反面教師
言い掛かりをつけてきた馬鹿王子ですが、全てを論破され周囲からの視線が凍える程に冷たくなりました。
「しかし、ワイバーン三匹を独り占めは酷いのではないか?ツガルの騎士から買い入れの打診があったと聞いたぞ!」
「あら、復興に追われるツガル領に、ワイバーンを購入する余力があったのですの?」
元から貧乏な領地な上、復興にお金がかかるというのにそんな物を買っている余裕は無い筈です。
「ワイバーンは滅多に討伐されないので、その素材は高額になりますわ。それを買う資金がツガル領にありましたの?」
「そ、それは後払いでだなぁ……」
痛い所を突かれ、馬鹿王子の歯切れが悪くなりました。
「大体、そんな情況でワイバーンのバッグを欲しがるというのは問題ではないの?」
「そんな理由で欲しがる訳ないじゃない!根も葉も無い事を言わないでよ!」
慌てて否定するレイナですが、聞いていた生徒達は私の言葉を信じたようです。
「貴様はレイナを侮辱するか!ただではおかないぞ!」
「では、何のためにワイバーンを買い取るおつもりだったのですか?」
聞き返してみると、レイナは目を泳がせ挙動不審になりました。
「肉を食べたかったのですか?それとも骨や革で武具を作るつもりでしたか?」
ワイバーンの素材の一般的な使用法を挙げてみせましたが、レイナは答えません。
どれも贅沢とされている事ですから、非難される事に変わりはないからです。
「元々、ワイバーンのバッグが欲しいと討伐を強行したのが発端。だから国も支援をしなかったのですわ」
「なっ、レイナがそんな我が儘を言う筈がない!そこまでしてレイナを陥れたいのか!」
「それは国王陛下や重鎮の方々もご存じです。お疑いであるならば、お聞きになれば宜しいかと」
言い切った私に対し、馬鹿王子は唇を噛み締め言い返せないでいます。
国王陛下の名を出した以上、些細な嘘であっても重罰に処せられます。
なので、陛下の名を出して嘘をつく愚か者はいません。
ましてや、私は問い合わせれば良いと断言までしているのです。
これが嘘の筈がない。この場に居る者は全員がそう判断しました。
「そんな事の為に領都を危機に陥れたの?」
「信じられねぇ。それでよく冷血姫様を非難したよなぁ」
見栄を張るのが貴族とはいえ、限度というものがあります。身の程を弁えない者に対しては容赦なく批難を浴びせられるのは何処の世界でも同じです。
「チッ、行くぞ!」
「あっ、ケント様!」
視線に耐えられなくなった馬鹿王子が逃げ出すと、レイナが後を追い取り巻きもそれに続きました。
「ユーリ様、災難でしたわね」
「ええ。でも、本当に災難なのはツガル領の領民ですわ」
統治する者が無能であった場合、そのツケを払うのは下の者達と相場が決まっています。
「私達も気を付けるべきですわね」
シャーリーの呟きに、それを聞いた者全員が感慨深げに頷きました。
レイナは反面教師として凄く優秀ですね。
「はぁ……気が重いですなぁ」
いきなりの声に発生源を見ると、中年男性の教師がチョコレートがけ蜂蜜タップリ生クリームマシマシカレーを食べながら黄昏ていました。
「先生、どうなされたので?」
「ユーリ嬢、殿下の成績ですよ」
その一言で、生徒は教師の苦悩の理由を知りました。
この学園には、普通の学校のような試験は存在しません。
内政や外交、マナーや礼節の授業はありますが、ペーパーテストは無いのです。
相手が上位か下位がで対応は変わりますし、公式な場か非公式か。周囲に人は居るのか居ないのか。財力や外交力の差等で対応の正解が変わる為です。
なので、普段の学園内での生活を教師がチェックし、常に採点をされているのです。
それを踏まえて馬鹿王子の言動を見てみると、採点の必要がない程に悪いのです。
情報の裏付けも取らず、感情で発言する。更には大勢の前で下位の者を非難し、過ちに対するフォローもなく放置。
最上位の王族が謝罪をする事はありませんが、非難した下位の者に対してフォローを入れるのは必須。
そうでなければ、反感を買う一方で人心が離れていきます。
この調子で期末まで過ごせば、馬鹿王子とその一味は赤点をとることになるでしょう。
取り巻きは自業自得で済むのですが、王族、しかも現在唯一の王子が赤点など王家の恥です。
例え王族といえども厳正な評価を下すのが学園の役目。ですが、王子が赤点という前代未聞の事態を許容出来ない。
教師達のジレンマとストレスは、凄まじいものがあるでしょうね。
「ユーリ嬢、何か良いアイデアは……」
「殿下が挽回なさる事を期待しましょう」
にっこりと笑って答えると、教師は力尽きて崩れ落ちました。
生徒を導くのが教師の役目です。生徒に頼らずにお役目を果たして下さいね。




