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愚者

「こちらはマゼラン辺境伯様の一行である。停止して所属を答えられよ!」


「俺達は王都第三騎士団の者だ。これはお前たちがやったのか?」


 こちらの呼び掛けに応え停止した騎士団ですが、代表者の態度は尊大で横柄です。


「マゼラン辺境伯だ。魔物の大群に襲われたので撃退した。それがどうかしたか?」


「どうしたもこうしたもない。王都の直轄領で我々王都騎士団に断りもなく戦闘するとは、貴様ら反乱する気か!」


 何でしょう、準貴族たる騎士とは思えない言動です。

 勝手に戦闘するなと言うことは、黙って殺されろと言うのでしょうか?

 王都に逃げた場合この大量の魔物を引き連れて行く事になるので、その選択は論外です。


「反乱?これは異なことを。我々はただ、己の身を守っただけだ!」


「ふん、どうだかな。まあ良い、この事は不問にしてやる。魔物の事は忘れて早々に立ち去るがよい」


 今の答えで騎士達の思惑がわかりました。魔物討伐の功績を取り上げるつもりです。

 父もそれに気付いているようで、立ち去る様子はありません。


「その前に聞きたい。普段巡回が回っていて定期的に魔物を狩っている王都直轄領で、何故このように大量の魔物が現れた?」


 父の質問に、騎士は言葉に詰まり父を睨み付けます。

 ああ、こいつらは手柄を横取りしたいだけでは無かったのですね。

 自分達の怠慢か何かで魔物が大量発生したのを誤魔化したかったと。


「それは田舎貴族には関係ない事だ。王都直轄領の問題は、我々王都の者が片付ける。いらん事を喋るな!」


「その田舎貴族に尻拭いをさせたのは誰かな?今回の事態は、国王陛下に直に報告させてもらおう」


 家をディスられて父も怒ってますね。

 身分的にはこちらの方が遥かに上なのです。こんな口をきかれる謂れはありません。


「はっ、自分じゃ何も出来なくて国王陛下に告げ口か?色ボケ伯爵らしいな!」


「妻に厭きたら、殺してすぐに次の女を迎えた好色だからなぁ!」


 他の騎士まで声をあげて父を貶め始めた。

 この分だと、うちの騎士も一緒に問答無用で王都の騎士を殲滅しかねない。


「当家は陛下より、正式に辺境伯の身分を頂いています。一代爵の騎士爵に貶められる筋合いはありませんよ?」


 国により召し抱えられた騎士は、騎士爵という身分を国王陛下から賜る。

 これは当人だけの爵位で、相続させる事が出来ないので一代爵と呼ばれる。

 因みに功績のあった民間人は準男爵という爵位を賜る事がある。こちらも相続出来ない一代爵だ。


 この騎士爵と準男爵は準貴族と言われ、下級貴族よりも身分が低い。

 なので、その上の上級貴族である私達にこんな口をきいて良い存在ではない。


「何だこのガキは?俺達と話したければ、もっと色気を着けてからにしろ!」


「おい、何を言う?フニフニのほっぺたをつついて、すべすべな手足を撫でるのは至福の時間だろう?」


 ひいいぃぃぃ!向こうの騎士の中に変態がいるぅ!

 逃げたい!でも、逃げたらマズイ。逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!


「定期的に巡回して間引きしている筈の魔物が、これだけ発生したのは何故かしら?私達が魔物を殲滅したタイミングであなたたちが現れたのは偶然かしら?」


「ガキ、何が言いたいんだ?」


 都合が悪いことを指摘されたからと言って、僅か四歳の幼女に殺気を放つなんて野蛮な男達ですね。


「怠慢で増えた魔物に手を出しあぐねていたら、私達が殲滅した。だから手柄を横取りすると同時に怠慢をうやむやにしたいのではなくて?」


「くそガキ、王都直轄の騎士団を愚弄するか!無礼討ちにしてくれるわ!」


 剣を抜いて構える王都直轄騎士団の騎士達。

 父とうちの騎士も剣を抜いて構えた。


「身分は私達の方が上です。無礼討ちには該当しません。逆にあなた達は無礼討ちにされても文句は言えませんよ?」


「たった五人の騎士であの大群を殲滅したなんて嘘をつくからだ!王都直轄騎士団を騙した罪は重いぞ!」


「あら、誰が五人の騎士で殲滅したなんて言いました?あれをやったのは私ですよ?」


 王都直轄騎士団の面々は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になり、すぐに大爆笑の渦に包まれた。


「な、何を言い出すかと思えば!絵本の童話と現実の区別もつかんのか!」


「ガキが魔物を殲滅しただぁ?誰がそんな与太話信じるんだよ!」


 信じ難い話だってのは自分でも分かってるわよ?

 でもね、抜いた剣を地面に刺して両手で腹を抱えて笑う程の話かしら?


 ねぇ、お父様と騎士の皆さん。同情したような、温かい目で王都直轄騎士団を見ているのは何故なのかな?

 一人として私のフォローをしないのは、何でなのかな?


「お望みとあらば、この場で証明して差し上げますが?」


「ワハハハハ、ゲホッ、ヒィ、ヒィ、出来るのなら、アハハハ、やって、貰おうじゃないか……ハァ、く、苦しい!」


 ええ、ええ。今すぐにやって差し上げましょう。

 笑い転げた、その情けない姿で永遠に凍りつきなさい。


「大丈夫、手加減はしておくから。直ぐに楽になんかしてやらない。体が凍っていく恐怖を味わいなさい。永劫の獄凍(コキュートス)!」


 魔法名を唱えると、王都直轄騎士団の足元から白い冷気が立ち上る。

 冷気はピシピシと音を立てて騎士の体に纏い付き、分厚い氷を形成していく。


 さあ、もう後悔しても遅いわ。あの魔物達と同じ運命を辿りなさい。

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