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入学

 春。それは別れと出会いの季節。これから始まる新たな生活に胸膨らませる季節。


「ユーリ様、そんなに何度もため息をつかなくても」


「そんなに学園が嫌なのですか?」


 学園に向かう馬車の中、ため息を連発する私にセティーとミリーが呆れています。


 あの馬鹿王子と顔を合わせると思うだけで気分が重くなります。

 通常、夜会等には婚約者をエスコートするのが常識です。しかし、今までに王子にエスコートされた回数はゼロ回です。


 王子から同道の手紙が来なかったり、王子が出る夜会は全て出なかったからなんですけどね。


 夜会なんか出たくなかったのですが、辺境伯令嬢として全く出ない訳にはいかなかったのです。

 出た夜会で懐かしの二人に再会出来たりと、嬉しい事もありましたけどね。


 過去を振り返っている間に学園に着いたようです。上級貴族用の停車場に止まり、馬車を降ります。


「だから、何度言えば分かるのだ!下級貴族はこの場に入る事は許されん!」


 少し離れた場所で騒ぎが起きました。

 上級貴族用の停車場には、下級貴族は入る事は出来ません。それを無視して入ろうとしている者が居るようです。


「早速イベントを起こしているわね」


 それが誰かを確認する必要はありません。「神の愛をあなたに」のヒロイン、レイナです。


「上級貴族の停車場に侵入するなんて……」


「なんて常識知らずなの?どんな教育をされたのでしょう?」


 当然、周囲にいたご令嬢方の評判は最悪ですね。

 ゲームでは自然な流れのイベントでしたが、現実になるとこんなに引くイベントなのですね。


「何が起きている?」


「これは殿下!おいっ!」


 このイベントの相手役、馬鹿王子の登場です。それに気付いた警備の者は、レイナを隠すように人の壁を作りました。


「殿下、お下がりください。ここは危険です!」


「俺は何があったと聞いたのだ。聞こえなかったのか?」

 目的が分からない下級貴族が侵入している場に国の重要人物が現れたのです。まず遠ざけるのは正しい対応なのですが。


「不審者が侵入しています。なので殿下、お早くこの場からお離れ下さい」


「誰が不審者よ、失礼ね!」


 この学園に通えるのは貴族のみです。例え最下級の男爵家であろうとも、最低限の教育を施されているのが当たり前なのです。

 なのに、立ち入り出来ない場所に平気で立ち入るなどありえません。

 あり得ない事が起きたなら、その者はルールを知らない。つまり、貴族でない者が侵入したと考えるのが自然です。

 この場にいるはずのない貴族以外の者、不審者以外の何者だと言うのでしょう。


「レイナか?その女性は不審者ではない。私の知り合いだ」


「わかったでしょう、私は殿下に挨拶したいだけなの!」


 馬鹿王子の言葉に、警備は僅かに警戒を解きました。ですが、レイナの侵入を阻む立ち位置は動きません。


「私が許す。レイナはこの停車場を使って良いことにする!」


「なりません。殿下のお言葉であろうとも、法は曲げられません」


 レイナを通そうとしない警備を睨む馬鹿王子。相手が退かないと覚ったのか、小さく舌打ちしました。


「もうよい、貴様の事は父上に報告する。覚悟するのだな」


 警備に捨て台詞を吐きレイナのもとに向かう馬鹿王子。見事な三下ぶりに、拍手を送りたい気分です。


「ふん、お前もいたのか」


「おはようございます、殿下。ご機嫌麗しゅう」


 馬鹿王子に発見されたので、優雅にカーテシーを見せ挨拶しました。


「どこをどう見たら期限よく見えるのだ。本当に嫌みな奴だな。おはようレイナ、朝から災難だったな」


 私に挨拶を返す事もなく、レイナと会話を始める馬鹿王子。二人で去る姿を、居合わせた貴族の子女は呆れながら見送りました。


「婚約者である冷血姫様にあの対応、宜しいのですか?」


 見覚えのない令嬢が憤りました。周囲の者は、言葉にしないだけで同じ思いのようです。


「所詮政略で決まった婚約ですもの。愛情の欠片も無い方がどうなさろうと、私は構いませんわ」

 付き合いは長くて三年です。断罪されるにしても、ざまぁになるにしても、それは変わりません。


「それよりも、入学式が始まってしまいますわ。皆様、講堂に参りましょう」


 多数の貴族子女を引き連れて講堂に向かいます。


 馬鹿王子はレイナとの仲を深めて、レイナは馬鹿王子の好感度を稼げてご機嫌なようです。

 でもね、ここはゲームの中ではないのよ。これだけの生徒の好感度を下げて、この先の学園生活はどうなるのかしらね。

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