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12話 裁縫店シモーネ&シモーナ




 恐ろしい話しだった。


 でも、冒険者ギルドってイイ人多いんだなぁ。

 あんだけやらかしたのに、お約束の喧嘩売られるとかもなかったし。


 やらかしたからだろ?とか思われそうだけど、避けられてる感じでもないんだよ。

 帰り際には「お疲れ様です」って何人かの冒険者が言ってくれたんだぜ? イイ人達なんだろうさ。





 俺たちはワンコを拠点に置いてきて、また三人になっている。


 この街ではペットを連れて歩いてる人をほとんど見ないんだ。

 ワンコ連れじゃ入れないとこもありそうだと思って、物陰でサクっとゲートだして屋敷の留守番に任命してきた。


 といっても、留守番というより待機って感じかな。

 ワンコ達は念話はできるが喋れるわけじゃないからね。

 




 予定どおりローブを買えそうな店を探していると、サクラが何か思いついたかのように話しかけてきた。


「ねえユウ。ギルドで聞いた話しだけどさ」

「ん? なんか思いついた?」


「うーん……。ありえるかな……いやないか。ないわよね」

「大丈夫か? そういう時はコウメイ先生に相談するのがオススメだぞ?」

「ごめんやっぱりよくわからないわ。気にしないで」


 間違ってようがガンガン意見だしてくれていいんだけどなぁ。

 それが正しいか考察するのはコウメイ先生のお仕事だ。


 しっかし距離はだいぶ縮んだと思うんだけど、いまだにサクラってわからんな。

 神様システムの解説役って言ってたけどさ、自分の意思もしっかりある。

 創造神に創られた存在とは聞いたけど、ステータスに眷属の表記はない。


 何者なんだろうか……。

 んーまあ、無理に聞くことじゃないよな。変な詮索は怪我の元だろ。

 今でも充分に役にたってくれてるんだ。そのうちわかるさね。



「そっか。ま、なんかわかればバウドさんには教えてやろうな。この国の人たちは本気で解決したいだろうしさ」

「そうね。わかったら教えるわ。あたしたちが気にしすぎるのも変な話しよね」


 ああ。それくらいでいいのさ。


 俺たちは精神操作を受けない。なんて、ただの予想でしかないんだ。

 確かに俺たちはサウスティルスに行って無事だった。

 でもそれってさ、ただ単に犯人にスルーされただけかもしれないんだ。


 そこまでリスクを負う必要はないさ。あくまで俺たちは部外者だ。



「よっし! ユウのローブ探しましょ! とびっきり変なヤツ!」

「アホかやめろ! 黒の無地とかでいいんだよ。服装が変だって言うからローブ買うのに、上に更に変なの羽織ってどうすんだよ!」





 お? おお?  話しながら歩いてるうちに綺麗な金髪お姉さん発見! 20代前半ってところか?

 服装も、この世界で見た人の中で一番って言ってもいいくらい綺麗に纏まってる。

 服屋とか詳しそうだな。ローブ買えそうなとこ聞いてみますかね。


 いや下心とかじゃないよ? ほんとだよ?

 今日はおっさん成分は充分だからな。バランスだよバランス!



「こんにちは綺麗なお姉さん。お尋ねしてもいいですか?」

「あら? 私かしら? いいわよ。どうぞ」


 落ち着いた印象を受ける綺麗な声。素晴らしいねえ。


「ありがとうございます。ローブを買いたいんですが、お店ご存知ないですか? 今日ティルスについたばかりでわからないんです」

「なるほどね。ティルスにようこそ。そうね。君のローブでいいの?」


「はい。俺の服装はティルスではおかしいんじゃないか? って仲間に言われちゃいまして……」

「確かに不思議な感じね。生地はよさそうだしダサくはないと私は思うけど……いいわ。ついてらっしゃい」


 案内までしてくれることになった。なんて親切な人なんだ。


 ナンパ成こ……ゲフンゲフンッ!

 ナンパではない。断じて違う。お店を聞いただけだ。下心など一切ない!大事なことなのでもう一度言う。下心など一切ない!





「ありがとうございます。俺はユウ、後ろの二人はコウメイとサクラです」

「コウメイと申します」

「サクラよ。よろしくね」


「ふふっ自己紹介ありがと。私はシモーネよ。今からいくお店にはサクラちゃんに似合いそうな服もいっぱいあるわよ」

「えっほんと!? ユウ聞いた? 私の服にお金使うから、ローブは安いのにしてね」

「待てサクラ。その着物姿……こだわりとかないのか?」


「え? 別にないわよ? これしか持ってないだけよ」

「そういうことだったのか。つうか考えてみたら俺らって全員着換え持ってないんだな」


 サクラのおかげで衝撃の事実に気付いた。

 俺たち三人全員が、替えの服なんて一枚ももってない。

 これやばくないか? やぶれたりしようもんなら服がねえ。


「なんか悲しいお話ししてるわね。ここがオススメのお店よ」





 どうやら到着したらしい。

 知る人ぞ知る名店って感じの素敵なお店。

 大通りから路地に入って少し奥、小さめでシンプルだけど、お洒落な喫茶店みたいな感じだ。


 赤茶色のレンガで固められた外装に小さめの木扉、そして緑の看板。

 その看板には【裁縫店シモーネ&シモーナ】と書かれている。


「おおー素敵なお店ですね。って、シモーネさんのお店なんですか?」

「そういうこと! さ、はいってはいって!」


 俺たちは促されるままにお店のドアを開ける。





「いらっしゃいませ。ってお兄ちゃん? おかえりなさい。お友達?」


 店内には金髪のかわいらしい店員さんが一人。10代後半ってとこかな。

 おそらく、この店員さんが看板に書かれていたもう一人。シモーナという人物だろう。


 シモーネさんのことを兄と呼んだ……よな? 聞き間違えか?


「ああ。ローブ探してるんだってさ。お友達じゃなくてお客様だよ」


 聞き間違いではないことを証明するかのように、シモーネさんは口調を変化させた。

 サクラは驚きすぎたのかフリーズしている。


 これは女装で確定か。

 しかしなんでだ? あんまガッカリしてないぞ俺。

 男でもいい。とかではない。それは断言できる。性欲が薄れてるのか?



「こんにちは。よろしくおねがいします。しかしシモーネさんが男性とは驚きましたよ」

「よろしくおねがいします! ――って、お兄ちゃん!また男の人騙したの!?」

「心外だなぁ。よく見てみろ。女の人だっているぞ」


「はぁ……すみませんお客様。兄は女装を趣味としていまして……そのぉー……」


 この世界で見た中で一番の美人さんは誰か? と聞かれれば俺は迷わずシモーナさんと答えるだろう。

 それくらい綺麗ではあるのだ。今でも、男にはまったく見えない。

 非難するのはおかしいよな。むしろ今から買い物させてもらうんだ。素直に賞賛すべしだよ。


「いえいえ。綺麗すぎて今でも男性だとは信じられませんが。まったくお見事な女装です」

「お! 君は話しがわかるね! 僕も妹のシモーナも裁縫職人なんだ。案内した以上、いい服見繕ってあげるよ」

「シモーナです。よろしくお願いします。がんばりますね」


「ありがとうございます。といっても今手持ちは銀板一枚しかないけどね」

「余裕だよ。お値段はピンキリだけど、普通のローブはそんな高いもんじゃないさ」

「ご予算は銀板一枚ですね。わかりました。おまかせください」





 こうして、俺たちは綺麗な兄とかわいい妹のお店、シモーナ&シモーネで買い物を済ませた。


 購入品は三点。

 黒いローブが2万イル。麻の上下セットが1万イル。シルクのワンピースが7万イル。


 ぴったり銀板なくなったぜ。

 サクラのワンピースに7万も使ったのはさ……


「ユウから初めて買ってもらう服だもの。大切に一生着られるような良い物が欲しいの」


 しおらしい言葉に騙されたのさ。俺がバカだった。


 既にお金を払い終えた今となっては……このありさまだ。


「フンフーン。やっぱりあたしのためにあるような服ね。あんたも感謝しなさい。たった7万でこの可愛い姿を見られるのよ!」


 もう一度言う。俺がバカだった。



 しかもその後すぐにまた着物に着替えやがった。

 慣れた着物のほうが落ち着くんだとよ。いつ着るのかわからんものに7万だ。ふざけやがる。


 サクラのおかげでまたもや一文無しである。返品が心をよぎる。




 しかし、返品したい衝動はシモーナによって抑えられた。

 俺たちにとってバッチリのサービス。

 オマケとして、大きめの布袋を3つくれたのだ。


 これに素材ぶっこんでバウドさんのところで売ろう。

 ま、サクラが喜んでるのは間違いなさそうだしな。たまにはご機嫌とっとくのもいいだろうさ。

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