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判断

「貴様、上爵に対しその態度。許されると思っているのか?」


「なっ、そいつらが我等の任務の邪魔をしたのだ!相応の対応であろうが!」


 カウアイ隊長は抜いた剣を凍らされた騎士の一人に突きつけた。どうやら、私達の言い分を信じてもらえたみたい。


「例えそうだとしても、騎士爵の我らが辺境伯殿に無礼な態度を取って良い理由にはならん!」


 貴族の身分差は、この世界では非常に重い。

 カウアイ隊長の言う通り、多少の違法行為があろうとも独断で断罪など不可能。

 上司を通して抗議するのが関の山なのです。


「しかも、この位置関係からすれば貴様の嘘は明白。辺境伯が背後から不意討ちしただと?寝言は寝てから言え!」


「何を根拠に嘘だと言うのだ!辺境伯家の騎士が嘘をお前らに伝えたのだろう!」


 第三騎士団の言い分が正しいか、辺境伯家の言い分が正しいか。

 普通なら根拠のない水掛け論となるけど、今回はそうはいかない。


「魔物は道から見て左前方から来ている。お前たちは右前方からだな?それは凍らされた位置から明白だ」


 魔物と対峙する第三騎士団を私達が背後から撃ったのならば、第三騎士団は私達と魔物の間に位置していなければなりません。

 しかし、第三騎士団は魔物と私達とで三角形を作る場所にいます。


「そ、それはそいつらが移動したんだ!だから位置関係が崩れたんだ!」


「ほう、ならば、辺境伯家の方々は、お前たちの更に後方にいたと?王都に向かう辺境伯様が、道を大きく外れてか?」


 魔物と彼らを結ぶ線の奥に私達が居たとなると、道からかなり外れた場所に居たことになります。

 騎馬だけならまだしも、荒れ地に弱い馬車が道を外れて走っていたなんて説得力の欠片もありません。


「ち、違う!思い違いをしていた。我らが辺境伯に挨拶をしようと下馬した所でいきなり魔法で凍らされたのだ!」


 言い繕えないと悟ると、また違う嘘をつき始めました。

 こんな幼稚な嘘で騙せるとでも思っているのでしょうか?


「四歳の私でも可笑しいと思う嘘を平然とつくとは……王都の騎士団は、これでも務まるのですね」


「説得力に欠けると承知の上で言わせていただきます。どうかこれが王都騎士団の標準と思わないで下され。こやつ等は、最底辺の連中ですので」


 カウアイ隊長、泣きそうな顔で訴えてきました。他の第一騎士団の方々も、懇願するように私を見ています。


「ええ。流石にこれが標準とは思いませんわ。隊長殿という例もありますので」


「ありがとうございます。心よりお礼を申し上げます!」


 第一騎士団の全員が頭を下げました。余程一緒にされたくないのですね。

 気持ちはよく分かります。私だって、あれと同類にされるのは嫌です。


「貴様ら、黙って聞いていれば好き勝手言い寄ってからに!」


「第三騎士団では、上爵に挨拶をする時剣を抜けと教育されているのか?誰一人として剣が鞘に収まってはおらんよな?」


 彼等の剣は、一本残らず地面に突き立てられ凍っています。


「上爵への無礼、辺境伯家の殺害未遂、王国に対する虚偽の申告。実家が庇える範囲は越えているよな」


 第三騎士団の連中は言葉を無くしました。恐らく、実家は全員が伯爵家以下なのでしょう。

 直接関係がない家であろうとも、影響を与える事は可能です。

 彼等の実家が賢明ならば、間違いなく彼等は切り捨てられるでしょう。


「こやつらの処分は我等第一騎士団にお任せ願えないでしょうか。必ずや厳しい処分を下します故に」


「ここは王都の直轄領。それが理に叶うであろうな。ユーリ、それで良いか?」


「私はお父様の判断に従います」


 一族の長である父の判断は絶対。例え長女であろうとも、そうそう逆らって良いものではありません。


「わかった。しかし、この氷は溶かせるのか?溶かせねば移動もさせれまい」


「さあ……なにせ、人を相手に使ったのは初めてですので。練習の時の感覚ですと、三ヶ月もすれば溶けるかと思われます」


 魔力の篭った氷だから、普通の物より溶けるのが遅いのです。

 メイドさんや騎士さんからは夏場に高い評価をいただきました。


「ふざけるな!そんなに長くこのままだと!」


「火の魔法なら溶かせるかもしれません。そこまでは試していないので断言は出来ませんが……」


  大抵、水や氷の魔法を得意とする魔法使いは火の魔法を苦手とします。

 逆もまた真なりで、風と土、光と闇も同様です。

 私は全てを同様に扱えますが、態々と情報を与える必要はありません。


「ならば、早く火魔法の使い手を!」


「その氷を溶かせるだけの熱量を浴びて、中のあなたたちが無事で済むと?」


 氷を溶かす事だけに意識がいって、自分もその熱を浴びることを忘れてたみたいです。

 打開策はないと知り、第三騎士団の面々は沈黙しました。

 これ以上ここに居ても意味はありません。


「お父様、王都に向かいましょう。ここに居ても無意味ですから」


「ああ、そうだな。おい、王都に向かうぞ」


「それなら私も同行いたします。おい、そいつらを見張っていてくれ!」


 大分予定の時間を過ぎましたが、カウアイ隊長を伴い漸く王都に向かう事になりました。

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