溜まるストレス
学園の講堂には、五十名近い人数が集まっています。座る位置は決まっておらず、顔見知りや派閥で固まっているようです。
私の両隣にはジブラルタル家とカテガット家の令嬢。周囲には騒動を見ていた人達が集まっています。
壇上に中年のおじさんが立ちました。学園長さんです。
「皆さん、学園に入学おめでとうございます。本年はケント殿下を始めユーリ・マゼラン嬢やシャーリー・ジブラルタル嬢といった、高位の方々が入学されています」
学園長が名を出したので、私が居る場所と馬鹿王子の居る場所に注目が集まりました。
「特にユーリ嬢は数々の功績を挙げられています。互いに刺激しあい、高みを目指し努力して下さい」
拍手に送られ壇上から退出する学園長。視線が全て私に集まったので、居心地が悪いです。
馬鹿王子は憎々しげに私を睨んでますね。苦情は学園長にお願いします。
学園での注意事項を幾つか説明され、入学式は終了しました。
「ユーリ様のクラスはどちらですの?私はBクラスでした」
「私はDクラスですわ」
この学園においてのクラス分けは、家柄を基準に分けられます。
ありがちな上位の家柄を集める方式ではなく、各クラスに均等になるよう采配されます。
なので同じ辺境伯家のシャーリー嬢とは分かれてしまいます。 馬鹿王子とも別クラスです。
これは、学園内で自分より高位や下位の貴族との接し方を学び練習する場だからです。
高位貴族を一クラに纏めたら、他のクラスは高位貴族との接し方を練習出来なくなります。
クラスに入ると、座る席が黒板に書かれていました。私は中央です。
数少ない高位貴族なので、皆に接触のチャンスを与えるようにとの事ですね。
埋まりつつある座席の全てから視線を感じます。恐らく、親から接近するよう指示を受けているのでしょう。
「注目!私はこのクラスを受け持つラナ・マンデブよ」
教壇には二十代終盤と思われる女性が立っていました。肩までの赤髪をストレートに伸ばし、意志が強そうな顔つきをしています。
体型はスリムで、運動が得意そうです。
「子爵家の娘だが、入学式でも説明した通り教師には身分は適用されない。礼を忘れぬように」
男のような話し方をする人です。体型も相まって、女性からもてそうな雰囲気です。
「それと、いつでもケンカなら買うわよ。脂肪の固まりなんて、邪魔なだけなんだからね!」
一部生徒の視線が、胸部装甲に突き刺さっていたようです。その話題はタブーですね。
「では、端から順に自己紹介をしていきなさい。まあ、必要ない人も居るけどね」
再び視線が私に集まりました。幼い頃に、色々とやらかしましたからねぇ。若気の至りというやつですよ。
順調に自己紹介は進み、私の番になりました。
「マゼラン家長女、ユーリ・マゼランよ。一応ケント殿下の婚約者ですが、気にしないでいただきたいですわ」
「冷血姫様を知らない貴族はいないわよね。はい、次の人」
わざと出さなかった二つ名を、先生に捕捉されました。無駄な努力でも、せずにはいられなかったのですよ。
奇抜な自己紹介をする者もなく、平穏に自己紹介は終了しました。
「残りの時間は自由なのですが、ユーリ嬢に質問したいが宜しいか?」
「質問ですか?お答え出来る内容ならば」
条件を付けずに「はい、どうぞ」なんて応じたら、どんな質問をされるかわかりません。
家や領の機密もあるので、答えられない質問もあると釘を刺すのは基本です。
「八歳でワイバーンを倒したと聞きましたが、本当ですか?」
「はい、ツガルの領都で……」
ワイバーンの質問を皮切りに、色々と質問されました。
通常下爵から声をかけるのは無礼にあたるので、聞きたい事があっても自分から聞く事は出来ないのです。
今は質問に答えると応じているので、聞きたい事を聞くチャンスです。皆我先に質問してきました。
「今日はここまでですね。ユーリ嬢、ありがとうございました」
「いえ、私もクラスの皆と触れあえて有意義でしたので」
にっこりと笑顔を崩さずに答えます。実際はかなり疲弊しましたけどね!
苦労を表に出さず、下の者に応える。それも高位貴族の役割なのです。
「幼い頃からご活躍されるとは、流石でございますね」
「色々と聞いた噂も、まだ大人しいものだったのですね」
冒険者ギルドや光神教の話を聞いたクラスメートは、すっかり取り巻きと化してしまいました。
今も下校する為停車場に向かう私の周囲を取り巻いています。
「はんっ、下の者を騙して取り巻きにしたか。つくづく見下げた奴よな」
「これは殿下、ごきげんよう」
朝同様、私の挨拶は完全に無視されました。余程あのメイドがお気に入りだったのか、レイナにあれこれ吹き込まれたのか。
そうなるだろうとは予想していましたが、結構ストレスが溜まりますね。
質問攻めのストレスも含めて、セティーとミリーに癒してもらいましょう。




