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悩みの種

「ほ、本当に光魔法を使っている……魔法の素質がある子は、こんなに早く魔法を使うものなのか?」


「ご当主様、いくら才能があろうとも一才足らずで魔法を使うなど常識外れにも程があります!」


 あれから更に数日。王都での用事を早めに終わらせて領地に戻った父は、目の前の光景に絶句しています。


「ぶぁー、だぁだぁー」


 呆然とする父に笑いかけて、光の珠を父の周囲に舞わせました。

 警護の騎士さんとメイドさんは、何か諦めたような目付きです。

 人間諦めが肝心という言葉は、異世界でも通用するのでしょうか。


「……ユーリが光魔法を使える事は確実として、他の属性を使った形跡はあるのか?」


「昼夜交代で付き従っておりますが、今の所は確認されておりません。」


 そりゃあ使わないようにしてるもの。今私が目指すのは光魔法の熟達ですから。


「時間は?どれだけ連続して魔法を使っている?」


「その時々により差はありますが、長い時は一時間を越えております」


 長く使わないよう努力はしているのだけど、夢中になるとつい忘れてしまうのよね。

 前世では成人した社会人だったとはいえ、やはり魔法を使えるというのは甘美な誘惑なのです。


「既に魔力量も一般的な魔法使い並みか……将来がどうなるか楽しみでもあり、怖くもあるな」


 心配事を増やしてしまったみたいで申し訳ない。

 でも、元から四属性使えていた筈だし、魔力量も多かったので私の責任では無いと思います。


「この事を知っている者は?」


「私と十名の護衛騎士のみです。箝口令は既に強いております」


「上出来だ。呉々も広めるような事の無いように」


 メイドさんと騎士さんは、揃って無言で頭を下げました。結束が固いようで何よりです。


「国境を守る我が家に強力な魔法使いが産まれる事は純粋に嬉しい。だが、その魔力はお前を損なうかもしれん」


 剣ダコでゴツゴツした手が頬を撫で、私は小さく短い指で父の指を握る。


「出来るだけ早く、魔法の修行をさせねばな」


 武を担当する貴族家の当主としては、戦力となる強力な魔法使いの誕生は歓迎。

 しかし、その魔力が私自身を傷つけないか、父親としては不安。


 それを解消するため、可能な限り早く魔法の扱いを習得させたい。

 私を想う気遣いをありがたく思いつつ、既に制御も出来ている事を伝えられず申し訳なく思った。


 その後五日間の観察期間を経て、私は光魔法しか使えないと判断された。

 使えるのが攻撃力のない光の珠だけだと思われた為、特別警戒体制は目出度く解除される運びとなる。

 メイドさん、それに騎士の皆さん、ご迷惑をおかけしました。


 それから半年、食事と睡眠以外の時間を全て光魔法の修練に充てた。

 今では光の珠は五つにまで増え、部屋の中で空中戦を繰り広げるまでになっている。


 魔力の消費と回復を繰り返したせいか、身に纏う魔力が一段と増えたような気がする。

 少ないよりは多い方が良いと思うし、それは良いのだけれど。


 問題は、この光魔法でどうやって治癒を行うか。

 この部屋に出入りする人間に衰弱している者や病気を抱えている者はいない。

 居たとしても、いきなり魔法の実験を行うなんて恐すぎる。


 まずは自分で試すしかないと判断。体を巡る魔力を光魔法に変換していって……


 全身が光を放つようになりました。掌に集めた魔力を光に変換したら光るのだから、体の魔力を光に変換すれば全身が光るわよね。


 では、魔力を癒しの力に変換する?

 癒しと言えば温泉。この世界にも温泉はあるのかな?


 なんて考えていたら、体がポカポカと温かくなってきました。

 これは成功した!と思ったら。


「お嬢様、お食事の時間で……お嬢様ぁ!何故ずぶ濡れに!」


 離乳食のワゴンを押してきたメイドさんは、私を見るなり絶叫。

 素早く服を脱がすと、柔らかい布で全身を拭いてくれました。


 どうやら、魔力は癒しではなく温泉水に変換されたようです。


「どうしたんだ!」


「ご当主様、お嬢様が全身ずぶ濡れに!」


 メイドさんから状況を聞いた父は、頭を抱えてしまいました。

バレてしまった以上、制御出来るので安心だと伝えておきましょう。

 魔力を手に集中し、温泉水に変換しました。

 温めの温水が玉となりベッドの上にプカプカと浮かびます。


「ユーリが作り出したのか。火と水の複合魔法だと?火属性と水属性の制御までこなしているというのか?」


「天才という言葉ですら足りない才能をお持ちですね」


 父とメイドさんは、どこか遠い場所を見つめて現実から逃避した。


 ネット小説では定番のチート転生者ですけど、実際に居たら悩みの種にしかならないんですね。一つ勉強になりました。

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