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青き血

 魔力を温泉に変換してから、もう半年が経ちました。

 あれこれ試行錯誤したものの、母を助ける魔法の開発には至っていません。


 ネット小説の主人公達は日本人の想像力を駆使してチートな魔法を使っていました。

 私も日本の漫画やアニメの恩恵は受けてますから、メイドさんや騎士さんが呆ける程度にはチートです。


 でも、衰弱を回復するってどういうイメージでしょう?

 温泉は失敗しました。栄養ドリンクとか漢方薬とかは、魔法で再現すると言うより食事療法の領域です。


 あとは疲労回復。筋肉中に乳酸が溜まると疲労するんでしたっけ?

 あれは間違いだったと聞いた気が……


 進展が無いまま月日が流れていきます。

 部屋の中は魔法道具で快適温度が保たれていますが、窓の外では木立の葉が枯れ、真っ白な雪が積もり、それが溶けると木々に新たな葉が育ちます。


 魔力の量と扱いが向上していく中、その日は来ました。

 春になりもうすぐ一歳になるある日、屋敷は朝から悲鳴が飛び交いました。


「奥様、奥様!」


「王都に早馬だ!ご当主様にお知らせしろっ!」


 教育が行き届き、余程の事がない限り大声を出さない騎士やメイドさんの叫び声。

 内容から、その理由はすぐに察せられました。


 間に合わなかった。小説では母が亡くなるのは王太子と会う園遊会の直前。まだ二年の猶予があったはず。


 となると、この世界はゲームの世界じゃない。似てはいるけど、全く同じじゃない。

 ならば、未来の事は今を生きる人達の行動で変わる。


「お嬢様、お待たせいたしました。朝食をお持ちしました」


 いつものメイドさんが朝食を運んでくれた。

 屋敷内は混乱しているでしょうに、頭が下がります。


「あら、お珍しい。泣いておられるとは」


 そっと柔らかい布で拭われる感触で、初めて私は泣いていたと自覚出来ました。


 母に会ったのは一度きり。名付けの時の包容が最初で最後でした。

 今世をゲームの世界と割りきっていたつもりでしたが、思いきれていなかったみたいです。


 二日後、馬を飛ばして帰還した父は手際よく葬儀の準備を済ませました。

 父に抱かれ母を見送る私は泣きませんでした。


「婚儀のご予定ですが……」


「ああ、準備は進んでいる。約定通りと先方に伝えよ」


 葬儀が終わったばかりだというのに、再婚の話を進める父と親族たち。


 母は先代王の王弟である公爵様が作った唯一の娘でした。祖父母は事故で早逝し、母は婚約者である父と共に育ちました。

 現王の従姉妹とはいえ、後ろ楯である両親を失い、病弱な母は婚約を解消されてもおかしくはありませんでした。

 しかし父は王家の血を盾に、母が死亡した場合即座に再婚するとの約束で婚姻を強行しました。


 辺境伯家に跡取りの男子が居ない状況は、家督争いを勃発させる危険があります。

 良からぬ事を企む輩を作らぬよう、急ぐのが当主の務めなのです。


 小説で読んでいましたし、地球でもそういった過去があった事は知っています。

 知識としては知っていましたが、それが我が身に降りかかるとは夢にも思いませんでした。


 日本人から見れば憤慨ものですが、この世界ではそれが常識。まあ、中には王候貴族の責務など何処吹く風で、自身の欲求に流される方もいらっしゃいますが。 私にも青い血が流れている以上、責務を全うすることを求められるでしょう。

 と言っても、女性の身でやれる最大の責務は政略結婚なのですけどね。


 責務は負いますが、反面権利を行使出来るのも青い血を持つ者の特権です。


 マゼラン家の権利は強く、領地であれば令嬢である私はほぼやりたい放題が出来るでしょう。


 しかし、それは家の力があればこそ。当主である父や一族の皆の反感を買えば、病没という名の毒殺もあり得ます。


 私の望みを叶えるのは、現状難しいとしか言えません。

 でも、やり遂げてみせましょう。望外に得たこの人生、恐れる物はありません。


 西島アヤという女優の培ってきた物を全て使って、ユーリ・マゼランを演じきってみせます!

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