手をまともにしろと言われたら、私もキレるかもしれません。


「あっ、とうとう団長手を出したな。昨日からの書類攻撃でストレス溜まっていたからな」


 騎士団長さん、お馬鹿な騎士のガードを掻い潜ってパンチを的確に当てています。

 金属鎧を素手で殴って凹ませるとか、拳が鉄よりも強いのでしょうか。


「ふう、お待たせしました。邪魔者は黙らせましたので、実演をお願いします」


「は、はい。アレ、放置して宜しいのですか?」


 凄くイイ笑顔の団長さん。お馬鹿な騎士は、時折手足がピクピクと動いているので生きてはいるようです。


「大丈夫です。奴等は体の丈夫さが取り柄ですから」


 他の騎士の人も動かないので、大丈夫なのでしょう。ならば私から言うことはありません。


「では、氷魔法の実演を……」


「待てぃ!そのガキが我等の部隊を凍らせたと言うのなら、それを証明してみせろ!」


 あっ、脳筋が復活しました。耐久力と回復力はとんでもないレベルみたいですね。

 あの回復力は魔物退治に役にたちそうです。だから態度に難があっても採用されるのですね。


「だから、これからそれを見せてもらおうと言うのだろうが」


「俺と戦えと言っているんだ。一部隊に勝ったのならば、個人と戦うくらいわけないだろう?」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる騎士。多少は少ない頭を使ったみたいですね。


 魔法使いは普通、私が魔物を凍らせた時のように詠唱をして魔法を使います。

 なので、普通に模擬戦をすれば詠唱のいらない騎士が圧倒的に有利となります。


 だからと言って断れば、魔法は使えるが個人から逃げたガキが部隊を凍らせたのは嘘だと喧伝するのでしょう。

 戦いを断ったという事実がある以上、かなりの説得力をもってしまいます。


「構いません。但し、本気でやりますし、結果がどうなろうと自己責任でお願いします」


 マゼラン家の名を失墜させない為には、戦闘を受けるの一択です。

 万が一手加減に失敗した時の為に、結果は全て自己責任とします。


「ああ、その小綺麗な顔が二目と見れない顔になってもお前の責任と言うことだな」


 自分の負けを微塵も無いとほくそ笑む騎士は、腰に下げた剣を抜きました。


「おいっ、真剣を使うな!」


「誰か訓練用の剣を持ってこい!」


 四歳児相手に真剣を構える騎士を、周囲の騎士が非難しました。


「うるせぇ!こいつは模擬剣持った分隊に勝ったんじゃねぇだろうが!自己責任と言い出したのもこいつだ。文句は言わせねぇ!」


 論理としては間違えていないので、周囲の騎士は動きを止めました。


「それで構いません。さっさと始めましょう」


 私は早く休みたいのです。こんな茶番、巻いていきますよ!

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