住み分け
マゼラン家が持つ王都別邸に到着した私達は、カウアイ隊長と明日騎士団本部に行く約束をしました。
今日の事情はカウアイ隊長から騎士団長に報告されますが、当事者の私達の話も必要だそうです。
食事をとり体を清めた私は、すぐにベッドに入り眠ってしまいました。
初の実戦は、自分が思うより疲れをもたらしたようです。
翌朝、食事後に迎えに来たカウアイ隊長と騎士団本部に。
本部は王城の城壁内にあるので、王城を間近に見る事が出来ます。
「うわぁ……」
ゲームのスチルでは何度も見た、純白の外壁。実物を見ると迫力が段違いです。
馬車は堀に架かる跳ね橋を渡り、城壁に穿たれた大きな門を潜ります。
正面に見える城には向かわず、右に折れると大きな建物が見えました。
騎士団本部は、有事にはすぐに王城を守れるように門のすぐ脇に作られています。
カウアイ隊長に導かれ、進んで行った先には豪奢な両開きの扉がありました。
「団長、カウアイです。マゼラン辺境伯様とご令嬢をお連れしました」
「ご苦労、入ってくれ」
開かれた扉から入ると、正面に豪華な執務机。右手に応接セットが並んでいました。
しかし、入室を許可した騎士団長の姿は見えません。
執務机の上にうず高く積まれた書類が壁となり、姿を隠しています。
「ご足労いただき、感謝します。どうぞこちらに」
「アカシ騎士団長、相変わらず苦労しているな」
頬がこけ、目の下には隈が出来たおじさんがお父様と握手を交わしました。
どうやら、お父様とアカシ騎士団長は旧知の間柄のようです。
「まずは騎士団員の無礼と非礼にお詫びを。更に、寛大な処置に対してお礼を述べさせていただきます」
応接セットのソファーに座った私達親子に対し、騎士団長さんとカウアイ隊長は深々と頭を下げました。
「謝罪とお礼は受けとりました。まあ、第三騎士団だしな……」
お父様の言葉からすると、第三騎士団の程度が低いのでしょうか。
ゲームでも小説でも、そこまで詳しい設定は出ていなかったので分かりません。
「ユーリは知らなかったな。騎士団に入ると、程度で第一から第三に振り分けられるのだ」
「知識があり、儀礼も出来る者は第一騎士団に。どちらかに難ありの者は第二騎士団に。残りが第三騎士団に配属されます」
お父様の説明を、騎士団長さんが補足してくれました。
それで第三騎士団の人達は礼儀がなっていなかったのですね。
「第一騎士団は王族の護衛を。第二騎士団は王都の警備を。第三騎士団は王領の魔物狩を主に担当しています。門衛は各騎士団の持ち回りですね」
カウアイ隊長の追加補足で完全に理解出来ました。
問題児の集まりの第三騎士団は、貴族との接点が少ない魔物狩をやらされているわけですね。
「今回の失態は第三騎士団を兵団に降格すべき事態です。しかしそれをやれば第一と第二にしわ寄せが行き、業務が停滞するでしょう。辺境伯、本当にありがとう」
「ユーリが上手く収めてくれたから実質無害だったしな。あの書類、その絡みだろう?」
あの山は後処理関係の書類だったのですね。前世の事務所で幽鬼と化していた事務員さんを思いだしました。
事務所がピンはねしてると嘆いていた役者さんもいましたが、あれを肩代わりしてくれるのなら安い物だと思います。
「報告は聞いたから、確認したいのは一つだけだ。魔物と騎士を凍らせたという魔法、本当にお嬢さんが使ったのか?」
「信じられないのはわかる、我が娘ながら規格外だからな。しかし本当だ」
本来なら魔法をまともに発動も出来ない筈の四歳児が、戦略級の魔法で魔物や騎士を凍らせたなんて、そうは信じられないわよね。
「場所をお借り出来れば披露いたしますが?」
「それが一番簡単だが、頼んで大丈夫か?」
「本人が言っているんだ。訓練場で実際に見れば良い」
そんな訳で、訓練場に移動する事に。百聞は一見に如かずと言うもんね。
訓練場では、騎士の皆さんが激しい訓練をしていました。
「ちょっとそこを空けてくれ。魔法の試し撃ちをしてもらう。広めに場所を空けるんだ」
模擬戦をしていた騎士さん達は手を止め、的代わりの案山子付近の場所を空けてくれました。
お父様に促され、魔法を放つべく精神を集中します。
「おいおい、あの子が魔法使うのかよ?」
「あの歳でまともに魔法を使えるのか?」
「あっ、実は見た目よりも歳が上だとか?」
「なっ、合法ロリだとハァハァ……」
周囲が五月蝿いです。何だか怪しい目で私を見ている人が特にウザいです。
「騎士団長、そんなガキが魔法なんか使えるはずないですよ。貴重な訓練時間を削るような真似は止めてくれませんかね?」
声の方を見ると、いかにも脳筋そうな体格の良い男が。
何でこんなにトラブルばかり?私は悪役令嬢だから、主人公補正は無いはずなんですけど。