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私は誰?

 メイドさんに抱かれ、廊下を移動しています。

 白く塗られた壁に赤い絨毯が敷かれた床。所々に小さな机が置かれ、高価そうな壺が置かれています。

 壁には静物画や人物画が飾られていて、典型的な貴族の館といったところでしょうか。


「お嬢様はお部屋から出るのは初めてでしたね。そんなに珍しいですか?」


「うぅ……あぅぅ」


 反射的に答えると、コトバニなっていなくても伝わったのかメイドさんは嬉しそうです。


「さあ、着きましたよ。旦那様、お嬢様をお連れしました」


「うむ、ご苦労。入りなさい」


 観音開きの扉が開かれ中に入ると、豪華な装飾が目に入りました。

 ガラスで覆われた照明器具と思われる器具に品の良い絵画。テーブルは装飾が凝っていて、高級品だと予想がつきます。

 三人掛けのソファーには体格の良い男性が座っていますが、沈み具合から柔らかく座り心地は良さそうだと判断出来ます。

 奥にある天葢付きのベッドは三人は楽に寝れそうな位の大きさで、金髪碧眼の美しい女性が上体を起こしていました。


「利発そうな顔をしている。期待出来そうだな」


 父親と思われる男性は、表情を変える事なく淡々と 話す。

 でも、私は気付いてしまった。目尻が少し下がり口の端が僅かに上がった事を。

 照れ屋なのか使用人の前で感情を出すことを避けたのかはわからない。


 父親に顔を見せた私は、メイドさんに抱かれたままベッドサイドに移動する。

 女性はメイドさんに差し出された私を恐々と抱くと胸元に引き寄せた。


「ああ、可愛い子。もう少しこの体が丈夫なら……」


「奥様、出産に耐えられただけでも奇跡なのです。ご無理はいけません」


 申し訳なさそうにしながらも、歓喜が浮かぶ女性の顔を見つめる。

 母親で確定なのでしょうけど、何処かで見た覚えがあります。


 仕事柄人の顔を覚えるのは得意で、仕事関係の人ならまず忘れません。

 そんな私の記憶に引っ掛かるこの人は、前世で会っている?


 魔法がある異世界の住人と、日本人の前世の私が会っていたなんてあり得ないでしょう。

 軽く混乱した私は、手掛かりが得られないかと父親を見る。


 先程は気付かなかったけど、父親も覚えがあるわ。

 うん、覚えがあるどころの話じゃない。会った事は無いけれど、毎日のように見ていた顔。


「旦那様、この子の名前はお決まりですか?」


「ああ、ユーリにしよう。我がマゼラン家の長女、ユーリ・マゼランだ」


 やはり、その名前になるのですね。

 この世界に産まれる前の私が舞台の上で名乗る筈だった名前。


 辺境伯家という高位貴族家の令嬢で、容姿端麗、才色兼備。強大な魔力で魔物を倒し、獣人達を狩って虐殺する。


 神の愛をあなたににおける主人公のライバルとなる悪役令嬢。

 ユーリ・マゼランが今世の私みたいです。


「奥様、そろそろお休みになりました方が……」


「もう少し、もう少しだけ」


 私を抱く母の腕に、離すまいと力が入る。

 小説では、母は体が弱く出産後回復する事なく衰弱していく。

 ポーションや治癒魔法は怪我を治す事は出来ても、病気や衰弱には対応出来ない。

 この世界がカミアイの世界そのままであるならば、三年程で命を落としてしまう。


「ごめんなさい、心配させてしまったわね。大丈夫、私は大丈夫よ」


 考えが顔に出てしまったのか、母は私を励ますように頬を撫でる。

 体調が悪く辛いだろうに、私に心配させまいと母は笑顔を作る。

 この人が強いのか、子を持つ母親だから強いのか。前世で結婚していなかった私にはわからない。


「無理をするな。また体調が良いときに抱けば良い」


「そうですね、そうします。ユーリ、またね」


 母は私をメイドさんに渡すと寝具に体を横たえる。

 隠そうとしているみたいだけど、無理をしていたようで呼吸が荒い。


 私はそのままメイドさんに部屋へと連れ帰された。

 産まれたばりの赤ん坊の私には、出来る事など何もない。

 今の私にやれるのは、魔力を操り少しばかりの風を起こす程度の事だけ。


 ならば、やれる事をやって足掻きましょう。

 この魔力で、魔法で母を助ける手立てを作ってみせる!

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