やらかしました
朝早くにダーダネルスの領都を出発し、そろそろダーダネルス領から王都の直轄領に入ります。
日本と違い、○○県やら○○市なんて看板はありません。
踏み固められた一本道が、見渡す限りの草原を貫いています。
「魔物も盗賊も出ないのですね」
「街道沿いは騎士団が巡回しているからな。大体、魔物はうちの領で食い止めているから、この辺りには自然発生した少数しかおらん」
うちの領は魔物が発生しやすい森を抱えているけど、普通は魔物被害はそうそう無いそうです。
被害が多いのは、魔物よりも盗賊。でも、武闘派であるうちの馬車に襲撃をかける盗賊は皆無だそうです。
「極々たまにいるんだがなぁ。ここ数年は盗賊も腰抜けばかりで出現せんのだ」
お父様、戦闘狂説が浮上しました。
最近獣人との戦いもなく、魔物も歯応えがないそうです。
「御当主様、十時の方向に魔物が!大群です!」
早速父が建てたフラグが回収されました。こんな展開、ゲームでも小説でも無かったと思います。
「敵が多すぎて地面が見えません、敵が七分に地面が三分、敵が七分に地面が三分です!」
「なっ、そんなに多くかっ!何としてもユーリは守るぞ。二人はユーリを連れて王都へ逃げろ!」
幾ら父が強くて無双出来、配下の騎士が強くても。一度に相手を出来る数は知れています。
数の暴力で押されれば、守りを突破されて弱点(私)を攻められます。
実際はそんな心配要らないのですけどね。こんな事もあろうかと、と言う奴です。
「お父様、私も戦えます。まずは魔法で数を減らしますので、撃ち漏らしをお願いします」
「そうか、お前もマゼラン家の直系だな。少々早いが実戦デビューか。よし、ユーリは守る抜くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
父が先頭に立ち、騎士は逆Vの字を描くように左右で構えます。
私は馬車の馭者台に立ち、これから行使する魔法を脳裏に思い浮かべました。
あらゆるネット小説で発揮されてきた、日本人の異常な想像力を発揮する時です。
思い浮かべるのは、全ての電子が動きを止めた世界。
この手のシーンでは定番の魔法。
目を軽く閉じて集中し、両手を迫り来る魔物の集団の方へと向けます。
イメージは充分。魔力を集め、脳内に描いた光景を現出させるため詠唱を行います。
「そは、静謐なる世界。永劫の時の中に凍りつけ。現出せよ、永劫の獄凍!」
目を開き、魔力を解放した瞬間。全ての音が消え辺りを静寂が支配しました。
「撃ち漏らしを……居なそうですね」
「ユーリ……お前は何と言う魔法を!」
父から少し離れた先は、地面から凍り付き純白の世界となっています。
そこに乱立する樹氷の数々。言うまでもなく、私達を喰らおうと迫っていた魔物の成れの果てです。
「少し、やり過ぎましたか?」
「「「「「少し所じゃないっ!」」」」」
騎士まで揃って突っ込み入れてくれました。
威力が足りなくて被害が出るよりはましだと思うのですが。
「こんな大魔法を使って、魔力は大丈夫なのか?」
「ずっと鍛練していましたので、まだまだ余裕です。あとニ、三発は撃てるかと」
「「「「「撃たんでくれ!フリじゃない、フリじゃないからな!」」」」」
本当に息が合ってますね。命を預け合うのですから、喜ばしい事だと思います。
「ユーリ、中の魔物は生きていないよな?」
「冷気無効のスキルがあれば生存しているかもしれません。なので断言は出来かねます」
どんな種類の魔物が集っていたか知らないので、その可能性は否定出来ません。
まあ、うちの領内でもそんな強い魔物は希なので、それより弱い魔物しか出ない王都直轄領なら心配ないと思います。
「それなら大丈夫だと思うが……この氷はどれくらいの時で溶けるのだ?」
「込めた魔力量からの推測で、二年から三年は保つかと思います」
はっちゃけました。反省も後悔もしてません。
だって、領都の屋敷ではこんな大規模魔法の練習出来ないんですよ!
使ったら最後、領都の半分が氷漬け。当然範囲内の人間は即死です。
僅か四歳で大量殺人の犯人として指名手配なんて、許容出来る筈がありません。
なので、実戦用の魔法は使いながら加減を覚えるしかないのです。
ずっとそうでは困るので、練習場所を確保しようとは思っていました。
これは良い機会かもしれません。前から考えていた件を前倒ししましょう。
「お父様、森の中の館を私に頂けませんか?あそこで魔物を狩りながら魔法の練習をしたいと思います」
「ふむ、魔物討伐の際の拠点にしている館か。確かに戦いの度にこれは困るが……あそこでは手狭ではないか?」
「住むわけではありません。魔法の練習に時折訪れるだけです」
定住するわけではなく、魔物狩りをする時のみ滞在する。
ただ、一つ条件を付けたい。それを認めてもらわないと、私の野望が達成できない。
「それは帰りまでに考えよう。今すぐに決めなければならない事ではない。……あれは?」
二時の方向から、十騎の騎士がこちらに向かっている。
また厄介事にならなければ良いけど。