恫喝
「なっ、体が、体が凍る!」
第三騎士団の騎士の足元から伸びた氷は、まず足を固定して動けなくした後時間をかけて体を伝って行きます。
「馬には罪はないから、お馬さんは凍らないようにしました。これで私が凍らせたと納得していただけましたか?」
「ふざけるな!国王陛下の臣である我等にこのような仕打ち、許されると思うのか!早くこの魔法を解け!」
命を握られているというのに、まだ余裕ですね。自分達は死なないと、タカを括っているのっしょうか。
「国王陛下の臣と言うなら、我等とて同じ。先に切りかかった以上、返り討ちにあったても文句は言えぬのではないか?」
人の話を全く聞かない人達ですね。本当に息の根を止めてやろうかと思ってしまいました。
でも、お父様の立場もあるのでそれは出来ません。
「お父様、殺さない程度に手加減してありますので、王都から誰か呼んだ方がよろしくないですか?」
「そうだな。どうやら私も冷静ではなかったらしい。そなた達、これを持ち王城の第一騎士団の者を呼んで来てくれ」
お父様はマゼラン家の家紋が入った印章を騎士に持たせると、ニ騎を王都に走らせました。
「貴様ら、覚悟しておけよ?我等の実家がこの始末を着けてくれるだろう。その時に後悔しても遅いのだからな!」
脅迫も実家頼みとは情けない。虎の威を借る狐という諺がこれほどしっくりくる人も珍しいのではなかろうか。
「お父様、馬車の中で待ちましょう」
「そうだな。使いに出した者達が戻るまで時間が掛かるだろう」
お父様と馬車の中で少し休もうと思ったのですが、お馬鹿さん達がそれを許してくれません。
「泣いて土下座し、許しを請うなら愛人にしてやろう。俺様は寛大だからな。まな板なのが気に食わないが……」
「お黙りなさい」
聞くに絶えない言葉を聞き、首までだった氷を口元まで増殖させました。
「後が面倒になるから殺さないだけで、殺せないのではないのです。少ない脳ミソをフル回転させて言葉を選びなさい」
馬車に乗りかけていたのですが、降りてお馬鹿さん達の方に歩きます。
懐から愛用の扇を取りだし、これ見よがしに見せ付ける。
「凍った物体というのは、脆くなるとご存知かしら?鍛造された鉄の剣も、女子供が持つ扇で叩かれただけで……」
地面に突き立てられたまま凍った剣に、無造作に扇をぶつける。
軽い扇が当たった箇所には亀裂が入り、ピシピシと音を立てて折れてしまった。
地面に落ちた柄と剣身は、衝撃で粉微塵に砕け散る。
「こうなってしまうから、バランスを崩して倒れないようにした方が宜しいわよ。自分だけならまだしも、倒れた先に別の人が居たら共に砕けてしまいますもの」
騎士達は、自分達の体が剣のように砕けた様子を想像したのか静かになりました。
本当は厚い氷で拘束しているだけで、あの剣は扇を媒介に冷凍魔法を重ね掛けしたんだけどね。
「お父様、静かになりましたわ。休憩いたしましょう」
あら、うちの騎士とお父様まで静かになってしまいました。ちょっと薬が効きすぎたでしょうか。
「御当主様、王都の方角より土煙が!騎馬が早駆けでこちらに迫っているようです!」
数時間が経ったでしょうか。馬車の中で半分寝ながら待っていると、うちの騎士が叫びました。
「先頭は、当家の騎士です。戻って来たようです」
私とお父様は馬車から降り、お父様と騎士達は馬車の前で三角形に布陣。私は馭者席で魔法を撃てるように準備します。
うちの騎士が連れてきたからといって、敵対行動を取らないとは限りませんから。
「我等は王都第一騎士団の者、私は部隊長のカウアイと申します」
王都からの騎士は、全員が下馬するとお父様に膝をつきました。
合流したうちの騎士は、素早く下馬して馬車を守る配置につきました。
「マゼラン辺境伯である。手数をかけたな」
「いえ、元は騎士団の不始末。辺境伯様にはご迷惑をお掛けしました」
このカウアイ隊長はまともな人みたいです。お父様もうちの騎士達も、体から幾分力が抜けたようでした。
しかし、この場には空気を読まないバカが存在しました。
「カウアイ、こいつらが魔物と対峙する我等を背中から撃ったのだ。不意を突かれ、氷魔法で凍らされた!早く何とかしろ!」
身内である王都の騎士団員が到着して、勝てると調子に乗ったようです。
カウアイ隊長は立ち上がると、腰に差した剣を流暢な動作で抜きました。